トピック

Teamsとの連携によるFAQチャットボット「Syncpit」を提供
Azureをプラットフォームに採用し、少人数/短期間での開発を実現

 1990年に創業したエムオーテックス株式会社は、IT環境の"安全と生産性の両立"というビジョンを掲げ、PCやスマートデバイスの利用時の安全性強化、そして業務効率化を支援するソリューションを展開し続けています。そうした同社が2018年から提供しているのが、バックオフィス特化型FAQチャットボット「Syncpit」です。情報システム・総務部の問い合わせ対応や、定型業務の自動化を実現するSyncpitは、「Microsoft Teams」をはじめとしたコミュニケーションツールとの連携により、簡単に導入・運用が可能です。そして、このサービスを実現するためのクラウド基盤として選ばれたのが、「Microsoft Azure」です。エムオーテックスは、Azureのマネージドサービス群を活用することで、わずか3か月というスケジュールでSyncpitの開発を実現しました。

情報システム部・総務部の業務効率化を支援するFAQチャットボット「Syncpit」

 "Secure Productivity"――IT環境の"安全と生産性の両立"というビジョンを掲げ、ビジネスを展開するエムオーテックス。IT資産管理や内部不正対策/外部脅威対策を1つのツールで実現する、同社の統合型エンドポイントマネジメント製品「LanScope」は市場から高い評価を受け、15年連続でシェアNo.1を獲得しています。また、急増する未知・亜種のマルウェアからの脅威に対処するソリューションとして、AIを活用した次世代マルウェア対策製品「Cyber Protection Managed Service」も展開しています。

 そして、情報システム・総務部の問い合わせ業務の効率化を支援するため、2018年12月から提供を開始したのがバックオフィス特化型FAQチャットボット「Syncpit」です。マーケティング本部 本部長の池田淳氏は、「LanScopeの主要ユーザーである情報システム部や総務部の担当者にヒアリング調査を行ったところ、業務の約7割が、社員からの問い合わせ対応や定型業務に占められていることが分かりました。そうした業務を自動化し、より生産性の高い業務に集中できるような環境をご提供したいと考えたのです」と、Syncpit開発の経緯について説明します。

 情報システム・総務担当者には日々、「パスワードを忘れてしまった」「VPNに接続できない」「スマフォを紛失した」等、様々な問い合わせが寄せられています。その対応に忙殺され、デジタル化(DX)による業務改善やセキュリティ強化などに取り組みたくても時間がとれないのが実情です。そうした課題を解決するものが、Syncpitで、情報システム・総務部に代わって自動で問い合わせに対応する"バーチャルアシスタント"とも呼べるチャットボット機能を提供しています。その特徴の1つが、150種類以上の豊富なプリセットFAQを用意していること。情報システム・総務部がよく受ける問い合わせやFAQが、あらかじめプリセットとして用意されており、これをテンプレートにして編集を行うだけで、最短30分で運用を開始できます。

 導入に際しても「Microsoft Teams」をはじめとした様々なコミュニケーションツールとアカウント連携するだけで使えるため、新しいツールを検討・導入する必要がありません。使い慣れているコミュニケーションツールを基盤として利用できるので、面倒な設定や従業員への操作説明も不要です。

 操作が容易であるほか、他の管理ツールとの連携が可能なこともポイントです。例えば「スマフォ紛失」と入力すれば、実行可能なアクションとFAQから、選択肢が絞り込まれて表示されます。さらにLanScopeシリーズとの連携により、デバイスをリモートからロックしたり、データを消去したりすることも可能です。そして導入・運用の敷居を下げているのが安価なコストで、月額100円/ユーザーという低価格で利用できます。

 「自動化といえばRPA等のツールが思い浮かびますが、実導入にはワークフローの設計やシステム構築といった煩雑な作業が伴います。対して、SyncpitはTeamsと、既に用意されている豊富なプリセットを利用することで、情報システム・総務部の問い合わせ業務を簡単に自動化できるのが特徴です」(池田氏)。

SyncpitとLanScope Anの連携により、スマートデバイスを利用している本人が、紛失時の位置情報確認やリモートロックやワイプ、パスワードのリセット等の実行が可能に

Syncpitの開発・運用基盤にMicrosoft Azureを選択 マイクロソフトとの連携によるビジネス拡大にも期待

 このような様々な特徴を持つSyncpitですが、2018年12月のサービス開始に至るまで、実際の開発作業はわずか約3か月で行われたといいます。リリース以後もSyncpitは機能追加を継続してきましたが、その開発・運用基盤として活用されているのが「Microsoft Azure」です。Azureを採用した理由について、Syncpitの開発側のリーダーとしてプロジェクトを主導した、マーケティング本部 クリエイティブセンター 部長の厚山耕太氏は次のように説明します。

 「タイトなスケジュールの中で開発を効率的に進めるためには、インフラ等の開発環境の構築に手を煩わすことなく、アプリケーションそのものの開発に時間を充てたいと考えていました。そこでクラウドサービスの利用を検討する中、Azureが提供する数々のマネージドサービスが、私たちの要件を十分に満たしてくれるものだったのです」(厚山氏)。

 今回、エムオーテックスでは、Azureのネットワーク機能をはじめ、アクセスコントロール等の管理機能、冗長化機能、データベース、仮想マシンといった「自分たちではコントロールすることが難しいものから」(厚山氏)優先順位付けを行い、マネージドサービスを選択、利用しています。例えばネットワーク機能ではNATゲートウェイや仮想ネットワーク等を組み合わせて外部からのアクセスや、内部のシステム間のネットワーク接続をコントロールしています。

 「Azureの高速なネットワーク環境は評価ポイントでした。Syncpitの特長として、バージョンを重ねるごとに連携するシステムが増えています。そこではデータレイク/データウェアハウスから大量のデータを計算しながらやり取りしているため、サブシステム間での内部ネットワークの高速性がサービスの性能を維持するための肝となります。Azureはそうした要件を満たすものであり、実際にシステム間の通信速度は十分に満足できるものでした」と、厚山氏は評価します。

 また、管理機能ではリソース・グループやロールベースでのアクセスコントロールが活用されています。当初、少人数でスタートしたSyncpitの開発ですが、バージョンや機能追加を重ねるごとに、関わるスタッフの人数も増加しており、そうしたスタッフへの権限付与やリソースの割り当てに活用しているといいます。このほか、データベース関係では「Azure Database for PostgreSQL」「Azure Database for MySQL」や、オブジェクトストレージの「Azure Blob Storage」等を利用、冗長化も施されています。

 また、Azureを選んだ理由には、マイクロソフトとのパートナーシップの強化による、新市場の創出やビジネス拡大への期待もあったといいます。池田氏は、「当社のソリューションを取り扱っているパートナー企業はマイクロソフト製品を販売、提案しているケースも少なくありません。そこで、当社がマイクロソフトとのパートナーシップを高めることで、既存のパートナー企業も含めたエコシステムが強化され、さらに革新的なソリューションの創出や新市場の拡大が可能になると考えました」と話します

Azure上で稼働するSyncpitのシステム概要。インフラ運用に関する負荷を抑制し、開発に専念できる環境が実現されています

充実したチュートリアルサイトで開発ノウハウを取得 マイクロソフトの手厚い技術サポートも評価

 今回、エムオーテックスでは開発基盤として初めてAzureを採用したのですが、マイクロソフトが運営するAzureの利用方法に関するチュートリアルサイトや、AzureアーキテクチャセンターなどのWebサイトがとても有用だったといいます。厚山氏は、「これらのWebサイトは情報が非常に充実しており、開発を進めるにあたって、多くのノウハウを習得できました」と振り返ります。Syncpitの性能検証など、資料だけでは判断できない時には、都度、マイクロソフトのソリューションアーキテクトに問い合わせや相談も行いました。

 「今回のプロジェクトを担当したマイクロソフトのソリューションアーキテクトからは、常に的確かつ迅速な回答をもらえました。実際、Syncpitの構成も理解していただきながらデータの特性や今後のサービスの方向性にまで踏み込んだアドバイスをしてくれるなど、まさに親身な対応を行ってくれました。そうしたマイクロソフトの手厚い支援があったことも、3か月弱という短い期間で本番稼働まで漕ぎつけられた要因になっています」(厚山氏)。

 Azureは利用開始以来、安定稼働を継続しています。「実際、何かしらのインスタンスが障害を起こしてダウンしたといった事態に遭遇したことはありません」と、厚山氏はその安定性を評価します。

 「今回、Azureを選択したことで、専任のインフラ担当者をアサインすることなく、開発・運用基盤を立ち上げることができました。現在に至るまで、その状況は続いています。また、アプリケーションエンジニアが必要なインフラを自分たち自身で取得しながらも、その運用に煩わされることなく、開発に専念できる環境が実現できているのは、Syncpitの運営に際しても大きな意味を持つと考えています」(厚山氏)。

Syncpitのサービス提供に必須だったTeamsとの連携

 Azure上で開発・運用されているSyncpitですが、様々なビジネスチャットツールとの連携により、サービスが実現されています。中でも不可欠だったのが、Teamsとの連携でした。池田氏は「ビジネス面からは最も多くの企業に導入・利用されている Teamsとの連携は必須でした。事実、Teamsは数多くの企業で導入されているコミュニケーションツールであり、昨年6月に当社が行ったアンケート調査の結果ではテレワーク、在宅勤務でのビジネスチャットの活用が64%まで増えており、そのうち44%が Teamsを利用しているという結果が示されています」と説明します。

 既存の使い慣れているコミュニケーションツールが利用できることは、Syncpitにとっても大きな優位性となると池田氏は言います。

 「使い慣れているTeamsをサービスのプラットフォームとすることで、導入やユーザー教育にかかるコストと時間を圧倒的に減らせるようになります。また、他のFAQチャットボットのように別途、Webサイトを構築したり、そこにユーザーを誘導したりする必要もありません」(池田氏)。

 一方、開発面についても厚山氏は、「Teams のAPIに関するドキュメントが整備されており、それを参照することでスムーズに開発を進めることができました」と話します。

 「そうした充実したドキュメント群に加え、TeamsはデータのモデリングとAPIが設計的に整っておりスムーズに開発を進められました。このことも、短期間での開発に繋げられた要因になっています」(厚山氏)。

 このほか、SyncpitとTeamsとの連携では、導入にかかる手間や時間を可能なかぎり短くすることにもこだわりました。導入は「チャットサービス選択」「ボット作成・連携設定」「連携確認」の3ステップで行えるようにしており、かつ、それぞれのステップでどういった作業を進めればよいのか、画面で分かりやすく表示しています。このような工夫により、30分以内での導入を可能としています。

Syncpit導入時の手順は画面で分かりやすく説明されており、30分以内の運用開始が可能となっています

マイクロソフトとのパートナーシップによりSyncpitのさらなる拡販を推進

 今後もSyncpitは継続して機能強化を進めることで、情報システム部・総務部が抱える様々な課題の解決を支援していく考えです。池田氏は、「ワークフローやスケジュール機能との連携により、バックオフィス業務のさらなる自動化、セルフサービス化を推進していきたいと考えています」と展望を語ります。また、厚山氏も「Teamsのメッセージング拡張機能に組み込まれているアダプティブカードのボタンのUIと、様々なタスクモジュールを組み合わせるなどして、より利便性の高い機能を実現していきたいですね」と話します。

 そして、Syncpitの開発・運用基盤であるAzureについても、さらなる活用を推進していく構えです。厚山氏は、「今後は開発基盤に加え、本番環境のデプロイにおいても、コンテナ技術を活用していきたいと考えています。また、2020年10月に発表された、Azure SQL Databaseの一機能であり、ストレージやコンピューティングリソースをスケールアウトできる『Azure SQL Database Hyperscale』にも期待しています」と話します。

 最後に池田氏は、マイクロソフトとのパートナーシップによるビジネス展開について、次のように展望を語りました。

 「マイクロソフトとのパートナーシップによるSyncpitの販売強化はもちろん、Azureを開発・運用のプラットフォームにしていたり、Teamsで様々なビジネスを展開していたりする企業ともパートナーシップを結ぶことで、さらなる革新的なソリューションを創出し、共に市場を開拓していきたいと考えています」(池田氏)。