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「de:code 2020」のオンライン開催を成功に導いたSaaS型バーチャルイベントサービス「cloud.config Virtual Event Service」をMicrosoft Azureで実現

 新型コロナウイルス感染症拡大防止に向け、多くの大規模な会場開催イベントが自粛を余儀なくされる中、日本マイクロソフトは年次テクニカルカンファレンス「de:code 2020」をオンラインで開催しました。このde:code 2020のオンライン開催をプラットフォームとして支えたのが、株式会社FIXERが開発したSaaS型バーチャルイベントサービス「cloud.config Virtual Event Service(ccVES)」です。「Microsoft Azure」上で開発されたccVESは、デジタル技術を駆使したオンラインならではの多彩な機能を来場者・出展者・主催者に提供し、新しい時代におけるイベント開催の在り方、そして、未来のコミュニケーションの在り方を具現化しました。

オンライン開催に移行したことで例年以上の参加者を迎えた「de:code 2020」

 日本マイクロソフトは2020年6月17日から7月17日まで、開発者をはじめ、IT に携わるすべてのエンジニアを対象とした年次テクニカルカンファレンス「de:code 2020」をオンライン開催しました。例年会場にて2,000名以上のエンジニアが参加するde:codeですが、今回オンライン開催に移行したことで時間や場所を問わずに参加できるようになったことが後押しとなり、最終的に約2万3,500名の参加者を迎えられました。

 このde:code 2020のオンライン開催を基盤として支えたのが、株式会社FIXERがMicrosoft Azureをプラットフォームに採用し開発したSaaS型バーチャルイベントサービス「cloud.config Virtual Event Service(ccVES)」です(図1)。

図1

 ccVESを開発したFIXERは、マイクロソフトのパートナーであり、Microsoft Azureを中心とするパブリッククラウドサービスを活用したシステム開発や運用に関して高度な知見を有するとともに、数多くの導入実績を積み重ねてきた企業です。事実、2017年には、日本国内で最も優秀な実績を挙げたパートナーとして、米国マイクロソフト社の「Microsoft Country Partner of the Year」を受賞しました。また、2019年には同社の基幹事業であり、Microsoft Azure向けのフルマネージドサービス「cloud.config」がMicrosoft Azureにおける上位認定である「Azure Expert マネージド サービス プロバイダー (MSP)」を取得しています。

 FIXER 代表取締役社長の松岡清一氏は、「当社は2009年にMicrosoft Azureの誕生とともに創業した、まさに Azureと歩みながら、事業を拡大させてきた企業です。cloud.configというMicrosoft Azureの導入設計から日々の運用、24時間365日体制の監視・保守までのフルマネージドサービスを提供するとともに、オンプレミスや他のクラウドプラットフォームからのMicrosoft Azureへの移行、および新規システムやサービスの開発など、業種業界を問わず、様々な領域でMicrosoft Azureを活用したビジネスを展開しています」と説明します。

Microsoft Azureに関する優れた知見と実績を評価しプラットフォーム構築のパートナーにFIXERを選択

 そもそもde:code 2020がオンライン開催へと舵を切った理由には、新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた、大規模な会場開催イベントに対する自粛要請への対応がありました。de:code 2020のオンライン開催も2020年3月末に決定、開催まで僅か2ヶ月強の猶予しか残されていない中で、日本マイクロソフトがはじめに着手したのがオンライン開催のためのプラットフォームの選定でした。

 そこで掲げられた要件は3つです。1つは、基調講演やセッションなどの動画を閲覧できるようにすること、デジタル技術を活用したオンラインなればこそ可能なワクワク感をもって、de:codeがもっている世界観やエクスペリエンスを具現化すること、そして、スポンサー企業の各社にも「参加してよかった」と思われるような機能を実現することでした。このほかにも、参加者にオンライン上でどのようにエンゲージメントしていくかも要件として掲げられました。

 最終的にプラットフォーム構築のパートナーにFIXERが選ばれた理由には、Microsoft Azureに関する知識と実績はパートナーの中でもトップレベルであることに加え、ソーシャルゲームや動画配信といったエンターテインメント系のプラットフォームで数多くの実績を積み上げてきたことがありました。

 松岡氏は、「当初、ccVESは別の日本マイクロソフト主催イベントでの利用が先行して検討されており、そこで品質や性能面を検証してから、de:code 2020に実装しようと考えていたので、結果として順番が逆になってしまいました。そうしたことから多少の不安があったことも確かですが、当社はソーシャルゲームにおいて、Microsoft Azure上で最大650万人に利用して頂いた実績もあったので、『Microsoft Azureのパワーをもってすれば、なんとかなるだろう』とポジティブな気持ちでプロジェクトに臨みました」と話します。

Microsoft Azureのテクノロジーを活用し、数万人のユーザーも受付可能なプラットフォームを実現

 FIXER Cloud Native DevOps Centerでグループリーダーを務める三浦忠治氏は、「ccVESは、仮想的なイベント空間をMicrosoft Azure上に構築された基盤によって提供するというシンプルなサービスですが、オンサイトイベントのワクワク感を参加者に感じてもらえるとともに、出展者・主催者と来場者のエンゲージメトを強化できるような、デジタル技術を駆使したオンラインならではの機能を実現することを念頭に置いて開発を進めました」と強調します。

 ccVESの開発には、Microsoft Azureの多彩な機能群が活用されています。松岡氏は、「今回のプロジェクトで最も挑戦的な取り組みは、ソーシャルゲームで利用されているような、大人数のユーザーの訪問を一度に受け付けるコミュニケーションのためのミドルウェアをAzure Kubernetes Service (AKS)でコンテナ化して稼働させたことです」と強調します。

 「コンテナ化したモジュールをプラットフォーム上に配置すること自体、これまでも手掛けてきたのですが、ソーシャルゲームのプラットフォーム上でしか経験がなく、かつ、AKS上に稼働させた実績がない仕組みを載せるのは、大きなチャレンジでした。スケールさせるだけなら問題はないのですが、今回のプロジェクトでは、コンテナの再配置が大きなポイントとなっており、コンテナ単位で"上げ下げ"できるようにしたことが、一番のメリットであると考えています」(松岡氏)。

 なお、イベント空間を演出するためのロジックはすべてAKS上で稼働させる一方、動画配信にはAzure Media Servicesを、データ量の多い空間データの配信にはCDNサービスを利用しています。

 「コンテナを中心に据えたとしても、開発のスピード自体はさほど変わらないと思っています。しかし、運用を考えた場合、今回のプロジェクトのように蓋を開けてみなければどれくらいのトラフィックが発生するか分からないケースでは、従来型のインフラ構築の手法を踏襲したのでは破たんしかねません。こうしたことから、コンテナによって各サービスを独立して取り扱うという手法がFIXER社内で標準化しつつあったことが力を発揮したと考えています。また、AKSをスムーズに動かせたことは声を大にしてアピールしたいですね」(松岡氏)。

オンサイトイベントでは困難だった多彩なサービスを提供するccVES

 FIXERが有するMicrosoft Azureに関する高度な知見や経験を結集し開発されたccVESですが、3月末のオンライン開催の決定から6月のイベント開催まで僅か2ヶ月強という厳しいスケジュールの中、本番稼働を迎えることができました。

 ccVESで具現化されたバーチャルイベント空間は、「ラウンジ」「EXPO」「セッション」の3会場で構成されています。イベントにサインインした来場者は自らが選択した3Dモデルのアバターとなり、イベントの入り口となるラウンジに入室します。ラウンジは"参加者をもてなす場"として位置付けられていますが、セッション一覧や出展企業一覧を参照できるほか、イベントに関するツイート等も表示されるなど、イベントのガイダンス的な役割を担っており、イベントのブランディングに寄与する柔軟なデザインが可能となっています(写真1)。

写真1

 出展企業のブースが立ち並ぶ空間がEXPOです(写真2)。各ブースを訪問することで、スポンサー企業が提供するコンテンツを視聴したり資料をダウンロードしたりすることが可能となっています。さらに、コンテンツの視聴・ダウンロード直後にMicrosoft Teamsを介したコミュニケーションができるため、オンサイトイベントと同様の製品、サービスのプレゼンテーションや商談を行うことも可能です。

写真2

 セッションは、クラウドならではの数万人単位の大量同時アクセスにも対応可能な動画配信基盤で、セッション終了直後のアンケートにより参加者の生の声を収集することもできます(写真3)。三浦氏は、「セッションルームもオンサイトイベントでは難しいような巨大空間を提示するなど、オンラインだからこそ可能な演出を施しています。また、これまでは聴講したいセッションが同時刻帯に開催された場合には取捨選択しなければなりませんでしたが、好きな時間帯に聴講したいイベントを自由に観られることも大きなポイントです」と強調します。

写真3

 このほかにも、ccVESの機能やプラットフォームの特徴として、企業PCからの利用を想定し、3Dビュー非対応のブラウザからはWebサイトベースの「2Dビュー」としてイベントを表示することが可能であることや、一斉アクセスによる高負荷に対応するスケーリング、冗長化による高い可用性の確保といったB2Bプラットフォームに必要となる要件を備えていることも挙げられます。

会期中の機能追加やトラブル対応にも迅速に対応

 オンラインだからこそ実現可能であったことには、会期中の機能追加も挙げられます。三浦氏は、「そうした挑戦の1つが、参加者の名前をアバターの頭上に表示させるという機能の追加でした」と話します。また、今回は耐障害性を確保するため、東日本、西日本、東南アジアの3リージョンのMicrosoft Azureを活用し負荷分散を行っていたのですが、開催直前から開催後にかけて、よりスムーズなアクセスを実現するため拠点側のAPIマネジメント/ゲートウェイの構成を変えるといった取り組みも実施されています。

 松岡氏は、「もとよりMicrosoft Azureのエージェント間通信が保証されていたことに加え、私たちにも複数リージョンにまたがるインフラ構築の経験があったこともあり、西日本リージョンのインフラ構成に合わせて会期中に東日本リージョンのインフラに変更を加えるといった対応が可能なったと考えています」と説明します。

 会期中のプラットフォームにおけるトラブル対応についても、リアルタイムで解決していきました。開催当日までに1万5,000人以上という予想以上の多くの登録者を迎えることとなりましたが、既存の認証の仕組みに課題があり、インフラが耐えうるか不安が生じました。そこで負荷を抑制する仕組みを急遽、実装したのですが、実は開催当日にその仕組みがボトルネックとなり、逆に参加者がアクセスしにくいという状況を発生させてしまったのです。FIXERが原因を追究し続けた結果、開催初日の深夜に負荷抑制の仕組みがボトルネックになっていることが分かり、2日目の朝を迎えるまでに改善のための処置を実施。FIXERの一連の迅速な対応が結実し、以後、参加者はスムーズにイベントにアクセスできるようになりました。繋がりにくかった方々が、翌日アクセスした際に問題なく参加できるようになったことで、SNS上には「たった一日でアクセスが改善された、運営側はよく頑張った」など、ポジティブなコメントが多数投稿されたといいます。

新しい時代の、新しいコミュニケーションを追求するためccVESのさらなる機能強化に邁進

 今後の機能強化について三浦氏は、「ccVESが日本発のサービスとしてグローバルで利用されるよう、さらに機能強化を施していきたいですね。例えば、マーケティングの観点からはログデータの有効活用があるでしょうし、Microsoft Azureが提供しているAIや機械学習、コグニティブ・コンピューティングといった機能も活用し、さらに付加価値を高めていこうと考えています。そして来場者、出展者をもっと繋げていけるようなコミュニケーション機能の拡充も追求していきます」と意欲を見せています。

 また、松岡氏は、次のように今回のプロジェクトを振り返るとともに、今後の展望を語りました。

 「会期や受け入れる参加者の規模を柔軟にスケール可能なことは、Microsoft Azureの本質的な価値であり、de:code 2020を通じて具現化できたことは、とても大きな意味を持つと考えています。これからもccVESの機能性を磨き上げつつ、Microsoft Azureのギャラリーを介して多くの方々に自由に利用してもらえるよう、育てていきたいですね」(松岡氏)。

 de:code 2020のオンライン開催を基盤として支え、成功裏に導いたccVES。新しい時代のイベントの在り方を提示しただけでなく、人々と企業、社会における全く新しいコミュニケーションの在り方も具現化した同サービスの、今後のさらなる機能強化に大きな期待が寄せられています。