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「退屈なAI」の静かな革命が、世界を変える

 公開後に1億人のユーザーを獲得し、史上最も急成長したアプリと言えば、何でしょうか?昨年末の公開以来、世界中で話題を呼んでいるOpenAI社の人気チャットボット「ChatGPT」だと、想像した方が多いかもしれません。

 ChatGPTの「魔法」は、具体的かつ分かりやすい文脈で、AI(人工知能)技術を民主化したことです。また、AIが多くの職務から貴重な時間を解放し、人々がより革新的なタスクに集中できるようにすることについても、多くの議論がなされています。

 ChatGPTの公開により、マイクロソフトのような大企業がOpenAI社との提携延長を発表し、100億ドルの投資を行うなど、この分野に対する関心と投資が広がっています。

ChatGPTは未来を覗くもの?それとも、未来はすでに来ている?

 ChatGPTが開発される以前は、自然言語を理解し、それに応答できるAIモデルの作成は、一般的にその分野の研究者や専門家に限られていました。なぜなら、モデル作成には複雑で技術的なプロセスを要するためです。しかし、ChatGPTは、技術的な専門知識が乏しい人でも、シンプルな使い勝手で、最先端のテクノロジーを活用したAIと、自然に対話できるようになりました。

 多くの人にとってChatGPTは、未来を覗き見るものである一方、AIと機械学習への投資を積極的に進めている企業にとっては、その未来はすでに現実となっています。ただし、その「未来」は現在、すべての人々が等しく体験できているわけではありません。

「退屈なAI」の静かな革命

 ChatGPTは、まるで人間同士がやり取りするように、自然にテキストを生成する最先端のAI技術を備えています。既存のデータを認識したり分類したりするだけでなく、それに基づいて新しいオリジナルのコンテンツを生成するように設計された「生成系AI」というというAIシステムの世界で現在、高い注目を集めています。

 ChatGPTは、AIと機械学習の黄金時代の始まりを告げるサービスです。これらのテクノロジーは、現状でもあらゆる仕事や組織を変革するのに十分なほど、すでに進化しています。しかし、企業のネットゼロ・エミッションの実現や新薬開発に向けた事業の加速化など、グローバルな変化を実現するためには、さらに多くのことに取り組む必要があります。

 多くの企業は現在、これらのテクノロジーをかなり初歩的な方法で使用しています。例えば、AIや機械学習を使ってデータを調べ、過去の出来事を理解したり、データアナリストが予測モデリングを行ったりしていることがほとんどでしょう。

 「データとAIの成熟度曲線」を示す以下の表を見ると、多くの企業はまだ左下に位置しています。しかし企業では、経営層が組織をこのグラフの右上にシフトさせるような「革命」が、ゆっくりと進行しています。AIと機械学習の活用度が成熟するにつれて、人間が手間をかけて行っている膨大な、平凡で反復的、かつ時間がかかる業務を、自動化することができるようになります。これこそが、「退屈なAI」による、静かな真の「革命」です。これらはあまり注目されていませんが、舞台裏では多くの産業で、仕事の進め方に大きな影響を及ぼしています。

データ・AI成熟度曲線イメージ

 改めて、「退屈なAI」とは一体何なのでしょうか?簡単に言えば、AIを使って定型業務を自動・最適化し、業務効率を向上させ、最終的にはビジネス全体の価値を高めることを指します。時間のかかる反復作業はすべて超効率的なAIシステムに委ねるようになれば、人間はヒトが最も得意とする、課題解決や戦略的思考といった点で創造性を発揮して、イノベーションの創出に集中する時間をより確保することができるようになります。

 創造的なアウトプットを生み出す能力で話題を集める生成系AIとは異なり、「退屈なAI」は、業務オペレーションにおいて、重要部分に焦点を当てています。この種のAIは、より良い製品を作り、コストを削減し、業務を最適化するという意味で、企業に役立ちます。これには、サプライチェーンの最適化や顧客サービスの自動化から、不正行為の検出や予知保全に至るまで、あらゆるものが含まれます。

 このような「退屈なAI」の使い方は見過ごされがちですが、費用を節約し、エラーを減らし、人間を労働集約的で反復的な作業から解放する可能性を秘めています。PwCによるアナリティクスの自動化に関する最新の調査(英語)では、最も初歩的なAI機能を基にした技術でも、そのようなプロセスに費やされる一般的な時間を30~40%削減できることがわかりました。

 企業が従業員の効率向上や意思決定の迅速化などを目指す中、IDCは、アジア太平洋地域のAIシステム支出は2022年の176億米ドルから2025年には320億米ドルに増加すると予測(英語)しています。「退屈なAI」の影響は、すでに現実に波及しているのです。

 最も決定的なのは、「退屈なAI」の背後にある技術が成熟してきており、あらゆる産業に適用可能であることです。また、銀行、医療、保険、製造業など、AIの利用が厳しい規制の対象となる業界への進出にも成功しています。

 「退屈なAI」は、各業界のドメイン知識+AIという構図になるため、ユースケースの可能性としては、非常に膨大になります。一方で、国内企業のジャーニーはまだ始まったばかりではありますが、いくつかの代表的なユースケースが生まれています。具体的には、以下のようなものがあります。

●金融業界:株式不正取引の検知、パーソナライゼーション、自動車事故の予兆検知、病気の早期発見
●小売業界:SKU単位、店舗単位、日時単位での需要予測や、在庫や流通の最適化
●製造業界:IoT センサーデータを活用した予防メンテナンス、画像診断により異常検知
●ヘルスケア業界:MR向けデジタルマーケティング、リアルワールドデータの活用、R&D
●メディア業界・リアルタイムパーソナライゼーションやレコメンデーション

AIの価値を最大化する

 企業が大きな変革を遂げるためには、必ずしも空想的なアルゴリズムを生成することが必要なわけではありません。膨大な量のデータを把握し、その意味を理解できる適切なデータアーキテクチャに投資することがまずは重要です。その上で、AIや機械学習を効果的に実行することができるようになるのです。

 これは、見落とされがちでありながら、重要なポイントです。実際、データブリックスが「MITテクノロジーレビュー・インサイト」と実施した調査レポート(日本語)では、アジア太平洋地域のCIO(最高情報責任者)の78%が、2025年までにAIと機械学習の目標達成を危うくする要因として、データに関する問題が、他のどの要因よりも高い可能性があると認識していることが明らかになりました。

 これは、データセット全体の多様性と質を把握できるようになった企業は、イノベーションを起こすための実質的な時間を確保できることを意味します。

 課題解決のカギは、企業のデータアーキテクチャにあります。データレイクとデータウェアハウスの長所を組み合わせたデータレイクハウスなどの現代的なデータアーキテクチャの登場により、企業は、ビジネスインテリジェンス、ストリーミング、機械学習を実行できる統一プラットフォームを手に入れることができます。統一プラットフォーム上でデータを活用することで企業は、データ活用にAIを適用し、「退屈なAI」から最大の価値を引き出し、真のビジネスインパクトをもたらすことができるようになるのです。

 AIを活用して日常業務を自動化・最適化し、業務効率を向上させ、最終的にビジネス価値を高めたいと考えている企業にとって、統一されたデータアーキテクチャを選択することは、将来に向けた成功のために最も重要なことです。