2011年度はパブリッククラウドの実効性に評価がくだされる年に

~JUASが企業IT動向調査2011を発表


 企業のIT投資予算は2011年度は緩やかに回復、クラウド導入に慎重な姿勢のIT部門が64%に――。

 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、「企業のIT投資動向に関する調査(企業IT動向調査2011)」を発表した。

 これは、経済産業省から委託を受け、2010年11月から2011年2月にかけ、企業のIT部門、社内IT利用部門を対象に、アンケート調査とインタビュー調査を実施したもので、今年で17回目となる。

 東証一部上場企業を中心にIT部門長を対象に4000社、経営企画部門を対象に4000社にアンケート調査票を発送。IT部門では1144社(回答率は29%)、経営企画部門は1075社(回答率は27%)からの有効回答を得ている。さらに、45社のIT部門長を対象にインタビューを行った。

 

「グローバルIT戦略」と「IT投資マネジメント」を重点テーマに調査

 今回の調査では、「グローバルIT戦略」と「IT投資マネジメント」の2つを重点テーマとした調査も行われた。

 これによると、IT予算については、2011年度のIT投資予測を10%以上減少するとした企業が15%、10%未満減少するとした企業が15%となっており、2009年度計画ではそれぞれ15%、33%、2010年度はそれぞれ16%、29%となっており、IT投資が回復基調にあることがわかった。

 だが、不変とした企業が33%に達しており、「景気動向の不透明さから多くの企業で投資の方向性を定めきれないようにみえる」としたほか、1社当たりの平均予算額は、08年度が18.2億円、09年度が16.6億円、10年度が16.3億円に対して、11年度は16.3億円と、IT予算規模は回復していないとの見方もできる。

 大幅にIT予算を減少した企業は、業績の低下に・環境の悪化による「コスト削減」や「業績(利益)確保」のためのIT予算削減を余儀なくされている企業がある一方で、大型開発案件が一巡したためという回答も少なくないという。また、10%以上IT予算を増加させるとした企業では理由として、「先送りしていたIT投資の再開」、「凍結解除」のほか、「IFRS」、「Windows 7」、「グローバル対応」、「仮想化」、「プライベートクラウド導入」といった新たな環境への対応をあげている回答もあったという。


企業のIT投資予算について

 3年後のIT予算増減として、10%以上の増加を予測している企業は4社に1社、変化なしとの回答が2社に1社だという。「企業規模が大きいほど、減少を予想する企業が多くなる傾向がみられる」という。

 新たなテクノロジーの採用では、仮想化の動きが、これまでのサーバーから、ストレージ、クライアントへとの拡大していること、OSSは、OSとミドルウェアを中心に普及が逓増していることがわかった。

 さらに、BI(ビジネスインテリジェンス)は、売上高1兆円以上の企業では2/3の企業が導入済みとなり一巡の傾向がみられるほか、EAやSOAはいまだ対応途上にあり、導入および試験導入中の企業の割合は、いずれも8%。既存のレガシーシステムの刷新ニーズが顕在化すれば広がりみせるとしている。


3年後のIT投資予算の増減予測新たな技術に関する導入動向

 

パブリッククラウドの実効性が評価される年

パブリッククラウドに関する導入傾向

 クラウド関連では、パブリッククラウドのSaaSは堅調に普及。SaaSは、導入済みが14%、試験導入中および検討中が30%となり、前年調査の8%、19%から大幅に伸びている。一方で、IaaSでは、2009年には導入済みが1%、試験導入中および検討中が11%だったものが、2010年度には4%、25%へとの拡大。PaaSに関しても、2009年度は1%、12%だったものが、2010年度には3%、26%に拡大したものの、同協会では「IaaS、PaaSではまだ様子見の姿勢が強い」としたほか、「パブリッククラウドは、2011年度に先行的な導入事例が増えるともに、成功と失敗の教訓がより明確になり、その実効性について一定の評価がくだされる年になるだろう」とした。

 また、売上高1兆円以上の企業では半数が既にSaaSを活用。基幹系システムで、SaaS/ASPを利用している企業は1~3%。今後は、大企業においても、顧客管理で15%、人事・総務で10%の企業が、SaaS/ASPの採用を視野に入れていることがわかった。さらに、SaaS/ASPは、情報系システムでは、300人未満の企業の1/4が、メールや社外向け広報(Web等を利用。今後は大企業でも利用が大幅に増加し、情報系システムの利用企業が1/3に到達することになるという。

 「社外サービスの提供を受けることで、費用化できることに魅力を感じる企業も増えている。こうした要望を実現する商品が登場し、実績を上げていることがSaaS/ASP採用の比率を押し上げていると考えられる。また、従業員300人未満の中小企業が効率的に経営するための有効な手段として、SaaS/ASPを位置づけているほか、ユーザー企業の固有の要件がなく、ビジネスの差別化に影響しない情報系システムにおいては、積極的にSaaS/ASPを導入して、維持コスト削減を図ろうとする大企業の戦略がうかがえる」などとした。

 

クラウド・コンピューティングに関する経営層の理解はまだまだ

クラウド・コンピューティングへの理解度

 クラウド・コンピューティングへの理解については、「定義・本質を理解している」としたIT部門は74%を占め、中でも1兆円以上の企業では87%の企業がそう回答した。

 だが、「経営層の理解度は低い」と考えているIT部門は、79%と対照的な結果がでた。さらに、ベンダーのプロモーション姿勢に疑問を呈するIT部門は87%に達し、クラウドは既存のサービスの名称を変えただけの宣伝用語にすぎないと考えるIT部門が64%と、2/3を占めた。

 「09年度の調査では、クラウド・コンピューティングに対するベンダー各社の定義やプロモーション上の用法がバラバラであったために、ユーザー企業に理解の混乱が見られたが、その傾向も終息に向かいつつある。だが、ベンダーの旺盛なメディア・プロモーションが、経営層にクラウドへの理解の混乱と、過大な期待感を抱かせる原因となった可能性は否定できない。個別のインタビューの結果からも、ベンダーに対して、クラウド・コンピューティングの定義・本質をもっと明確に提示すべきとの意見が出ていた。クラウドは既存のサービスの名称を変えただけの宣伝用語にすぎないと考えるIT部門が64%も存在することは、ベンダーの過剰なマーケティングの問題点を、あらためて浮き彫りにしている」とした。

 また、クラウドによってIT部門の業務内容および責任が変わると考えている企業は71%。だが、IT部門の存在価値が低下すると危機感を持つIT部門は18%と少ない。

 クラウドが代替材となる主な領域は、「開発・運用」業務が最も多くと想定される。「IT部門は今後、これらの業務領域をIT子会社あるいは第三者ベンダーに委託していこうという志向がみられ、クラウドはむしろIT部門業務の補完材としての位置づけが強まるのではないかと推察される」としている。


クラウドのプロモーションに疑問を呈する企業が9割にクラウドによってIT部門の業容変化が見込まれる

 

クラウドの訴求価値はコストから迅速性・柔軟性へ

クラウドの導入に慎重な企業が64%に
クラウドによるコスト削減を期待する企業は4割

 クラウド・コンピューティングの投資対効果についての設問では、クラウド導入に慎重姿勢のIT部門が64%に達し、ITコストの削減が実現できると考える企業は41%と半数を割り込んだ。

 クラウドの訴求価値としては、むしろ「利便性が向上する」と考える企業が57%であり、業況変化に対する「迅速性」や「柔軟性」が注目されているという。

 「クラウドに対して、慎重姿勢の企業が多い背景には、セキュリティ対策の不十分性を懸念している指摘が目立つ。クラウド・コンピューティングの投資対効果や、ベンダーの提案する訴求価値の実現可能性が見極め切れないという課題も介在している。クラウドの価格体系が使用従量課金型モデルを基本とするものと考えるならば、少なくとも価格単位の透明性、妥当性の開示は提供ベンダーにとって必須と考えられる。導入検討時のシミュレーションや試験的活用を通じて、クラウドを導入しても期待どおりのコスト削減が得にくいと実感するIT部門が増えてきたということかもしれない」とまとめている。

 クラウド・コンピューティングの価格算定根拠が明確な状態で提供されていないとした企業が、今回の回答では85%に達している。

 一方、クラウド・コンピューティングに対する期待・導入目的では、基幹系、情報系ともに、1位、2位は、「ハード・ソフトの購入・導入・保守が不要」、「安価にサービス(アプリケーション)を利用できる」となっており、不安・懸念事項では、1位は「セキュリティ対策が十分かどうかわからない」、2位は「本当にコストダウンするかわからない」となった。

 「セキュリティ対策に対する懸念については、自らが実施している場合と比べ見えない部分があることや、災害発生時時やクラウド事業者が倒産する場合などの対処に不安が残るためと思われる。個別インタビューのなかでは、一けた違う低価格をクラウドに期待するという意見を寄せているが、実際、劇的な削減効果を期待して、その通りにならないと判明したIT部門は多いのではないか」とした。


クラウド・コンピューティングに対する期待と導入目的クラウド・コンピューティングに対する不安と懸念事項

 

Windows 7の導入はVistaをすでに上回る

クライアントOSの導入状況
サーバーOSの導入状況

 クライアントOSでは、Windows XPが圧倒的で、2010年度でも82%に達している。Windows 7の導入は36%となっており、Windows Vistaの25%を上回った。

 サーバーOSでは、98%の企業でWindowsサーバーを導入。LINUX系サーバーが57%、商用UNIXサーバーが43%となった。

 LINUX系や商用UNIXは、規模の大きい企業ほど導入割合が高く、商用UNIXサーバーは、大企業では74%が導入しているが、300人未満の企業ではわずか18%の導入にとどまっている。

 また、サポート打ち切りや保守停止状態となっているサーバーの台数比率では、Windowsサーバーでは、保守停止比率20%以上の割合が4割、保守停止比率80%以上の割合が2割となっており、ほかのサーバーに比べて圧倒的に高いことが浮き彫りになった。

 ファイルサーバーやプリントサーバーといった比較的単純な用途で用いられているものも多く、安定稼働やセキュリティ上のリスクがあることを理解した上で保守停止のサーバーをそのまま利用し続けていることが考えられるとした。

 スマートフォンは11%の企業で導入済みとなり、試験導入中は13%。タブレットデバイスは、導入済みが6%で、試験導入中は12%となった。Twitterなどのマイクロ・ブロギングは導入中が3%、試験導入中は2%、FacebookなどのSNSは、導入が4%、導入検討中が3%といずれもわずかにとどまった。

 「マイクロ・ブロギングは、社内における情報共有よりも、マーケティングを目的に、顧客や消費者と結ぶコミュニケーションツールとして利用されていることが多い。その際には、IT部門を介さずに、利用部門が採用し、実行するケースが少なくない」とした。

スマートフォン、タブレットデバイスの導入状況TwitterやFacebookなどの利用状況

 

グローバル化への対応を重視

 重点テーマとした「グローバルIT戦略」では、調査対象となった大企業の7割がすでに海外進出しているなかで、IT投資で解決したい経営課題として、「グローバル化への対応」が重視されてはじめていること、この考え方中小企業にも及ぶ兆しがみられていることを指摘。ITの開発・運用拠点とデータセンターの立地は現時点では「国内本社に集中」しているものの、運用拠点を海外事業拠点に分散させている企業も少なくないとした。また、今後は、グローバルでのIT資産の標準化を進める企業が多いとしたほか、現在、海外の事業拠点におけるITは、拠点で自立的に管理するとしている企業が多いものの、将来的には本社IT部門ですべてを管理したいとの意向が強いという。

 さらに、データセンターを置く拠点として多かったのは北米だが、開発拠点ではアジア、運用拠点は中国といったように、機能による立地選考に違いがあることも浮き彫りになった。

 もうひとつの重点テーマである「IT投資マネジメント」では、「リアルタイム経営(迅速な業績把握、情報把握)」と「業務プロセスの効率化」が、IT投資の二本柱であることが明らかになった。

 IT投資で解決したい中期的な経営課題として50%の企業が「業務プロセスの効率化」をあげ、「リアルタイム経営」も44%の企業があげた。

 また、「グローバル化への対応」が年々重要度が高まっているのに対して、「経営の透明性の確保」は減少。金融商品取引法施行後に、経営の透明性の確保への取り組みが一段落したと分析している。

 一方、IT投資における中期的な重点投資分野では、「経営情報・管理会計」、「生産・在庫管理」、「販売管理」などの基幹業務があがっており、「業種・規模を問わず、企業の情報化において経営情報・管理会計がIT投資の中核的位置づけにある」としたほか、今後は、IT投資対象は、インフラ型が4割、業務効率型が4割、戦略型が2割の傾向が続くとした。

関連情報