特別企画

学校導入? 家庭負担?――学校タブレット導入ケース別のメリット・デメリット

「一人一台・個人所有」~袖ヶ浦高校の場合

千葉県立袖ヶ浦高校の永野直氏

 最後は「一人一台・個人所有」でiPadを導入した千葉県立袖ヶ浦高校。同校は従来、普通科のみの公立高校だったが、2011年に情報コミュニケーション科という専門学科が創設されることになり、専門学科としてきちんと使い方を学べるように一人一台の端末導入が決まった。当初はネットブックも検討されたが、「PCルームはすでにある」「ネットブックはPCの“廉価版”である」「iPadなら普通教室や体育館でも使える」などの理由から、最終的にiPadを選定した。

 問題は端末費用を誰が負担するかだ。同校の永野直氏によると「最初は県に予算をお願いしたが断られ、計画が白紙になりかけたのだが諦めきれず、個人購入はできないかと考えた。当初は校内からも反対の声が挙がったが、なんとか校長を説得して実現した」という。予算の関係で学校導入から個人所有へ切り替えられたケースというわけだ。

 家庭負担ということで保護者から反発はなかったのか。これについては「情報コミュニケーション科ということで入学する際には購入が必要だと、中学校に口を酸っぱく触れ回ったため、理解してもらえた」(永野氏)とのこと。学校ICTはとにかくその過程で説得の場面が多いようだ。そこで「しつこく、めげずに」がキーワードになるという。

 環境整備は、iPad専用の無線ネットワークのみ県が負担。プロバイダ契約、個人用鍵付きロッカー、電子黒板などそのほかの周辺機器を学校が負担した。電子黒板にはApple TVが備え付けられている。一方、生徒が入学時に購入するのはiPad(私物なので容量・カラーは自由)と本体保護カバーくらいで、アプリについても「iWorksが無料で使えるため、学校側で強制的に購入させているものはほとんどない」という。

県と学校が用意したもの/生徒が購入するもの
従来からのPC教室用・校務処理用ネットワークに加え、新たにiPad専用の無線ネットワークを敷設した

 授業では、従来の教科書・ノートと併用する。デジタルを生かした活用法としては例えば、理科の授業で実験手順ビデオ教材を作成し、反転授業で前日に視聴させておいたり、実験の様子を生徒にも録画させて動画レポートをDropboxに提出させたり――。「動画教材作成のハードルはずいぶん下がった」と永野氏は語る。家に持って帰ることが前提なので、「iTunes U」で教材を配信し家庭での学習にも役立てている。

 また、限定公開のTwitterやedinity(教育用SNS)でのコミュニケーションなども活性化させ、「授業以外の時間・場面も結ぶという使い方もしている」という。

タブレット活用風景
理科の実験の動画教材を作成
生徒も実験の様子を録画しレポート。他の班がどのように実験を進めたか比べられるようになった
edinityなどで授業以外の時間や場面も結ぶ
iTunes Uで教材を配信。家庭学習や反転授業に

 では、「一人一台・個人所有」のメリット・デメリットは何だろうか。

 メリットについては「最初は学校導入を検討したのだが、始めてみたら個人所有で良かったという感想」(永野氏)とコメント。特に「毎年何億円という規模の予算を県で負担するのは不可能」とコスト面を強調し、「時限的な研究でなく継続的な活用が可能になる」とする。

 それ以外には、「常に最新のデバイスが使えるのがメリット。スマートデバイスはパーソナルデバイスの側面が強い。私物ということで生徒も愛着を持って、壊れたら大変と大事に使っている。家に持ち帰るのも自由なので反転学習も可能。授業で話が脱線して資料を用意していない場合も、生徒がAirPlayで資料を飛ばしてくれたりして、思いつきでさまざまな応用が可能になっている」と説明。

 また、学校購入端末のように最後に初期化する必要もないため、授業の記録をずっと残しておけるのもメリットという。3年生時に1、2年のときの記録を読み返したり、卒業後も学習の思い出として残していける。それも「愛着」が生まれる理由だ。愛着が生まれれば「好きこそものの上手なれ」にもつながっていく。

 一方でデメリットしては、管理や制限がしにくい点を挙げた。ただ永野氏は「そもそも管理・制限が必要かというと話は別。本来は制限するのではなく、生徒のスキルとして身につけてほしいことなので、本校では制限していない」と語る。ケータイと同じで使い方も自由なら、盗難・紛失・故障もすべて自己責任というわけだ。

 このほか、常に新しいデバイスを使うため、「周辺機器などが使えなくなっていく」こともデメリットという。

 政府は、2020年までにすべての小中学校でタブレット一人一台の整備を目指している。当時は途方もないことに思えた計画だが、先進自治体による導入が予想以上に早く、2020年の目標は前倒しされそうな勢いだ。しかし、今後も「予算」「教員研修」などの課題は立ちふさがるだろう。現状では今回の4事例のように導入経緯も方法もバラバラに進んでいるが、2020年の目標達成に向けて今後、国や自治体、学校においてどのようなコンセンサスが形成されていくのか。引き続き注視したい。

メリットデメリット
・継続的な導入が可能
・常に最新のデバイスが使える
・家に持ち帰れる
・愛着や管理責任感が生まれる
・応用が利く
・管理・制限がしにくい(要・不要論は別)
・盗難・紛失・故障時に個人で買い換える必要がある
・周辺機器が使えなくなっていく

川島 弘之