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新型コロナで脚光浴びる遠隔診療をDXの"テコ"に
医療システムの3要件に加え、医療ITの豊富なノウハウを評価しバックアップ基盤にAzureを採用

 診断、ライフサイエンス、ヘルスケアサービスの各領域で事業活動を行うPHC株式会社(以下、「PHC社」)で、電子カルテシステムや医事コンピュータなどのヘルスケアIT 事業を手掛けるメディコム事業部は、新型コロナウイルス対策として遠隔診療に対する社会的な期待が高まる中、次世代の医療の仕組み作りを急ピッチで進めています。その一環として2020年8月にはPHC社の電子版お薬手帳アプリ「ヘルスケア手帳」とオンライン服薬指導サービスを新たに連携。また、医療システムのデータ保護の高度化に向け、Microsoft Azureを活用したバックアップサービス「Medicom Cloud運用継続サービス」も開始しました。Azureが選定された理由は、セキュリティと運用継続性、データの保存性の3要件を高いレベルで満たし、厚生労働省や経済産業省、総務省が所管する、"3省3ガイドライン"に準拠していること。そして、マイクロソフトが国内外で持つ医療データのクラウドでの扱いに関する豊富な経験とノウハウから、技術以外の多面的な協力を期待できたことがあります。メディコム事業部では今後、マイクロソフトの協力を得つつ、データ連携とアプリケーション連携の両面でMedicom Cloudを進化させることで、日本の医療のさらなる発展に取り組みます。

新型コロナの感染拡大を機に加速する遠隔診療

 糖尿病マネジメント、診断・ライフサイエンス、ヘルスケアサービスを3本柱にグローバルヘルスケア企業として事業を展開するPHCグループ。その事業会社のPHC社において、電子カルテや医事コンピュータなどのヘルスケアIT 事業を担うメディコム事業部では、かねてから遠隔診療への対応を先進的に推進しています。

 PHC社は、1972年に日本初の医事コンピュータを発売して以来、医療機関や保険薬局などのIT化を黎明期から牽引し、一般診療所向け電子カルテシステムで国内トップシェアを獲得。電子薬歴システムでも大手調剤薬局を中心に豊富な導入実績を誇ります。

 電子カルテシステムや電子薬歴システムで蓄積されたデータを医療の質の向上に役立ててもらう。そのための取り組みの1つが遠隔医療への対応なのです。遠隔診療は受診時や診察料の支払い時の待ち時間など、患者の負担を解消する手段として広く注目を集めています。また、地方における医師不足解消。病院と患者、調剤薬局のネットワーク化を起点としたデジタルトランスフォーメーション(DX)による各種効率化を通じた医療費抑制。さらには、患者との情報共有やコミュニケーションの促進による医療の質の向上など、さまざまな効果が期待されています。遠隔医療の実現は、今後の医療の一大テーマと位置付けられているのです。

 PHC社 取締役 メディコム事業部長の大塚孝之氏は、「対面による診療を原則とする従来制度の中にあって、国は患者が加入している医療保険の資格確認作業のオンライン化など、遠隔診療を視野に入れた各種検討を進めています。当社も制度変更への迅速な対応と医療への貢献を目指して、遠隔医療で鍵となる情報連携など、各種システムの機能向上などにいち早く取り組んできました。こうした中、新型コロナウイルスの感染拡大により遠隔診療での保険診療対象が時限的に拡大されるなど、遠隔診療の普及の動きが急速に本格化しています。病院内の混雑による感染リスクなどから診察を控える患者が増加する中、遠隔診療は社会福祉の観点で効果的な策です。そのメリットを具現化すべく、当社は対応に向けた取り組みを加速させています」と語ります。

医師と薬剤師の既存の壁をデジタル技術で打破

 すでにメディコム事業部では、2020年8月にPHC社の電子版お薬手帳アプリ「ヘルスケア手帳」とオンライン服薬指導サービスをシステム連携しています。ヘルスケア手帳は、服用薬や血圧などの個人の健康情報をスマートフォンで一元管理するサービスです。そこに、自宅からの薬局への処方せんの送信や、過去の服用薬履歴を基にしたビデオ通話での薬剤師による服薬指導などの利便性を新たに付加しました。

 この機能拡張にあたりPHC社と手を組んだのが、2009年に創業し、ITによる医療のDX支援に取り組む株式会社インテグリティ・ヘルスケアです。インテグリティ・ヘルスケア社の代表取締役会長を務め、医師として臨床の現場にも立つ武藤真祐氏は、「診療前の問診から、オンライン診療、決済、その後の患者とのコミュニケーションまでをカバーする当社の『YaDoc』は、PHC社の電子カルテシステムと1500施設以上での連携実績があります。一方で、オンライン診療が広がったとしても、ハードやソフトの両面で簡単に利用できなければ価値は大きく損なわれてしまいます。その点を踏まえ、アプリのインストール無しに、より簡単な操作でオンライン診療や服薬指導に不可欠な予約とビデオ通話と決済ができることに特化した『YaDoc Quick 』を開発し、『デジタルによる患者本位の医療』というPHC社と共通する想いを達成すべく今回の協業に至りました」と提携の狙いを説明します。

 ヘルスケア手帳とYaDoc Quickの連携には、単なる機能強化とは別次元の意義があると大塚氏は語ります。それは、薬の処方と調剤を、医師と薬剤師がそれぞれ分担して行う、いわゆる医薬分業のあるべき姿に向けた取り組みと言えるでしょう。医薬分業により、医師と薬剤師はそれぞれの専門性を高められた一方で、両者の情報共有の仕掛けが乏しかったことから、患者が複数の医療機関にかかることで発生する不必要な処方や、飲み残しの把握の困難さなどの課題を生じさせています。

 今回の二社協業は、医師と薬剤師の"壁"をデジタルで打破する取り組みとして位置付けることができます。

 「ヘルスケア手帳は、当社の医事一体型電子カルテシステム『Medicom-HRf』とも連携でき、バイタルサインなどの診療に必要な日常的な情報も含め、医師や薬剤師との間での共有を実現します。のみならず、ヘルスケア手帳では医師と患者、薬剤師、さらに家族などの第三者を交えたオンラインでのビデオ会議なども可能で、心理面での患者の負担軽減など、医療の質の向上に貢献します。当社にとって今回の協業は、医療のDX支援に向けた最初の一歩と言えます」(大塚氏)。

3省3ガイドラインへの準拠と将来への期待でAzureを選定

 一方で、メディコム事業部では電子カルテなどの医療システムの重要性を踏まえ、(1)機微性の高い医療データの漏洩を発生させないセキュリティ、(2)大規模災害などの有事でも運用を停止させない運用継続性、(3)患者にとって重要なカルテデータなどを喪失させないデータの保存性、の3つの強化にかねてから取り組み、仕組みを高度化させてきました。東日本大震災時にはバックアップデータを基にノートPCで診療できる環境を提供することで、医療機関の業務継続を支援しています。

 その後、メディコム事業部は運用継続性をさらに高めるべく、ネットワークを介したバックアップの仕組みを開発し、病院や調剤薬局に対するサービス提供を本格化。そして、その進化系として2020年から提供を開始したのが、電子カルテシステムのバックアップ先としてクラウドを活用する「Medicom Cloud 運用継続サービス」です。

 「当社は医療システムの提供を開始して以来、バックアップの仕組みも併せて提供してきましたが、従来からのオンプレミスではコストの問題から、利用はいまだ限定的です。対して、Medicom Cloud運用継続サービスは、わずかな負担で堅牢かつ安全なクラウドへデータをバックアップできるため、万一の際の医療の継続性を極めて高い水準で担保することが可能になります」(大塚氏)。

 この新たな医療データの基盤整備に向け、メディコム事業部は従来からのセキュリティと運用継続性、データの保存性の観点から、クラウドの選定にこだわりました。そのうえで、最終的に白羽の矢を立てたのがMicrosoft Azureです。

 「Azureは、3要件のすべてを満たすだけでなく、『国内法の執行が及ぶ国内でのクラウドの機器の設置』など、厚生労働省や経済産業省、総務省が所管する、いわゆる"3省3ガイドライン"にも準拠しています。加えて、医療データのクラウドでの扱いに関する国内外で豊富な経験とノウハウをマイクロソフトが備えており、今後の医療ITの高度化に向け、技術以外にも多面的な協力を期待できることが決め手となりました」(大塚氏)。

マイクロソフトの知見を武器に日本の新たな医療像を開拓する

 Medicom Cloud運用継続サービスにおけるデータ保護を概観すると、まず、データのバックアップ先となるのがAzureのストレージサービスです。平時にはファイル共有プロトコルのSMB3.0でオンプレミスのレプリケーションデータを絶えず転送/保存します。オンプレミスからのクラウドへの接続先をストレージサービスのみに限定することで、情報漏洩リスクを低減。かつ、Azure Active Directoryとの連携により、安全かつ手間がかからないアクセス制御も実現しています。そして有事の際には、クライアントの接続先をAzureに変更することで、サーバー以外の機器の障害発生時にも、より迅速な復旧が可能な仕組みとなっています。

 メディコム事業部では今後、これらのバックアップの高度化に加え、データ連携とアプリケーション連携を推進することで、Medicom Cloudを発展させる計画です。

 「医療の高度化に向けデータの重要性は高まる一方です。ただし、データから価値を引き出すには、活用しやすい形への加工が欠かせず、個別の医療データの連携が必要となります。そこでメディコム事業部では、多様なデータ連携を可能とする新たな仕組みを整備するとともに、新型コロナで医療関係者のつながりの一層の強化が求められていることを踏まえ、データをより多くのシーンで活用するためのサービス連携に注力します。当面の課題は、そのためのパートナーの拡充です」(大塚氏)。

 クラウドやIoTなどの最先端技術の取り込みを通じたDXを推進した先にあるもの。大塚氏と武藤氏が共通して思い描くのは、あらゆる医療関係者と患者がつながることで実現される医療の質の向上と、劇的な効率化により医療費などの社会問題が軽減された新時代の医療サービスの姿です。武藤氏は今後の医療を次のように展望します。

 「これからの5 ~10 年で医療にまつわる技術、政策、患者の意識が大きく変わり、今までの延長にはないニーズも生まれるはずです。我々にはそれらに加え、日本の財政状況なども加味した、新たな医療モデルの創出の一翼を担うことが求められています。無論、それは簡単なことではありません。ただ、医療のIT化に先陣を切ってきたPHC社とともに取り組みを進められることは、当社にとって極めて幸運なことです。このチャンスを生かすことで、次世代の仕組みを共同で生み出せるはずです」。

 そのうえで、大塚氏は次のように抱負を語ります。

 「現時点では、次世代の医療に向けた明確な道筋はいまだ見えておらず、当面は試行錯誤が続くことでしょう。そこで我々が期待しているのが、グローバルで培ってきた豊富な医療ITの知見に基づくマイクロソフトのサポートです。ぜひとも、中・長期的な視点で、ITと医療にまつわる包括的な協力を仰ぎたい。ひいては、それが我々の医療システムだけでなく、日本の医療の抜本的な高度化につながると確信しています」。