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日本マイクロソフトがクラウド事業の“野望”と戦略を説明
Windows Server 2016のライセンスはコア課金に、クラウド利用を想定
(2015/12/14 13:30)
日本マイクロソフト株式会社は11日、インテリジェントクラウドプラットフォームの戦略とビジョンに関する記者説明会を開催した。インテリジェントクラウドは、米Microsoftのサティア・ナデラ氏が掲げる3つのAmbition(=野望)の1つ。事業ポートフォリオとしても、2015年度から2016年度では年14%成長を達成し、ほかの2つの野望とともにMicrosoftの基幹事業となっている。
今回の説明会では、基幹事業となったクラウド事業を、「インテリジェントクラウド」と呼称する狙い、パートナー企業との新しい連携、競合となってきた企業の技術をAzureで採用する狙い、Azure自身の機能強化とほかのクラウドサービスとの差別化について説明した。
「マイクロソフトがインテリジェントクラウド実現に向け、本気で取り組んでいることをご理解いただきたい」(日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 クラウド&サーバー製品 マーケティング部の斎藤泰行部長)と、本腰を入れて新たなビジネス開拓に取り組んでいる姿勢をアピールした。
また、Windows Server 2016のライセンスを初めて日本で公表。クラウドでの利用を想定し、従来のSocket単位からコア単位への変更することが明らかにされた。
PastomerとCoopetion
今回の説明回については、「これまでインテリジェントクラウドのビジョンとはどんなものなのかを説明してこなかった。今回、あらためてトータルなビジョンをご説明させていただく」(斎藤氏)ことが狙いとなっている。
ナデラ氏がCEOとなってからのMicrosoftでは、1)Reinvent productivity & business process、2)Build the intelligent cloud platform、3)Create more personal computingという、3つのAmbition実現に向け事業展開を実施。組織もこの3つに集約している。
この中でインテリジェントクラウドは、2015年度まではServer Products and toolsと分類されていた事業すべてが含まれている。
「クラウドによって、コンピューティングサービスを社会インフラの如く提供することが目標となるが、ほかのクラウドサービスとの差別化として、インテリジェント、今までにできなかったことをできるようにしていくとお話している」(斎藤氏)。
インテリジェントクラウドを実現するための重要なキーワードとなるのが、Customer(顧客)とPartner(パートナー)を組み合わせた「Pastomer」、Cooperation(協力)とCompetition(競争)を組み合わせた「Coopetion」の2つの造語。
Pastomerが示す新しいビジネスの具体例が、IT子会社を持つ大手企業との協業体制だ。大手企業のIT子会社では、自らデータセンターを構築し外販していることが多い。これらのデータセンターとMicrosoft Azureは競合となる部分もあるものの、グローバルに拠点を持つAzureの強みを生かし、Azureと連携するケースが出てきている。
関西電力との取り組みもその1つ。グループ企業である関電システムソリューションズ(KS-SOL)のデータセンターは、ハウジング、コロケーション、ホスティング、プライベートクラウドなどプライベートクラウドとして利用している。このデータセンターとAzureを専用線で接続し、データ増加、複雑化、災害対策などの用途にAzureを活用し、コスト削減、地理的冗長性確保などを実現した。
「さらにこの試みを一歩進め、関電システムソリューションズが提供する、電力自由化に新たに参入する事業者向けこの顧客情報管理ソフトとしては唯一のパッケージ製品『NISHIKI』をAzureで展開する取り組みもスタートしている」(斎藤氏)。
こうした自社のクラウドとは別にAzureを活用する、ハイブリッドクラウドへのニーズは高いとマイクロソフトでは見ている。現在600社をターゲットにPastomerとして協力関係を持つことを呼びかけている。
Coopetitionについては、データセンターで使われている製品技術が非マイクロソフト製品も多数使われていることに着目。「お客さまのリアリティをいかにインテリジェントに実現するか。具体的には、OpenStackを採用している、AWSを使っているといったお客さまも含めて、Azureを使って管理、アプリケーション構築などができるプラットフォームを提供していく」と、競合となっている技術でも利用できる環境作りを進めている。
その象徴的な例の1つがRed Hatとのパートナーシップ。「従来、Windows Serverを担当していた人間にとっては考えられない提携」ではあるが、AzureはRed HatのCCSP(Certified Cloud and Service Provider program)に参加し、認定を受けた。
Azureの強化も着々と
また、こうした協業などの戦略を推進していくとともに、Azure自身の性能向上、機能強化などクラウドとしての強化も進められている。現在、22地域でサービスが提供され、新たに5つの地域が増え、27地域への拡大が計画されている。
また、直近の45日間で100のCPUコアを新たに展開するほか、過去6カ月における計画外のVM Reboot稼働率を99.99%に、CY2015中に単一インスタンスのVM稼働率を99.99%に、計画メンテナンスにおけるVM Rebootを不要にすることをそれぞれ計画しているとした。
さらに高水準のセキュリティ、各国でのコンプライアンスへの対応、過去12カ月間で500以上の新規リリースを実施したという。
戦略的な差別化策としては、まず蓄積したデータの活用方法としてクラウド上にビッグデータのサプライチェーンを構築。データをリアルタイムに利用するHot Path=リアルタイム・ストリーミングプロセス、蓄積したデータを利用するCold Path=バッチプロセスの2つのプロセスに対応。さらにデータ分析については、2015年4月からPower BIを無償で提供し、Cortanaとの連携も実現している。
Cortana Analytics Suiteはデータマネジメント、ビッグデータストア、機械学習/アナリティクス、さらにさまざまなアクションまでを一気に利用することが可能としている。IoTに関しては、Azure IoT Suiteとして主なIoT利用シナリオ3つから選択肢、利用することができる。
Azureとの一貫性があるプライベートクラウド構築についても、クラウド基準のインフラストラクチャであるコンピューティング、ネットワーク、ストレージ、セキュリティについては引き続き機能強化を進めている。
データセンターの制御におけるAzureの能力についても、年明けにMicrosoft AzureStackをプレビューするなど引き続き強化を進めていく。
Windows Server 2016はコア課金に
Windows Server 2016についても、クラウドでの利用が多くなると想定し、ライセンスをSocket単位からコア単位へとライセンス体系を変更する。「既存ユーザーで価格の違いが出るお客さま向けには、料金が大きく変わらないようなパスを用意し、ご不便をかけないで移行が行えるようにする予定」という。
一度の構成でどこにでも展開が可能となるコンテナについても、Windows Serverコンテナ、Hyper-Vコンテナの2つを用意。それぞれでアプリケーションの柔軟な展開と移動を実現する。
IT管理についてはハイブリッド環境でのアプリケーション管理のために、可視性、制御、保護、セキュリティ、あらゆるクラウドに対応、あらゆるプラットフォームに対応するOperations Management Suiteを提供する。
System Centerについても、System Center 2016でハイブリッドクラウドの管理を行う。仮想化レベルが低いシナリオに向けた「Standard Edition」、高度に仮想化されたプライベートクラウドを持っているユーザー向けの「Datacenter Edition」の2つがあるが、Windows Serverほどライセンスに変更は行われない予定だ。
クラウドアプリケーションのプラットフォームとなるSQL Server 2016は、あらゆるワークロードをインメモリ化し、リアルタイムの運用分析を行うことを可能とする。ローカルデータを自動的にクラウド上のAzure SQL DBにアーカイブするStretch Databaseも搭載する。
また、買収によって任意のデバイスで動作するエンドツーエンドのモバイルBIを実現し、高度なクエリ&レポート、あらゆるモバイル機器での動作なども実現する。
In-Database型の高度分析については、インテリジェントアプリケーションをSQL Server R Servicesによって構築し、インメモリ、超大規模マルチスレッド処理と超並列処理での拡張を行う。
アプリ開発者が不足していることに対応するために、クラウドベースのアプリケーション開発ツールPowerAppsを無料で提供する。「今までのExcelのマクロアプリを作る感覚で、業務アプリケーション開発を行うことができる」(斎藤氏)ことが特徴。このツールを活用することで、企業に必要な業務アプリケーション開発の敷居が大幅に低くなることから、開発者不足に対応する。
マイクロソフトの開発ツールとしてはVisual Studioがあるが、「コンシューマ向けアプリケーションなどは、従来通りVisual Studioでの開発が適している」と使い分けとなると説明している。
開発した業務アプリケーションについては、幅広いSaaSアプリケーションとのID連携を実現するAzure Active Directoryを提供。「インテリジェントクラウドプラットフォーム実現にID統合は大きな鍵となる」との観点から、1つのIDで多数のアプリサインインが可能となるこのID管理の強みをアピールしていく。