7年ぶりのJavaOne Tokyoでは「Javaテクノロジーのすべてを見せる」
オラクルがJavaの現状とJavaOne Tokyoの見どころを解説
日本オラクル株式会社は20日、報道陣向けに「Javaテクノロジーに関する説明会」を開催、Javaをめぐる現状の説明に加え、4月4日~5日の2日間に渡って行われる「JavaOne Tokyo 2012」の見どころについての紹介が行われた。
Java10周年という節目の年に行われた前回のJavaOne Tokyoから7年ぶりとなる今回のテーマは、米サンフランシスコで開催されたJavaOne 2011と同じく“Moving Java Forward”--。開発者、そしてユーザーに対し“前進するJava”を見せるというオラクルの強い意志が込められている。
■JavaOne Tokyo 2012のテーマは“Moving Java Forward”
日本オラクル Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 シニアマネジャーの伊藤敬氏 |
Javaの全体像 |
Javaの新たなる戦略 |
日本オラクル Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 シニアマネジャーの伊藤敬氏は、昨年10月のJavaOneと同じテーマをJavaOne Tokyoでも採用したことについて「Javaが数年間、停滞した時期にあったことは確か。それを打ち破り、生まれ変わったことを宣言したのが昨年のJavaOneでの“Moving Java Forward”宣言。Javaを前進させるという強い意志は日本市場においても同じ」と語り、あえてこのテーマにこだわったとしている。
伊藤氏はさらにJavaの新たなる戦略として
・新しい時代の“Write Once Run Anywhere”を実現
・開発者に新たな次元の生産性と容易な開発環境を提供
・コミュニティとのシナジーを強化、Javaテクノロジーの進化を促進
の3点を挙げる。「クラウドの進化など、Javaが生まれたときと現在ではシステムを取り巻く環境が大きく変わった。しかしどんなに時代が変わろうとも”Write Once Run Anywhere”はJavaの原点であり、実現することにこだわっていく。Javaは進化するにしたがって、複雑さが増大する結果になったがこれはあまり評価されないこと。開発者に対しては容易で生産性を高められるような開発環境を積極的に提供していきたい。コミュニティとのシナジーはさらに強化していく。Java自身もコミュニティからJavaの足りない部分を補い、それをコミュニティにフィードバックしていく関係を構築していく」(伊藤氏)。
1996年にスタートし、世界中のJava開発者の祭典として毎年欠かさず開催されてきたJavaOneだが、Sun MicrosystemsがOracleに買収されて以来、サンフランシスコのほか、サンパウロ、北京、モスクワなど開発者の人口が増加する都市で開催されてきた。今年はインドでも行われる予定だ。そうしたエマージングな勢いをもつ都市と比べると、東京の名前がそこにあるのはやや違和感を覚えなくもない。
伊藤氏はあえてOracleが東京開催に踏み切った理由として「これまでの3回の開催実績に加え、日本市場はグローバルから見てもJavaテクノロジーをあらゆる分野でまんべんなく利用している特筆すべき市場。日本のJava開発者に直接語りかけ、Javaをさらに理解してもらいたいというのは、オラクル本社の強い意向でもある」と説明する。
JavaOne Tokyo 2012では「現在のJavaの最新動向を広く啓発し、Java開発者のモチベーションを向上、開発者の増加を促進し、コミュニティの拡大に貢献したい。またJavaの進化を吸収して、これからのビジネスに転換してもらいたい」と伊藤氏。「Javaテクノロジーのすべてを網羅した2日間になる」と自信を見せる。
拡大と進化を続けるJavaコミュニティ | JavaOneとは |
JavaOne Tokyoの開催目的 | JavaOne Tokyoの概要 |
■Java SE:7→8→9への進化の過程をJavaOneで
日本オラクル Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 シニアJavaエバンジェリストの寺田佳央氏 |
Java SE 7,8,9 |
伊藤氏に続いて登壇したのは日本オラクル Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 シニアJavaエバンジェリストの寺田佳央氏。同氏からはJava SEおよびJava EEに関しての説明がなされた。
まず、すべてのJavaテクノロジーのコアプラットフォームであるJava SEについては、昨年7月にリリースされたJava SE 7で追加された機能である、
・Project Coin
・Fork/Join Framework
・Java NIO.2
・InvokeDynamic
などにより、生産性の向上(Project Coin)、マルチコア対応(Fork/Join Framework)などが進んだとしており、特にマルチコア対応は次のJava SE 8で導入が予定されているラムダ式の布石になっていると語る。また、Java以外の動的プログラミング言語で書かれたアプリケーションを動かすInvokeDynamic機能により、「Javaが本当の意味でのプラットフォームとして動作する」ことになったと語る。
2013年夏にリリースが予定されているJava SE 8では、待望のラムダ式のほか、高速JavaScriptエンジン「Nashorn」、開発者をjarの縛りから解放すると言われるモジュール化システム「Project Jigsaw」などが新機能として加わる予定だ。寺田氏は「Java SEは2年周期でバージョンアップしていくロードマップを描いている」としており、2013年夏にJava SE 8をリリースしたあとは2015年にJava SE 9が予定されていると語る。JavaOne Tokyo 2012ではJava SE 9についての概要紹介もなされるという。
Java SE 8の概要 |
■Java EE 7のポイントはクラウド対応
Java EEの現状 |
エンタープライズプラットフォームであるJava EEについて寺田氏は、2009年12月にJava EE 6がリリースされてからすでに2年がたっていることに言及し、非常に多くの顧客が本番環境で採用している点を強調、「国内ではJava EEは重いと言われることが多いが、Java EEは決して重量級のフレームワークではない。今一度Java EEの良さを日本の開発者に認識してもらいたい」と語る。
開発者ニーズを満たす軽量フレームワークとしては現在、Java EEのサブセット版であるオールインワンパッケージ「Java EE WebProfile」が提供されている。「Webの開発に必要十分な機能が詰め込まれており、Java EEによる開発の快適さを実感できる」(寺田氏)。
Java EEは5から6に変わる際、開発効率が大幅に改善したことがフィーチャーされたが、来るJava EE 7は「クラウド対応」が最大の注目ポイントとなると寺田氏。JavaOne Tokyo 2012では、Java EE 6の話題はもちろんのこと、Java EE 7におけるクラウドのキャッシング技術などについても紹介される予定だ。
開発者ニーズを満たすJava EE | 開発効率の大幅な改善 |
■組み込みJavaはより幅広いマーケットをめざす
日本オラクル Java Embedded Global Business Unit プリンシパル・セールス・コンサルタントの関谷和愛氏 |
Java搭載プラットフォームの広がり |
最後に日本オラクル Java Embedded Global Business Unit プリンシパル・セールス・コンサルタントの関谷和愛氏よりJava Embedded(組み込み向けJava)とJavaFXについての説明がなされた。
組み込み向けJavaの今後のテーマは「SEとの統合と新領域へのチャレンジ」と関谷氏。現在、Javaが搭載されているデバイスは世界で100億台を超えているという統計を紹介し、「ICカードや携帯電話、PCのほか、テレビやBlu-rayにも搭載されている。数が増えただけでなくバラエティに富んでいる点が特徴」と語る。最近ではPlay stationなどのゲームコンソールやKindleなどにもポーティングされているとのこと。
現在の組み込み向けJavaは、カードデバイスのJava Card、携帯電話や通信モジュールのCLDC(Small Embedded)、テレビやBlu-ray、ネットワーク機器のCDC(Mid Embedded)、そしてスマートフォンやタブレット、医療機器、組み込みサーバーなど特殊な用途に使われるSE Embedded(High Embedded)に分類される。
デバイスのチップにJava MEを最適化してポーティングしたり、Java SEをチューンアップして特殊な機器に搭載しているケースも多く、関谷氏はこの状態について「やや複雑化しすぎており、もう少しすっきりさせる必要がある。現状のJava MEはJDK 1.4時代のサブセットであり、若干時代遅れの感が否めない。2013年のJava SE 8リリースにあわせて、Jigsawを使ってすっきりさせる予定」とし、Java SE 8との整合性および互換性を重視したJava ME 8のリリースを予定していると語る。
2013年のリリース以降は、Java Cardはそのままで、携帯電話や通信モジュール向けにはJava ME 8(Small Embedded)を、それ以外のMid~High Embeddedの分野ではJava SE 8で対応していくことになる。また、組み込み向けJavaの3大マーケットは「ICカード、携帯電話、テレビ/Blu-ray」以外にも、スマートグリッドやヘルスケア、M2Mなどより幅広いマーケットに対しても今後は積極的に展開していくとしている。
JavaOne Tokyo 2012では、3大マーケットで使われている事例や技術紹介はもちろんのこと、ARMチップ上での新しいJavaの活用方法など、未来に向けたテクノロジーの話もされる予定だ。また実際に開発に参加できるハンズオンセッションも同時に行われる。
2011年の組み込み向けJavaテクノロジー | 2013年の組み込み向けJavaテクノロジー |
■Java SEとの統合を進めるJavaFX
JavaFXとは |
JavaFXに関して関谷氏は、「次世代のWebクライアントソリューション」とし、「Javaが苦手としているメディア再生機能やWebブラウジング、JavaScriptをJavaから呼び込んで動かすなどを実現するインターフェイス」と定義する。
現在のJavaFX 2.0はJava SE 7の拡張機能として位置づけられているが、Java SE 8のリリース以降、JavaFXはJava SEの標準機能となる予定だ。したがって次のJavaFX 3.0はJava SE 8にバンドルされた形でリリースされることになる。今後はクロスプラットフォーム化、ツールサポート、オープン化の3点を強めていく方向性を打ち出している。特にクロスプラットフォーム化においては、Linux版の開発を進めており、すでに1月にプレビュー版が公開されている。
JavaOne Tokyoにおいては、OracleのJavaFX開発総責任者であるNandini Ramani氏やチーフアーキテクトのRichard Bair氏による基調講演が行われるほか、入門者から上級者までを対象にしたセッションが数多く開催される予定だ。
Javaは実に広い分野をカバーしているが、生まれたときから変わらないポリシーは“Write Once Run Anywhere”であり、これは今後も変わらない--。伊藤氏は冒頭、Javaの原点について何度かこう言及した。
どんなにシンプリシティをうたった技術でも、時代が経過すればどうしても複雑性がまとわりつく。Javaも誕生から17年という歳月を経て、単なるプログラミング言語から巨大なプラットフォームへと成長した反面、複雑になりすぎたきらいがある。その反省から、Java SE、Java EE、Java ME、JavaFXのそれぞれが整合性をとりながら、開発者やユーザーにとってわかりやすい形になるよう、プラットフォームの整理が行われてきた印象を受ける。
サンフランシスコで行われたJavaOne 2012、そして今回東京で行われるJavaOne Tokyo 2012で掲げた“Moving Java Forward”は、“Write Once Run Anywhere”という原点回帰をした上での前進だという意味が強く込められている。オラクルによる買収以降、初めて国内で開催されるJavaOneでは、新しくなったJavaと変わらないJavaの両方、つまりJavaテクノロジーのすべてを見ることができるはずだ。