日本企業としての“デルらしさ”を追求する~就任1年のデル・郡社長


代表取締役社長 郡信一郎氏

 デルは3日、代表取締役社長 郡信一郎氏による「デルの成長戦略 - End-to-Endソリューションプロバイダ」と題したプレス向けラウンドテーブルを開催した。社長就任から1年が経過した郡氏だが、ハードウェアベンダからソリューションプロバイダへの変貌を掲げるグローバルの戦略を、いかに日本のエンドユーザに適した形で届けるのか、そのメッセージングに奔走した1年だったように思える。グローバル、日本法人ともに変革の時を迎えているデルが描く戦略を郡社長の発言から検証してみたい。

 「1年前、前社長のジム・メリットがいい形で日本法人の進むべき路線を残してくれた。それを引き継ぎ、この1年で自分なりにどう進めてこれたかを振り返ってみたい」――ラウンドテーブルの冒頭、郡社長はこう発言した。

 メリット氏が残した路線とは「日本企業のグローバル化支援」を主に指している。世界トップクラスのグローバル企業でありITベンダでもあるデルだからこそ、その強みを活かしたソリューションを提供し、日本企業のグローバル化をITから支援する――これが日本法人にとっても、郡社長にとっても重要なミッションである。「いかにデルらしいソリューションでもって、日本のお客様のビジネスに貢献できるのか。ここ3年ほどワールドワイドで展開している戦略は、日本のお客様にもフィットしていると感じている」と郡社長。

 今回のラウンドテーブルのタイトルにも付けられている“End-to-Endソリューション”は、デルが最近メッセージングに使っているフレーズだが、現在の同社が採る戦略を端的にあらわしているといえる。直販主体のハードウェアベンダとして培ってきた個々のユーザへのデリバリと、ソリューションベンダとして目指すべき包括的な製品提供のスタイル、どちらも並行しながら、かつそれぞれの良さを融合した形で展開していくという同社の意図が見えてくる。

End-to-Endソリューションを強化する戦略的買収

 デルは現在、「エンタープライズ」「サービス」「エンドユーザーコンピューティング(PC事業含む)」の3つをEnd-to-Endソリューションの柱に据えている。買収や投資もこれに沿って戦略的に行われているが、やはり注力しているのはエンタープライズとサービスになる。郡社長も「ソリューションプロバイダとしてエンドポイントをもっていることは大きな強み。エンドユーザーコンピューティングは引き続き信念をもって取り組んでいく」としながらも、「現在注力すべきはエンタープライズとサービス。現在、セキュリティや重複排除、ワークロード管理など、既存のラインナップにデルらしい特徴を加えていくことに重点的に取り組んでいる。バックアップのNo.1ベンダであるAppAsureの買収もその一環。今朝(7月3日)買収を発表したQuest Softwareも同様」と、エンタープライズ/サービス分野において、積極的な買収や投資を今後も継続していくとしている。

 こうしたグローバルの戦略をどう日本市場でローカライズしながら展開していくのか。郡社長はグローバル化の流れがITに対しても起こっているとし、日本企業に最適化したソリューションを提供するため、以下の4つのニーズに対応した強化策を実施するとしている。

・グローバルIT化の支援 … サービスの強化
・高効率/省電力ソリューションの提供 … クラウドデータセンターの強化
・ソリューションの迅速な展開 … チャネルビジネスの強化
・最良の顧客体験の提供 … テクニカルサポートの強化

日本市場向けに最適化した施策

 まずサービスの強化について。これはデルがグローバルで展開するサービスと同じ保守体制で日本市場でも提供していくことを示す。「日本企業もワールドワイドでIT資産を保守/管理するというニーズが生まれている。21カ国にカスタマーサポートセンターをもつデルは、世界中どこにおいてもまったく同じ保守体制でサービスを提供できる。とくに日本企業から求められているのは効率化とセキュリティ。これらのニーズに対し、ベストプラクティス(ITIL)に準拠したDellグローバル・サービスデスク、データセンター管理の代行も可能なDellインフラストラクチャ・マネージド・サービス、ITのセキュリティを担保するDell Secure Worksで応えていく」(郡社長)

 クラウドデータセンターの強化については、「世界中のクラウド事業者がデルのサーバ/ストレージを使っている」(郡社長)という強みを活かし、省電力サーバーを基盤とした仮想化ソリューションの提供に力を入れる。「サーバーの仮想化だけでなく、これからはストレージ、さらにはネットワークの仮想化が進むと思われる。データセンター全体の仮想化を視野に入れ、大規模事業者だけでなく、中規模のクラウド事業者がコスト面でも導入しやすい省電力ソリューションを提供する」と郡社長。外気冷却や省電力管理といったデル製品ならではの特徴を前面に出していきたいという。

 国内の導入事例として、凸版グループのBookLiveによる統合仮想化ソリューション「Dell VIS」における自動化/効率化の実現や、東京大学 生産技術研究所の第12世代サーバー「Dell PowerEdge」による最先端HPCクラスタシステム構築を挙げる。なお、デルは北米において同社自身がクラウド事業者としてサービスを提供しているが、日本では「まだ様子見の段階」だと郡社長は言う。「米国でやっているサービスをなんでも日本にもってくるというやり方はしない。IaaSなのかPaaSなのか、もしくはデータセンターサービスなのか。日本のお客様に適したサービスで、なおかつデルらしさを両立できる形を模索している」とのことだ。

 チャネルビジネスの強化は、ソリューションベンダとして飛躍するために最も注力すべき取り組みだろう。もともと直販がメインだったデルは、この分野では確実に出遅れている。郡社長もチャネルビジネス拡大の重要性は強く認識しており、「システムインテグレータと再販業者、それぞれに対して違う施策を実施していく。直販と再販を両輪とし、バランスの取れた販売システムを目指したい」と語る。ここでとくに鍵になるのはシステムインテグレータとの関係強化だ。戦略的に買収を重ねているデルはここ数年で数多くの企業を傘下に収めたが、郡社長は「買収企業がもっていたシステムインテグレータとの関係を、デルでも引き続き維持していく」という方針を示している。個々のシステムインテグレータの強みを活かしたユニークなソリューションの事例が期待される。

 最後のテクニカルサポートの強化については、法人/個人ともに内容の拡充を目指すとしている。法人に関しては「マルチベンダサポートを信念としている」と強調、デル以外の製品の管理も含めてワンストップで提供することを掲げる。個人に関しては、個人向け顧客満足度No.1の座から滑り落ちたことから「その奪回を図る」としており、ビギナーやシニア向けサポートの拡大を宣言、3000円から利用できる24/365の「プレミアム顧客サポート」に力を入れる。

【お詫びと訂正】初出時、「プレミアム顧客サポート」の価格を間違えて記載しておりました。お詫びして訂正致します。



 デルらしさ――郡社長は何度かその言葉を説明中に使っている。デルだからこそ日本企業に提供できるソリューションはどんな形なのか、同社はいま、真剣に"選択と集中"を試みている状態にある。クラウドビジネスやチャネルビジネスの展開に慎重を期しているように見えるのもそのあらわれなのだろう。グローバル化という日本企業が大きく変わらざるを得ないこの状況において、デル自身が変革の時を迎えているからこそ、デルにしか提供できないソリューションは必ずあるはずだ。

 ラウンドテーブルの最後、「全体的に市場に占めるデルのシェアが下がっているのでは」という問いに対し、郡社長は「重要なのは収益の最大化なので、あまり台数で見てほしくない。ひとつひとつの分野の強み/弱みを把握し、それぞれに適した施策を実行していく。たとえばSMBは強いが公共はもうすこし頑張らなくては、という状況を把握し、ピンポイントで補強していく方針」と答えている。公共ビジネスのプロフェッショナルでもある郡氏だが、日本市場においてもこの分野はさらにテコ入れしていくと思われる。"デルらしさ"に加えて"郡らしさ"をどこまで発揮できるのか、社長として2年目の試練がこれから始まる。

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(五味 明子)
2012/7/4 14:27