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特別鼎談 「Project DEJIMA」が目指す日本企業のDX推進を支える次世代IT基盤とは?

 Dell Technologies、Intel、Microsoftの3社による共同プロジェクト「Project DEJIMA」により、東京・品川の日本マイクロソフト本社内に最新のAzure Stack HCIのデモ環境を開設した。2020年12月に新しいハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)専用OSとして生まれ変わったAzure Stack HCIが、DXの強力なビジネスとデータの実行基盤となることを、広く企業ユーザーに体験してもらうのが狙いだ。
 今回はこれを記念して3社の技術エキスパートにオンラインで集まっていただき、わが国でDX推進に取り組む企業の現状や課題、IT部門の悩み、そして今後のIT基盤のあるべき姿などについて、大いに意見を交わしていただいた。

高添 修 氏 日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部パートナー技術統括本部 シニア クラウドソリューションアーキテクト
津村 賢哉 氏 デル・テクノロジーズ株式会社 データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部
出村 達彦 氏 インテル株式会社 インダストリー事業本部 ソリューション技術統括部 シニア・データセンター・アーキテクト

DXとは単なるクラウドへの移行ではなく「データ活用によるビジネス創出」

 長らく言われてきた「DX」だが、経営層やCIO、IT部門以外のビジネスユーザーも口にするようになったのは、この2年くらいではないだろうか。もともとは、デジタルによる新しい産業やビジネスの創出を意味していたが、現在はより広い意味で使われているように見える。ともすれば、「組織改革」や「働き方改革」の文脈でも用いられる「DX」の本質を理解する上で、ぜひ押さえておきたいポイントを、企業のDX推進を提案・支援してきた3人に伺ってみよう。

津村:ひとくちにDXと言っても、私が現場レベルでお客様にお話しする際には、「老朽化しているシステムのリプレースに何を選ぶのが最適か?」とか「投資する上で継続性のある技術は何か?」とか、かなり具体的な話をしています。企業のDX担当者は、経営層からクラウド移行を指示されているが、現場にはオンプレミスが依然残っている。そのジレンマの中で最適な着地点を探しているのが現状だからです。

 そのため私たちベンダーとしても、抽象的な概念や理想を声高に語るのでなく、お客様が困っていること、その会社の目指す「DX」に最適なソリューション選択を、誠実にお手伝いをすることをより心がけています。

出村:DXが国内に拡がったきっかけは、経済産業省の「DXレポート」だと思いますが、この時、多くの企業が「パブリッククラウドやクラウドERPに移行すれば、それがDX」のような理解をしてしまった。しかし当社としても私個人としても、DXで重要なのは、やはりデータ活用だと思っています。

 まずデジタル化から始まって、それらがつながり、生まれたデータを活用する。たとえばこれまでは人の経験と勘と暗黙知が頼りだった需給予測が、最新の機械学習によって形式知に変わると、データ同士の相関関係が可視化され、改善につながってゆく。ここから新しいビジネスを生み出すところまでを、データを駆使してできるようになるのがDXの本来のゴールなのだと思います。

高添:まったく同感です。DX推進部門の人たちだけが何か面白いことをやっているのは、本物のDXではないと思います。むしろITに詳しくない人たちまでもITを使って、自分たちのビジネスを変えていくことが理想であり本来の目的です。当社のお客様でも、個人経営の食堂がAIを使って売上を伸ばし、結果として従業員の給料が上がったり休日が増えたりしたという事例があります。そうやって会社全体がこれまでを見直し、創造的破壊に立ち向かうための組織づくりをする。その実現のためにも、コスト効率を意識しながらデータ活用の環境を目指すことが、より多くの人々にDXの可能性を開く道につながると考えています。

「なぜ、どのように変革するのか?」、組織全員の腹落ちがDXを成功に導く

 多くの日本企業からは、「DXを推進したいが、どうもうまくいかない。プロジェクトの進め方や取り組みのポイントがわからない」という悩みが聞こえてくる。日頃、顧客企業と正面から向き合い、生の声に耳を傾けている3人に、「DXに向けた企業課題」を聞いてみよう。

高添:いろいろなお客様の声を聞いていると、新しいことにチャレンジするのは良いけれど、チャレンジすること=改革だという感覚が企業の中にある印象を受けます。会社組織全体を変えなくてはいけないのに、チャレンジしている部署や担当者だけが盛り上がって、会社全体の改革につながっていない例は少なくありません。

 当社としては、やはり新しい技術に強くならないと会社が強くなっていかないと思うのですが、そうしたテクノロジーの必要性を理解してもらう上でも、「求められているのは会社全体の変革であり、自分も当事者である」というのが全員で腹落ちできる環境を、まず作るべきだと思います。

出村:日本企業の場合、CIOがいわゆる「管理職の一つ」として考えられているケースが多い。やはりCIOならばDXをやり遂げる責任と能力を持ち、明確にゴールを示して水先案内に立ってくれる人を選ぶべきです。

 またIT部門が、従来のコストセンターからプロフィットセンターへ脱却できていない企業も非常に多い。当然IT部門とDX推進部も別で、ITの予算が増えないから新しい試みも難しい。

 さらに日本企業は事業部単位でデータがサイロ化していて、データスプロールが発生したり、ガバナンスの低下も招く。せっかくデータプラットフォームを構築しても誰も使わないから、質の高いデータが蓄積されない。これを打開する経営層のコミットメントがないと、いくらIT部門やDX担当者が奮闘しても成果を出すのはかなり難しいでしょう。

津村:実際にお客様と向き合っていると、皆さん忙しすぎて時間がないのを強く感じます。しかも仕事はどんどん増えている。クラウドもオンプレミスもPCも管理して、セキュリティの課題にも対応して、そこにDXにも取り組めという指示が上から来て。時間がないというか、仕事がありすぎて疲弊している。これを解消することがDXを進めていく上での優先課題です。

 それでお客さんを見ていると、やはり情報を求めているんですね。DXに取り組むといっても、具体的にどうやったらいいのか。私たちがそうした情報を積極的に提供していくのも、お客様にとって「DX成功のポイント」の一つになると思います。

どんなアプリにも対応できる柔軟さが、DX基盤としてのクラウドの要件

 DXを将来に向けた継続的な取り組みとしていく上で、それを支えるIT基盤は重要かつ不可欠の存在だ。常に新しい課題にチャレンジするためには、アーキテクチャも柔軟かつアジャイルに適応していけるものでなくてはならない。その具体的な要件や、盛り込むべき条件について語っていただこう。

出村:DXのIT基盤というのは、ハードウェアにも増してソフトウェアの技術=今回のAzure Stack HCIに代表されるようなクラウドアーキテクチャの採用が、非常に大事なポイントになります。容量が足りなければすぐに追加できるスケーラビリティや、一時的にパワーが必要ならパブリッククラウドと接続できる。さらにオンプレミスやプライベートクラウドとの連携など、ビジネスドリブンな構成を自在に実現するためにも、やはりクラウドアーキテクチャは重要な鍵になります。

高添:そうした多様化の結果、技術的に盛り込むべきことも増えています。とりわけ大切なのはシンプリシティ=「いかに既存の環境をシンプルにするか?」です。またIT基盤は、さまざまなものに対応するので、柔軟性も重要です。通常のシステムでは、構築したIT基盤に合ったアプリケーションを乗せますが、DXのIT基盤では、アプリケーション側からの要求に対してインフラが柔軟に対応できることが求められます。

津村:柔軟性は、とても大事ですね。特にコロナ禍になって痛感していますが、「縮められる柔軟性」が非常に重要になってきています。今まではビジネスの成長に合わせていくらでもスケールアウトできることが良しとされたけれど、現在は仕事が少なくなったら、その分すぐに縮められないといけません。

 またシンプルさという点では、使う人の負荷を減らすのも大切です。今、ITの現場で多くの人が疲弊しているのは残業が多いから。だからこそ基盤をシンプルにして運用管理の負荷を減らし、DXに集中できる工夫が必要です。あちこちに分散している管理作業を統合するなどというのは、一見泥臭い話ですが実はすごく大事なことではないでしょうか。

 あと、最新のアーキテクチャがすぐに使えるのも必須要件です。古い技術を使っていると効率がすごく悪いので、新しい技術を誰でもすぐに使える基盤にする必要があります。

「適材適所」の使い分けで、クラウドとオンプレ各々のメリットを引き出す

 クラウドファーストの考え方が広く定着してきた一方で、クラウドとオンプレミスを適材適所で使い分ける「ハイブリッド志向」の企業も多い。単なる使い分けではない、クラウドとオンプレミスの連携が生み出す新しい価値とはなんだろうか。

高添:むしろパブリッククラウドとオンプレミスが、必ずしも連携しなくてはいけないと考える必要はないと思います。たとえばオンプレミスにシステムがあった方が良いパターンは大きく3つあって、

①塩漬け:大きなコストをかけてまで、クラウドに移行する必要がない
②データ主権:パブリッククラウド上のデータは、万が一の時に自分たちでコントロールできなくなる可能性はゼロではない。100%自社でコントロールすべきデータは、クラウドに上げない
③フルアクティブ ハイブリッド:いわゆるエッジコンピューティングの世界。データの発生場所の近くで処理した方がよいなら、わざわざクラウド化しない

 特に③の場合、システム全体をあえて複数の場所に分散させることになるので、管理をシンプル化=1か所で統合的に集中管理することをマイクロソフトでは提唱しています。

 もう1つ徹底的に一元化した方がよいのは、セキュリティ監視です。ユーザー企業にゼロトラストの意識がないと、その時点で管理が分散しリスクが高まります。だからこそセキュリティ監視は一元的にクラウドから行うべきだと、私たちは考えています。

津村:そうした標準化された汎用性の高いマイクロソフトのアプローチは、「お客様を楽にしよう」というアプローチでもありますね。ベリファイの手間を一元化することは、お客様の側から見れば運用が楽になって疲弊からの解放につながります。

 またAzure Stack HCIは、クラウドと統合管理できるのが特徴ですが、インフラ担当が開発者に環境を払い出すときに、オンプレミスとクラウドの区別を意識させないメリットがあります。お客様側から見れば、IT部門も開発もユーザーも、システムのある場所にわずらわされることなく、自分たちのビジネスの事情に合わせて選択できるわけですね。

出村:ちなみにクラウドに限った場合も、「予算の承認が取りやすいからパブリッククラウド」みたいな選び方をすると、のちのち問題になりやすい。外部に絶対に漏れてはいけないデータはプライベートクラウド。どうしてもパブリックを使うならシングルテナント。一方、外部のパートナーなどとコラボレーションする場合は、パブリッククラウド。インテルでは、そうした使い分けが厳格にルール化されています。

 あとは、ワークロードの適性とコストによる使い分けです。ある程度まとまった使用量が見えていればプライベートのほうが安い。一方、使用量の予測がつかない場合は、パブリックを使って柔軟性を確保する方が安全です。

次世代HCIはシンプル管理でユーザーを運用のわずらわしさから解放する

 HCIというジャンルが生まれて10年あまりが経った。DXで求められるアジリティや管理性・運用性をオンプレミスで確保する上でHCIは最有力候補だが、DX時代に必要な次世代HCI(HCI 2.0)にはどんな要件が求められるのだろうか。

出村:現状の改善という意味では、やはりコンピュート、ストレージ、ネットワークの3つのリソースを最適なバランスで最大限に使いこなすことだと思います。それに関して次世代への課題は、根本的な性能の底上げでしょう。

 一番の問題は、ストレージ性能がボトルネックになっている点です。現在のコンピュートやネットワークの性能に追いつくために、当社のOptaneテクノロジーのような新技術を使ってキャッシュを強化する。またProject DEJIMAでも採用されている、仮想マシンとストレージでネットワークを切り分けて、ストレージ側により高速なネットワークを割り振るといった工夫が必要になってきます。

 また、コンテナー対応も必須ですね。エッジからオンプレミス、パブリッククラウドまですべてが統一されたクラウド技術になれば、管理のシンプル化はもちろん、アプリケーションの移行や連携などもスムーズに行えるようになるでしょう。

津村:次世代への機能という点でひとことアピールしたいのが、当社ではパブリッククラウドで使うためのサーバーをHCIとして開発しているということです。この背景には、パブリッククラウドで使うサーバーの要件がどんどんハイレベルになってきていることがあります。

 お客様の数が非常に多くニーズも多種多様なうえ、セキュリティ強化や、何万台もあるサーバーの運用管理の効率化といった高度な要求に応えるために、当社のサーバーには自律コンピューティングや、BIOSレベルのセキュリティを施して絶対に改ざんされない機能などを実装しています。そういうわけで、オンプレミスに提供するサーバーでも、実はクラウドでの活用を前提に開発しているのがデルのHCIなのです。

高添:マイクロソフトでは、Azure Stack HCIを独立したHCI専用OSとしてリニューアルしました。ここでは「HCIとしてのコアな部分がどうあるべきか?」と、「DXを支える基盤としてどう変わっていくべきか?」という2つの議論があります。

 まず「コアな部分」としては、出村さんが言われたとおり、純粋な仮想化基盤としてコンピュート、ストレージ、ネットワークを、いかに効率的に利用者に届けるか。そのためにも私たちは、SDS(Software Defined Storage)のスペックが、HCIの今後の価値を決めていくと考えています。Azure Stack HCIのSDS「Storage Spaces Direct」では、インテルのOptane Persistent Memoryベースのストレージ(DIMM型の不揮発性メモリー)がそのまま使えるのが、圧倒的な強みになっています。

 また、1つの基盤上に仮想マシンとAzure Kubernetes Serviceを載せられるため、従来通りの仮想化とクラウドネイティブなシステムの両方を同時に受け止めつつ、購入済みのリソース配分をビジネス状況で変化させることが可能です。

実機に触れながら議論をかわせる新しいAzure Stack HCIの体験の場

 Dell Technologies、Intel、Microsoftの3社がタッグを組んだ「Project DEJIMA」。その目的は、新しく生まれ変わったAzure Stack HCIの実力を、顧客に体験してもらいながら、本当に必要なものは何かをディスカッションしていくことだという。

津村:「Project DEJIMA」では、これまでお客様に提案できていなかった切り口やスコープで、新しい体験をしていただくという狙いがあります。具体的に言えば、お客様のDXに何が必要なのか。そのために必要なHCIはどんなものなのかを見つけていただく場にしたいと考えています。

 そのために私たち3社の知見を合わせて、お客様がDXに取り組む際のリスク軽減=目的にそぐわない選択をしないで済むよう、全力で支援していきます。実際にはデモンストレーションやPoCになると思いますが、それらをお客様自身のDXにとってのリアリティを持って体験してもらいたいと考えています。

出村:私たちも、お客様に新しい体験をしていただく場として、「Project DEJIMA」には大きな期待を抱いています。Azure Stack HCIの実機体験を通じて、これまでクラウドを使ったことのないお客様に、クラウドアーキテクチャがどんなものか、また自社の業務のどんなところに活用できるかを、ぜひ知っていただきたいと願っています。

高添:これまでも日本マイクロソフトでは、お客様と当社の営業や技術担当者とディスカッションしながら、何らかのヒントを見つけていただくための場を提供してきましたが、今回も最新のAzure Stack HCIを体験するだけでなく、大いに議論を交わしながらお客様にとって何が大切かを考える場にしたいと思っています。

 「Project DEJIMA」は日本マイクロソフトだけでなく、ハードウェアを提供しているデルや、その内部で稼働するCPUを提供しているインテルなど、Azure Stack HCIに関わる全員の参加で成立したプロジェクトです。その新たな試みの価値を皆で実感しながら、お客様に新しい価値を提供できたら嬉しいと考えています。

 いよいよ本格始動したばかりの「Project DEJIMA」。今回の3人の話からは、Azure Stack HCIがもたらす、これまでにないクラウドアーキテクチャの体験と、そこから生まれるDXの大きな可能性が伝わってくる。今後の「Project DEJIMA」の動向に、引き続き注目していきたい。