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UIの制約を超え、外部AIとつながる――Salesforceの新ビジョン「Headless 360」がもたらすプラットフォームの進化
2026年5月28日 09:00
米Salesforceが4月に米国で開催した開発者向けの年次カンファレンスイベント「TDX(TrailblazerDX)2026」では、新しいビジョン「Salesforce Headless 360」が発表された。
Headless 360は、Salesforce上のあらゆる機能を、Salesforceの画面だけでなく、AIエージェントなどの外部ソフトウェアから利用できるようにする取り組みだ。AIエージェント向けのMCPや、外部アプリケーション向けのAPI、コマンドから機能を呼び出すCLI(Command Line Interface)といったインターフェイスが用意される。
コンピューターの世界で一般に“headless”(ヘッドレス)とは、“UIなしで機能をほかのソフトウェアから操作されるシステム形態”を指す。これにより、Salesforce側から見ると、さまざまな“head”(ユーザーインターフェイス)ができることになる。直接的には、開発者に向けたコンセプトと考えられる。
これを元に、さらに、「コーディングエージェントと共に構築」「より多くの接点で価値を発揮」「信頼性を担保しながらAIエージェントを拡張」という3つの柱に基づくSalesforceプラットフォームの拡張も、Headless 360として発表されている。
このSalesforce Headless 360について、日本の報道向けに解説する記者説明会が、株式会社セールスフォース・ジャパンのオフィスで5月27日に開催された。
すべてのレイヤにおいてMCP、API、CLIを公開
株式会社セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長)は、Salesforceはこれまでも常に「新しいカタチで顧客とつながる」という考えで、クラウドやモバイルなど、その時々に合わせて新しいつながり方を取り入れてきたと説明。2025年にはAgentfoce 360によりエージェントファーストで顧客につながるようになったことを紹介した。
「そして、さらにもう一歩先へ進み、AIエージェントと人が協働して、あらゆる業種業態のお客さまの中に入り込んで業務を行うという姿を実現するために、新しいビジョンとしてHeadless 360を発表した」と三戸氏は語った。
Salesforceでは、データプラットフォームのData 360から、各種の業務システムのCustomer 360、さらにAIエージェントのシステムやSlackまでの製品群を「エージェンティックエンタープライズ」として体系化している。
「Headless 360でもこのアーキテクチャには何も変更はない」と三戸氏は説明する。Headless 360は、このアーキテクチャ構成に追加や変更を加えるのではなく、「すべてのレイヤにおいて、外部のAIエージェントやアプリケーションが直接アクセスするための、MCP、API、CLIを公開していく」(三戸氏)ものだということだ。
そして現在、すでに60以上のMCPツールと、4000以上のAPI、220以上のCLIコマンドを提供していると三戸氏は説明した。
AIコーディングツールのバージョンアップ、ReactでUIを作ってSalesforceプラットフォームで動かす機能など
前述したように、Headless 360では、MCP・API・CLIの公開とともに「コーディングエージェントと共に構築」「より多くの接点で共通体験を提供」「信頼性を担保しながらAIエージェントを拡張」の3つの柱によるSalesforceプラットフォームの拡張も行われる。
このうち、「コーディングエージェントと共に構築」「より多くの接点で価値を発揮」の2つの柱について、株式会社セールスフォース・ジャパンの稲葉洋幸氏(マーケティング統括本部 トレイルブレイザーリレーションズ&コミュニティ担当)が解説した。
ちなみに稲葉氏は、Headless 360について「エージェンティックエンタープライズアーキテクチャに加えて、より良いものにするための方向性であり、ビジョンであり、個人的には作戦名とも言っている」と説明した。
まず1つめの柱「コーディングエージェントと共に構築」について。AIによるバイブコーディングツール「Agentforce Vibes」がバージョンアップして「2.0」となった(6月1日に一般提供開始予定)。使用するLLMを強化し、より高度な開発プロセスや、マルチエージェント、スキルやMCPツールの動的参照の強化などがなされている。また、公式に提供するスキルやMCP Serverは、CursorやClaude Codeなど外部のコーディングツールでも利用できる。
「Salesforce Multi-Framework」は、Salesforce機能のUIをReactフレームワークのコードで書いてSalesforceプラットフォームで動かすものだ。既存のUIカスタマイズ機能であるLightning Experienceより柔軟にUIを作れるとのことで、これもさまざまなhead(UI)を開発するものといえる。
稲葉氏はデモも披露した。まずAgentforce Vibesを起動し、チャット形式でオブジェクトを作るよう指示するところを見せた。また、Agentforce VibesでMCPサーバーが3つ有効化されている様子も見せた。
続いてSalesforce Multi-FrameworkによってReactで書いたUIアプリを、アプリケーションランチャーから起動して使うところを示した。
そのほか、Salesforceプラットフォームで公開するMCPサーバーを、ClaudeやChatGPTのAIチャットから利用するところもデモ。さらに、Salesforceのフローを呼び出すカスタムのMCPサーバーの例も見せた。
続いて2つめの柱「より多くの接点で共通体験を提供」について。「Headless Experience Layer」(7月一般提供開始予定)を使うと、UIとなるAIエージェントアプリにSalesforceの情報を返すときに、テキストだけでないリッチなUIを表示できるようになる。その例として稲葉氏はイメージデモとして、AIチャットにリッチなUIで情報を表示するところを見せた。
開発から、テスト、デプロイ、A/Bテスト、監視、オーケストレーションまで、ライフサイクル全体でAIエージェントの信頼性を担保
3つめの柱「信頼性を担保しながらAIエージェントを拡張」については、株式会社セールスフォース・ジャパンの王小芬氏(製品事業統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャー)が説明した。
生成AI以前のアプリケーションは決定論的に動作する、つまり同じ入力に対して同じ出力が返るものだった。それに対して生成AIのアプリケーションは確率論的に動作する、つまり同じ入力に対して必ずしも同じ回答が返るとは限らない。「しかし、エージェントはお客さまとの接点なので、品質の担保、維持、向上が重要になる」と王氏は言う。
そしてHeadless 360では、AIエージェントの「構築」「テスト&結果評価」「デプロイ」「実験」「監視/オブザーバビリティ」「制御/オーケストレーション」というライフサイクル全体にわたり、各フェーズで信頼性と拡張性の両方を担保していくと語った。
「構築」フェーズには「Agent Script」が対応する。この場合はこうするという決定論的ロジックを、AIエージェントに組み込むためのスクリプト言語だ。これによって、LLMの柔軟性を生かすことも、決定論的に同じ動作を保証することも、両方できるという。
「テスト&結果評価」フェーズには、新たなテストセンター(ベータ)とカスタムスコア(一般提供)を提供する。
新たなテストセンターでは、APIとCLIツールを提供し、外部のアプリケーションやAIエージェントから自動実行できる。つまり、ヘッドレスなテストができる。
加えてカスタムコア機能により、企業がエージェントごとにその企業独自の評価基準を、業務のルールに従って設定できる。さらに、カスタムスコアはテストフェーズだけでなく本番運用フェーズでも利用できるため、品質を継続的に監視して改善していくことがやりやすくなった。AIエージェントと顧客の実際の会話データを使ったテストも可能。
「デプロイ」フェーズについては、AIエージェントをあらゆる顧客接点に組み込んでいく。現時点では音声向けに、音声対応エージェント「Agentforce Voice」を提供する(英語版を近日一般提供開始予定)。電話やWebで自然な音声で応答。人間のオペレーターに引き継ぐときに会話内容がシームレスに引き継がれる。
「実験」フェーズについては、本番環境でA/Bテストを実行する「Online Experimentation」を提供する(パイロット版)。これにより、新しいバージョンのエージェントがお客さまの反応にどう影響するかを測る。
「監視/オブザーバビリティ」フェーズでは、「Agentforceオブザーバビリティ」で包括的なオブザーバビリティを提供する。これにより、エージェントのKPIへの貢献を分析したり、会話履歴を分析して最適化したり、問題があったときにヘルスモニタリングで検知したりできる。
これらは各種ログを蓄積するセッショントレーシングデータモデルに基づいて動いており、それらのログをAPIで取得できるようにしたり、OpenTelemetry規格で出力したりといったこともしていく(ベータ版)。
「制御/オーケストレーション」フェーズについては、これから企業は役割ごとにエージェントを使い分け、そのエージェントのネットワークを管理することが求められるようになると王氏は語った。そして、そのためのコントロールプレーンとして「MuleSoft Agent Fabric」を挙げた。
「Headless 360でアプリを作ったら、Salesforceを意外と使えていなかったと再発見」
記者説明会には、Salesforceのユーザーでありパートナーでもある株式会社リバネスナレッジの吉田丈治氏(代表取締役社長)も登場し、TDX 2026に参加した感想と、Headless 360の実感、AIエージェント時代の開発を語った。
まず吉田氏は、TDX 2026で最も印象的だったこととして、「Slackbotの躍進」と「Headless 360」の2つを挙げた。
Headless 360に衝撃を受けた吉田氏は、ゴールデンウィークに、SalesforceのMCPサーバーをOpenAI Codexから利用するアプリ「KLOQ」を開発してみたという。その結果「12年Salesforceを使ってきて、商談などの膨大なデータが入っているが、その中にAIエージェントを入れてみたら、意外と使えていなかったという再発見があった」と吉田氏。「Salesforceを使う環境がどこでもよくなるというのが重要。最近は、Slack内のSlackbotから、データを集めて、レポートを作成して、エグゼクティブサマリーを作って活用する、ということが一気通貫にできるようになっている」(吉田氏)と語った。
最後に吉田氏は、Salesforceの活用ノウハウは難しく、これまではSalesforce技術者の腕前が事業パフォーマンスということにもなっていたが、AIエージェントの頭脳にSalesforceのノウハウが組み込まれることで、活用度のばらつきを抑えてSalesforceの価値を上げるのではないかと語った。
また、Salesforceにはデータとともに、アクセス権限や承認なども基本機能として入っているので、AIが好き勝手にできるようなことにならないことが重要だと述べた。































