トピック

「Microsoft Power Apps」による市民開発で
激増するアプリ需要に対応し
DX実現への道筋を切り拓く

ビジネス現場における業務のデジタル化意欲が高まり続け、業務効率化やデータ活用を実現しビジネスを加速させるアプリケーションの需要が増大を続けている。そうした中で急速にユーザーの裾野を拡大させているのがマイクロソフトのクラウド型ローコード開発ツール「Power Apps」だ。Power Appsがアプリケーション開発のあり方をどう変容させ、それが組織のデジタルトランスフォーメーション(DX)にどのようにつながっていくのか──。日本マイクロソフトのテクニカルスペシャリスト、増田雄一氏に話を伺う。

日本マイクロソフト株式会社 クラウド&ソリューション事業本部 ビジネスアプリケーション統括本部 ビジネスソリューション第一技術本部 テクニカルスペシャリスト 増田雄一氏

激増するアプリ需要に対応するために

 マイクロソフトによれば、今日、アプリケーション(以下、アプリ)に対するビジネス現場の需要が増大の一途をたどっている。一方で、アプリ開発の技術者は世界規模で不足しており、日本でも向こう5 年で約43 万人の技術者が足りない状況(※1)になると、日本マイクロソフトのテクニカルスペシャリスト、増田雄一氏は指摘する。

 こうしたアプリの需要と開発者数の極端な不均衡の問題を解決する一手が、ローコードによる“市民開発”を可能にするツールの活用だ。その観点からマイクロソフトでは「Power Apps」と呼ばれるローコード開発ツールを、業務の効率化・デジタル化を実現するクラウド型ツール群「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)を成す1つとして提供している。

 「Power Appsは、『Microsoft PowerPoint』や『Microsoft Excel』を操作するのと同様の感覚でアプリ開発を可能にするツールです。開発したアプリはWindowsや、マイクロソフト以外のモバイル端末やデバイスなどマルチプラットフォームで利用できます」(増田氏)

活用シーンに合わせた3つのアプリ形態を提供

 増田氏によれば、Power Appsで開発できるアプリの形態は組織での活用シーンに応じて3タイプが用意されているという。形態の1つは親しみやすいUIを特徴とする「キャンバスアプリ」であり、もう1つは業務を効率的に処理することを主眼とした「モデル駆動型アプリ」、そして3つ目が社内外に公開するWebサイト作成を主目的にした「ポータル」である(図1)。

 図1からも分かるとおり、Power Appsアプリの開発スタイルは3つに分かれているものの、それぞれで扱うデータはすべてデータベースの「Microsoft Dataverse」で一元管理される。これにより、例えば、ポータルアプリに入力された顧客からの問い合わせデータを、モデル駆動型で開発した「社内FAQ」アプリに反映させるといったアプリ間のデータ連携も簡単に行うことができる。

 加えてPower Appsの場合、Power Platform上で提供されている数々のツールはもとより、500種を超える他社製のSaaS、データベースなどとのデータ連携も“ワンクリック”で実現することができる。また、「データゲートウェイ」を介すことでオンプレミスのシステムとのセキュアなデータ連携も可能だ。

Power Appsの3つの形態

強化が進むローコード開発の機能

 Power Appsには業務でよく使われる処理のテンプレートも数100種類用意されている。これらを使うことで、社内の勤怠管理システムと連携した「休日出勤申請アプリ」やSFA/CRMシステムと連携した「営業活動報告アプリ」などを、より効率的に開発することができる。また、Power Appsで開発したアプリは、チームのコミュニケーションとコラボレーションを効率化する「Microsoft Teams」に組み込んで活用し、チーム全体の生産性向上に役立てることもできると増田氏は説明を加える。

 こうしたPower Appsの利便性や開発生産性の高さから、すでに多くの組織が活用に乗り出している。例えば、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)では、業務の各現場で働く担当者が相互に協力しながら、電車運行に関する報告業務用アプリや申請/承認ワークフローアプリ、ヘルプデスクアプリなど、それぞれの業務を効率化する仕組みをPower Appsを使って自ら開発・活用している。

 また、企業・組織の垣根を越えたユーザー同士の連携と情報交換・交流の場として、Power Appsユーザー会「Japan Power Apps User Group」がSNS上ですでに組織されており、2021年 9月時点で約2,000人が参加し、活発に活動している。

 Power Appsでは自然言語を使ったアプリ開発を可能にする「Power Apps Ideas」の機能も動き始めている。これは、人の自然語(テキスト)をコンピューターが解釈し、自動で関数化してくれる仕組みだ。さらに、Power Apps用の関数を作成できるローコード開発言語「Power Fx」もオープンソースソフトウェア(OSS)として公開された。これにより、オープンソースコミュニティによるPower Apps関数の開発・拡張が進み、Power Appsの適用範囲が一層広がることが期待されている。増田氏によれば、Power Fxは「次世代Excel関数」とも言える革新的な言語であるという。

アプリの統制・管理の仕組みも提供

 Power Appsのようなツールを用いる際には、開発したアプリの管理・統制をしっかりと行うことも重要になると増田氏は強調する。というのも、現場レベルで導入したアプリやツールは、導入の担当者がその現場からいなくなり、メンテナンスが行われなくなると、やがて使われなくなる例が多いからだ。

 そのような事態を未然に回避するための仕組みとして、Power Apps では「Center of Excellence(CoE)StarterKit」と呼ばれるテンプレート型の開発キットが用意されている。このキットを用いることで、開発したアプリを一覧形式で可視化・管理したり、BIツールの「Power BI」を使ってアプリの使用状況を分析・可視化したりする仕組みが簡単に作れる。こうした仕組みによって、例えば、半年以上使われていないアプリや所有者がいなくなったアプリをすみやかに見つけ出して関係者に注意を喚起したり、自動的にアーカイブしたりといった統制をかけることが容易になる。

Power Apps を軸にDX 実現に向けたループを回す

 マイクロソフトでは現在、Power Appsの活用をDX実現の推進力の1つとして位置づけている。同社が描いているPower Apps活用からDXの実現へとつながる道筋は図2に示すようなものだ。

 この図にあるとおり、マイクロソフトではPower Appsの活用を1つの軸にしながら、Dataverseを介してPower BIやRPA機能を搭載した自動化ツール「Microsoft Power Automate」との連携を図り、「デジタルフィードバックループ」を形成して回していくこと──言い換えれば、蓄積された業務データの分析に基づく業務改善・アプリ改善のループを回していくことがDXの実現へつながっていくとしている。

 加えて、増田氏は、ローコードによる市民開発だけでビジネス上のあらゆる課題が解決されるわけではなく、プロの開発者や企業IT部門の担当者、さらにはビジネス現場の担当者が適切に連携しながら、業務全体のデジタルトランスフォームを実現することが重要であるとも指摘し、次のように話を締めくくる。

 「例えば、ビジネスインパクトが大きく、かつ、処理が複雑な業務のデジタル化には開発のプロの力がどうしても必要になります。ゆえに大切なのは、ローコード開発だけに頼るのではなく、市民開発のための環境とプログラミングのためのクラウドプラットフォームを適所で用いながら、適材適所の人材活用とコラボレーションを推し進めること、そして、あらゆる業務のデジタル化を効率的に推進することです。当社ではその考え方に基づきながら、これからもMicrosoft AzureやPower Platform/Power Appsの強化・普及を促進していく考えです」

Power Appsの活用を軸にDX実現のループを回す

※1 引用元:経済産業省「2018年D X レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010-1.pdf