NRI、震災後のICTインフラ整備と利活用のあり方をまとめた提言を発表


ICT・メディア産業コンサルティング部 上席コンサルタントの北俊一氏

 株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は、東北地域の振興と産業再生に向けた提言として、「震災後のICTインフラ整備及びICT利活用のあり方」を発表した。

 同社のICT・メディア産業コンサルティング部 上席コンサルタントの北俊一氏は、「ICTは通信ネットワークなどのインフラ部分、それを利活用する部分と大きく2つに大別できる。国内でも多くの人が従事する産業であり、今後復興を進めていく上で欠かせない手段となる。震災後、ICTインフラと利活用がどうあるべきかを、震災時の状況を含めて検証した」と、今後のICTインフラ構築などに震災時のICTを検証することの必要性を訴えた。

 

携帯電話回線のパケット通信が有効に機能

災害直後のICTインフラの被害状況

 ICTに欠かせないインフラである携帯電話や通信回線の被災状況は、被災地ではNTTの交換機を持ったビル、約1000が被災し、さらに電源消失により最大で150万回線の固定通信サービスが中断した。沿岸部では電柱約6.5万本が流出、もしくは破損したが、その後の復旧により4月14日現在で97%が昨日復旧した。

 KDDIは基幹網として、海底ケーブル、高速道路沿いのケーブル、電力会社敷設ファイバー網という3つを持っていたが、海底ケーブル、高速道路沿いのケーブルが断絶。最大で39万回線に影響があったものの、4月中旬までに99%が復旧した。

 携帯電話網についても、NTTドコモは6720の無線局、auは1933の基地局、ソフトバンクは3000局以上の基地局が倒壊や破損、光エントランス回線の断絶、商用電源の途絶などを原因とした被害にあった。

 被災地以外でも、首都圏では平日の昼間という地震発生時間に影響を受け、安否確認のための携帯電話音声通話が激増。その結果、携帯電話キャリアは80~95%の音声発信規制が実施した。

 ただし、その一方でパケット通信についてはNTTドコモが宮城県で最大30%の発信規制を実施したものの、それ以外の地域では規制は行わず、メールやiモードサイトへのアクセス遅延といった事態が発生したものの、有効に機能した。


被災地以外のICTインフラの状況
固定通信の耐災害性強化

 固定電話については、地震発生直後よりも計画停電時に大きな影響を受け、NTT局側から電話機に給電されるメタル回線は停電時でも利用できるものの、給電がない光ファイバー回線では通話ができなくなる事態が起こった。

 さらに、震災直後の首都圏では、携帯電話が利用できないことから、撤去が進んでいる公衆電話を利用する人が長蛇の列を作る事態も発生している。

 こうした実情から北氏は、「災害に強いICTインフラ整備のあり方として、災害に強いものにするために、何をやらないといけないのかきちんと考える必要がある。被災地でも、衣食住がひとまず足りた次にニーズにあがるのが、携帯電話を使えるようにしてほしいという声がある。より災害に強く、即時復旧できる移動基地局社、移動電源などの確保が必要になるだろう。現在は、NTTドコモ、KDDI共に関東にセンターが集中しており、ここがやられるとiモードもEZwebも使えなくなるので、関西などへの分散が必要になるだろう」と提言した。

 ただし、注意点として「むやみに設備を増強することで利用料金に反映されることを考慮すると、ユーザー自身のリテラシー向上が必要となる。震災直後は音声ではなく、メールか、災害用伝言板を使う。さらに、ボイスメールの開発やエリアメールの拡充も必要となるだろう」としたほか、「緊急地震対策として、多くの人が利用するエリアメールはさらに精度向上させて、スマートフォンも含め、全世界で利用できる日本発の優れたサービスとしていくことで、端末業者にもメリットが生まれるのではないか」といった点を指摘した。

 一方固定電話に関しては、「物理的な弱さに対しては多重化、冗長化でカバー。技術中立性を守り、特定技術でなく、複数技術の利用を。例えば光ファイバーと無線LANの組み合わせなどで対災害制を担保する必要がある。大きな問題となるのは、光ファイバーの給電問題。光の道構想において、停電時どう利用するのか。総務省できちんと議論する必要がある」と述べている。


携帯電話のインフラ整備に向けて技術中立性と設備競争に基づく重層的なインフラ整備

 

クラウド活用が不可欠、スマートグリッドの推進も

 ICTの利活用である情報発信については、Twitter、FaceBookに代表されるソーシャルメディアが大きな役割を果たしたものの、一握りのITリテラシーの高いユーザーの利用にとどまっている傾向がある。また、流通する情報の信頼性や、大量の情報をどう活用するかといった能力がなければ、逆にデマや風評を拡散させることも明らかになった。

 こうしたICTサービスを利用するために必須となるのが、インフラの多重化、冗長化となる。全く異なる地域にリカバリ用データを置く、ディザスタリカバリ(DR)、ビジネス継続のためのプラン策定(BCP)を考慮し、想定外のトラブルが起こっても臨機応変に対応することができる、組織や人員育成にも考慮することが必要となる。

情報配信のあり方DR/BCP策定へのあり方

 ICTインフラとして北氏は、「クラウドの活用が不可欠になる。クラウド化は震災に関係なく進行していたものだが、仮に建物が被災しても、ブロードバンドとパソコンを持ち出していれば業務を続けることができる、事業継続性に優れたものだといえる。Googleはデータセンターを全世界に構築し、その時期にサーバーの冷房がいらない地域を選んで稼働させるといったダイナミックな運用を実現している。日本のデータセンターを運営する企業も、国内だけでなく、海外も視野に入れてデータセンター構築に取り組んでいくべき時代になっているといえる。また、データセンターを利用することで企業にサーバーを置くよりも、節電効果が高いこと、データセンター自身の省電力化であるグリーンデータセンターへの取り組みなどを実現するための取り組みを加速する必要がある」と、クラウド化による災害対策の必要性を強調した。

 もう一つの災害対策に欠かせないものとして、スマートグリッドの推進をあげた。

 「これまで、スマートグリッドはビジネス戦略の一つとなっていたが、これから節電が待ったなしの状況の中、真剣にスマートグリッドの実現に取り組む必要が出てきた。省電力対策としては、ICT活用による在宅勤務など、さまざまなソリューションを活用し、節電に取り組んでいくことができるのではないか」

クラウド化の促進スマートグリッドの推進

 NRIでは、宮城県の復興計画最低の支援を行うことを発表しているが、「復興のためのICT活用については、ICTを活用することを目的とするのではなく、あくまでもICTを復興のための手段として利用することが大切」と訴えた。

省電力化ICTの復興、日本経済復活における役割
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(三浦 優子)
2011/4/15 16:41