日立、2015年度に情報・通信システム事業で2兆3000億円見込む

中期計画を発表、クラウドは5000億円規模目指す


 株式会社日立製作所(日立)は16日、アナリスト、機関投資家、報道関係者を対象にした「Hitachi IR Day 2011」を開催。その中で、情報・通信システム事業における取り組みについて説明した。


情報・通信システム事業の事業分野情報・通信システム事業の事業概要

 冒頭、三好崇司執行役専務は、「足元では震災の影響などが出ているが、2011年度はあらゆる施策により、業績改善に努める。また、各カンパニーにおける中期経営計画の達成によって、成長戦略を前倒ししたいと考えている。サービス事業の拡大や融合事業の展開によって、より高付加価値の事業を拡大し、差別化していく。さらに、各地域に密着したグローバル展開の強化に取り組む」とした。

 情報・通信システム事業では、2015年度の中期目標として、売上高で2兆3000億円、営業利益率8%、海外売上高比率35%、サービス売上高65%を目指すことをあらためて発表した。


2015年度の目標三好崇司執行役専務

 日立 執行役専務兼情報・通信システム社社長の岩田眞二郎氏は、「情報・通信システム社は、社会イノベーション事業のリーディングカンパニーであり、強い製品とサービスで評価されるグローバルカンパニーを目指す。今後の注力分野として、融合事業、高信頼クラウド事業、大量データ利活用実現のためのサービス事業に取り組む」とした。

 日立では、社会イノベーション事業を、中期経営計画における全社成長のけん引役と位置づけており、その一角を担う情報・通信システム部門の事業成長が、大きな鍵になる。

今後の注力事業と日立の強み日立 執行役専務兼情報・通信システム社社長の岩田眞二郎氏

 また、2011年度の売上高では、前年比3%増の1兆7000億円、営業利益は113億円増の1100億円を目指す。

 内訳は、ソフトウェア/サービスの売上高が前年比5%増の1兆1800億円、営業利益は同10%増の940億円。ハードウェアの売上高は前年比2%減の5200億円、営業利益は同26%増の160億円としている。

 「2011年度以降は、国内のグループ会社の合併によるシナジーや、データセンターサービス需要の取り込み、海外のストレージソリューション事業の好調などで、増収を見込む。また、連結経営の効率化に加え、徹底したプロジェクト管理とオフショアの積極活用、コスト削減により、増益を見込む」という。サービス部門の売上高構成が60%と、初めて6割に到達。海外売上高比率は25%を目指す。

 2012年度の売上高は1兆7500億円、営業利益は1220億円を目指す。

 なお、2010年度の売上高は1兆6520億円。構成比はハードウェアが32%、ソフトウェアが10%、システムソリューションを含むサービスが58%となった。また業種別には、国内金融が30%、国内公共が20%、国内産業・流通が20%、国内社会インフラが30%、海外が24%となった。海外のうち、北米が45%、欧州が25%、中国/アジアなどが30%を占めた。

 「売上高、営業利益ともに計画には届かなかった。ストレージは好調だが、国内のIT投資が冷え込んでいたのが原因。営業利益では震災影響を除けば、1000億円の計画に届いたかもしれない」とした。


売上高の実績と見通し営業利益の実績と見通し

 

シェア拡大、攻めの営業、新事業領域の開拓に取り組む

 国内においては、「シェア拡大、攻めの営業、新事業領域の開拓」(岩田氏)の3点に取り組むとし、「国内基盤事業の強化~高付加価値化・サービス化」、「新事業領域の開拓」を掲げ、「国内基盤事業、成長分野の強化、拡大により、グローバルでの成長を目指す」とした。

お客さまとの協創による超上流設計手法

 金融分野においては、主要企業に向けた基幹系、営業店システム構築のほか、高信頼性アウトソーシングサービスの提供など、上流工程からの参画による新領域拡大を図る。また、公共分野では、次世代案件や、自治体・大学向けクラウド提案の拡大といった新サービスの提案強化による優位性維持、産業・流通分野では、大規模アウトソーシングなどの高付加価値サービスの拡大、通信分野ではキャリア顧客への次世代インフラ製品や企業ネットワーク分野といった、高成長市場での事業拡大を挙げた。

 金融分野では、「エクスペリエンス指向アプローチ(Exアプローチ)」と呼ばれる超上流設計手法を用いており、すでに33社に導入。現時点で約140人の専門人財の育成に成功したという。

 「これまでの日立はいわれたことをきっちりとやるというものだったが、Exアプローチを活用し、お客さまとのあるべき姿を追求し、上流工程から一緒になって課題解決に取り組む。日立らしくないともいわれる手法」と、岩田氏はジョークを交えながら説明する。

 

クラウド事業を現在の7倍に拡大

 その一方で岩田氏は、「クラウドは国内事業において重要に意味を持つものになる」と語り、2010年度の700億円のクラウド関連売上高を、2012年度には2000億円に、さらに2015年度には5000億円規模にまで拡大する計画を明らかにした。

 高信頼クラウドサービスの実現として、セキュリティ、連携基盤、性能保証、データ保全、構築・運用技法といった高信頼クラウド技術によって、2015年度には企業基幹システムおよび社会インフラシステムへの本格適用を図るという。

 また岩田氏は、日立のクラウド事業における強みを「安心・安全のクラウドサービス」とし、総合電機としての設備、IT、サービス開発、センター運用という一貫サポート体制を提供できること、20万人がメール利用するなどの日立グループ内の実業務活用によって実現する、大規模評価環境を背景にした信頼性が強みとした。

 今後の具体的な取り組みとしては、西日本地域におけるデータセンターとして岡山第3センターを新設。クラウドサービスの相互接続、データセンター間統合管理の推進を行うほか、BCMソリューションの強化として、顧客システムと日立のクラウドシステムのハイブリッド化、オープンクラウドマーケットプレイス「MINONARUKI」や会員制B2Bマーケットプレイス「TWX-21」によるSaaS展開の強化に取り組む。

 また、クラウドに集まる大量データの活用と、検索・解析技術の強化にも取り組んでおり、東京大学と共同開発した超高速データベースエンジンの活用、Hadoopの活用、グリッドコンピューティングなどによる大量データ活用技術の開発にも取り組んでいくとした。$$clear

高信頼なクラウドサービスを提供するクラウド事業の強化

 

3つの柱でグローバル展開図る

グローバル事業の強化
日立 情報・通信システム社プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎

 グローバル事業に関しては、One Platform for All Dataのよる「プラットフォーム事業の高付加価値化の実現」、「グローバルコンサルティングネットワーク拡充と事業規模拡大」、「統合ITサービス事業の確立」を、3つの柱と位置づけたほか、海外ソリューション事業の積極展開、新興国での事業拡大に取り組む。

 第1の柱としているプラットフォーム事業は、ストレージを核に展開。コンテンツクラウドから、大量データ分析・活用を実現するインフォメーションクラウドへの進化に伴い、統合プラットフォームの提供、データ分析力、マネージドサービスの組み合わせによって、2010年度には3220億円だったストレージソリューションの売上高を拡大し、2015年度には4000億円を目指す。

 ヘルスケア、コンプライアンス、ビデオ監視、メールなどの大量データを活用する分野への展開を進める予定であるほか、2011年6月には北米の企業に対して、統合プラットフォームであるUnified Compute Platformを試験的に導入。2012年度には機能強化版を提供する。

 「国内ではトータルSIとして日立のコンピュータ、ストレージ、運用までを含めた統合環境での提供を行ってきたが、海外では個別に調達し、トータルSIはユーザーが実施してきた経緯がある。しかし、北米では、TCOを引き下げたいというニーズの高まりとともに、統合型プラットフォームが求められている。大量データを持つユーザーを対象に、今後、大きな発展を期待している。この成果を日本にも持ち込みたい」(日立 情報・通信システム社プラットフォーム部門CEOの佐久間嘉一郎)という。

 「幕の内弁当型のプラットフォーム」(岩田氏)とするUnified Compute Platformは、米シアトルで60人規模の開発体制を確立し、北米市場のユーザーニーズを反映して開発したものだという。

 また、Converged Data Center Solutionsを提供開始することで、クラウド環境、特定業務アプリケーション向けソリューションを展開するという。


ストレージを中心としたプラットフォーム事業を第1の柱に

 第2の柱であるグローバルコンサルティング事業については、現在、39拠点4000人強の体制をさらに拡張し、中国やインド拠点の設立、昨年12月のシエラ・アトランティックの買収によるポートフォリオの強化、スペインでの企業買収による欧州拠点の強化などにより、2010年度400億円から、2015年度は1300億円を目指す。

 「ストレージとコンサルティングの連動も重視されることになる。また、Oracleに対するコンサルタント人材は多いが、SAPのコンサルタント人材が足りないという状況にあり、これも改善していきたい」とした。

 第3の柱とするグローバルITサービス分野への取り組みについては、事業基盤、顧客基盤強化のためにM&Aを継続検討するとし、データセンターを活用したマネージドサービス事業、SaaS、PaaS、IaaSなどのクラウド事業などをターゲットにするという。

 統合ITサービス事業の売上高は、2015年度には2600億円を見込んでいる。


第2の柱であるコンサルティング事業グローバルITサービス事業を第3の柱として取り組む

 なお、融合事業については、中国の天津エコシティによる環境配慮型都市モデルの構築、広州ナレッジシティにおける知識集約型都市の構築などに参画していることをあげ、「都市計画の上流段階から参画し、計画策定から運用・保守までの一貫提供、ITプラットフォームを核としたサービス事業展開」に取り組むという。

カンパニーの連結運営体制を強化

 一方、情報・通信システムにおける経営基盤の強化としては、2010年10月に発足した日立ソリューションズとのシナジー、ソフトウェアやサービス、ハードウェア、間接材などのコスト削減、2011年度の1000億円の投資などについて触れた。

 カンパニーの連結子会社との連携では、2011年10月に、日立電子サービスと日立情報システムが合併して発足する予定の日立システムズについても言及。日立は大規模な顧客対応力やグローバル基盤を生かすことで社会イノベーション事業を実現するITサービスを提供。日立ソリューションズは、大規模ソフトウェア開発、高信頼システム技術などにより、システム構築力を生かしたトータルソリューションを提供。日立システムズは、運用・保守サービスやネットワーク構築の強みを生かし、全国拠点を生かしたワンストップサービスによるすみ分けを図るとした。


実績と2015年度の目標
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