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富士通、システム開発の全工程を自動化する「AI-Driven Software Development Platform」

生産性100倍、3人月の改修を4時間へ短縮

 富士通株式会社は17日、ソフトウェアの要件定義から設計、実装、結合テストに至るまでのシステム開発の全工程を自動化する「AI-Driven Software Development Platform」を開発したと発表した。富士通の大規模言語モデル「Takane」と、富士通研究所が開発した大規模システム開発向けAIエージェント技術を活用。複数のシステム開発を変革するAIドリブン開発基盤と位置づけている。

Takane-Driven Initiative概要

 富士通 AI戦略・ビジネス開発本部長の岡田英人氏は、「富士通は、この1年にわたり、AIが複雑な既存システムを理解し自動修正することに挑んできたが、システム開発プロセス全体を変革する新たな技術が完成した。システム開発の在り方をAIドリブンへと変革し、業界のスタンダードを目指す」との姿勢を示した。

 また、富士通Japan 特定プロジェクト対策本部長 兼 富士通 公共・社会インフラビジネスグループ特定プロジェクト対策室長の國分出氏は、「単なる開発の効率化ではなく、社会の変化にシステムそのものが追いつく世界をつくる挑戦である」と位置づけた。

富士通 AI戦略・ビジネス開発本部長の岡田英人氏
富士通Japan 特定プロジェクト対策本部長 兼 富士通 公共・社会インフラビジネスグループ特定プロジェクト対策室長の國分出氏

 この仕組みを用いることで、人月計算による開発コストの算出ではなく、価値を対象に課金する仕組みへの移行を促進できるともとらえており、例えば、サービス型の基本料金のなかに、年間に一定の改修回数までは無償で対応し、それを超えた部分については従量制とする仕組みへと移行することも視野に入れている。これにより、改修を価値としてとらえ、課金するという考え方が可能になりそうだ。

 富士通では、2025年4月に、時田隆仁社長CEOの号令のもと、特別チームを編成し、ヘルスケア向けパッケージや行政向けパッケージを対象に、システム開発をAIドリブンに移行する取り組みを「Takane Driven Initiative」として開始。「この取り組みによって、2025年度は、AIエージェントが、システム開発の領域を勢いよく走り始めることになった」(富士通の岡田氏)と定義した。

 すでに、2024年度の法改正に伴うソフトウェアの改修に、AIドリブン開発基盤を適用した実証実験を実施。約300件の変更案件のうちの1案件では、従来のソフトウェア開発手法では3人月要していた改修期間が4時間へと大幅に短縮され、生産性を100倍向上できたという。

 具体的には、法令文書を指定し法改正の内容を入力すると、要件定義から結合テストの完了まで、人は一切介在せずにAIが改修作業を実行する。例えば、法令文書を読み込んだ結果、約6万8000本のプログラム資産の中から、対象となる10本のプログラムを特定。要件定義エージェントが工程を終えると、設計エージェントや製造エージェント、テストエージェントへと次々に業務を引き継ぎ、人間のSEによる品質水準に届くまで、AIが自動的にやり直しを重ね、開発プロセスを走り切るという。

 2026年1月からは、富士通Japanが提供するヘルスケアおよび行政分野の67種類(ヘルスケアで30種類、行政で37種類)のパッケージ業務ソフトを対象として、2026年診療報酬改定に伴う改修作業に活用している。2026年度中には、これらのパッケージへの成果の適用を目指すとのことで、合計で150メガステップが対象になるという。

 富士通の國分氏は、「法制度改正は、社会問題を解決し、暮らしをよくする前向きな取り組みだが、同時に、巨大で複雑なパッケージを年間に何度も変更しなければならないという課題が生まれている。お客さまも、その都度、業務運用の変更を強いられ、ベンダーにとっても大きな負担となる。最難関領域だが、そこにAIを活用することになる」と述べた。

67パッケージ全体へ適用を拡大

 さらに、富士通では、2026年度中には、AI-Driven Software Development Platformの適用範囲を金融や製造、流通、公共をはじめとした幅広い分野に拡大するとともに、顧客自身がビジネス環境の変化に対応したシステムを開発できる環境や体制を実現するため、顧客やパートナー企業向けのサービスとして、提供を開始することも示した。

 富士通の岡田氏は、「制度改正への追従が必要な領域での活用にとどまらず、顧客を魅了するために頻繁なアップデートが求められる領域、素早いリリースや修正がビジネスインパクトに直結する領域、大規模で複雑なシステム資産を正確に理解し、改修する領域などに有効である」と語った。

「変化し続けるシステム」に強いAIドリブン開発基盤

AIドリブン開発プラットフォームを支える「3つの特徴」

 今回の技術には3つの特徴があるという。

 ひとつめは、AIによる高度な法令理解と要件定義までを自動化している点だ。

 2024年度の診療報酬改定項目は769ページに達し、医療現場の担当者や富士通のSEがこれらの文書を読み解き、オペレーションやシステム変更に落とし込むには、大きな作業負担がかかっていた。

 ここでは、AIエージェントが法令文書から変更点を抽出して、パッケージソフトの設計書やソースコードと突き合わせながら、画面の表示や判定ロジック、証票レイアウト、データベース更新といった修正ポイントを体系的に整理して、外部仕様レベルの要件を自動生成する。

AIが高度な法令理解から要件定義までを自動化

 2つめは、AI出力の品質を有識者レベルに引き上げる仕組みの実現だ。

 住民向け申請システムを例に挙げると、大都市と小さな自治体では、処理の方法が異なり、現場では設計書だけでは対応できず、暗黙知による対応が必要になる。

 富士通では、Multi-Layer Quality Controlにより、暗黙知や手順、根拠をそろえ、曖昧さや抜け漏れは自動でやり直させることで、設計品質を実務レベルに引き上げることができる。

 自律設計レイヤでは、自律的に観察、思考、行動を繰り返し、開発すべき対象を連続的に具体化および詳細化。ガーディアンレイヤでは、現実の世界の品質監査の専門家のように、自律設計レイヤが出した結果を監査し、不足、曖昧、矛盾があれば、やり直しを指示する。知識レイヤでは、プログラムの開発に対する知識や、現場では当たり前の暗黙知を体系化して蓄積しており、現場の作法を注入できる。

 そして、情報アクセスレイヤでは、知識レイヤに預けられている大量のドキュメントや数百万行のコードを、AIの思考に必要な情報量で、精度を落とすことなく抜き出して利用する。これらにより、AIは自分で学び、自分で調べ、自分で評価し続け、システムを完成させるという。

AI出力の品質を「有識者レベル」に引き上げる仕組み

 3つめは、AIエージェントによる止まらない開発の実現だ。開発工程そのものを止める指示を出さない限り、自律型リレー型アーキテクチャによって、24時間365日にわたり開発を進めるという。

 國分氏は、「法改正のたびに、現場とシステムの双方が疲弊してきたが、その構造を変えることができる。サービスが進化するスピードは飛躍的に高まり、タイムトゥーマーケットは劇的に短縮する。また、蓄積したドメインナレッジは、パッケージソフトウェアの進化という形を通じて、お客さまに対して、より高度な経営課題の解決を提案できるようになる」とした。

AIエージェントによる止まらない開発

 富士通では、AI-Driven Software Development Platformが浸透することにより、エンジニアの働き方を大きく変えることになると提案する。

 富士通の岡田氏は、「これまでのAIは、対話型で開発を支援したり、タスクを自動化したりするため、エンジニアに寄り添いながら、生産性を2倍から10倍程度高めるという成果を生み出した。だが、私たちが開発したAIは、支援するAIではなく実行するAIである。一度指示をすると、結合テストまで自律的に工程を走り続ける。エンジニアは単純な作業から解放され、エキスパートエンジニアはAIが出力した結果を届け、ヒューマン・イン・ザ・ループを実行できる。お客さまとの対話を深め、新たな価値の創出につなげることができる。最大100倍の生産性向上が実現すれば、エンジニアの働き方は大きく変わる」と述べた。

圧倒的な生産性と、エンジニアの働き方改革

AI-Ready Engineeringの肝――自動化の精度を左右する「仕込み」

 また、AI-Driven Software Development Platformの基本となるAI-Ready Engineeringの考え方についても説明した。

 富士通の岡田氏は、「ラーメンの味を決めるのはスープであり、仕込みに24時間かかるものもある。だが、お客さまの前で最終的に仕上げて届けるのは5分や10分だったりする。AIドリブン基盤も同様で、法令に従って、コードが修正されて出てくるのは4時間で済むが、これは最後の仕上げ工程の話であり、仕込みの部分がAI-Ready Engineeringといえる部分になる」と例えた。

 その上で、「システム資産の理解、開発ルールや設計構造の標準化、正解データの準備、実行環境の整備の4つの要素が『仕込み』にあたる。この仕組みの成熟度が自動化の精度を高めることになる。そして、フィッティングを何度も繰り返すことで、AIが正しく動くようになる」とし、「富士通は、1950年代にコンピュータの開発に成功して以来、お客さまと一緒にシステム開発を経験し、長い時間をかけてお客さま業務を習得してきた。富士通は、AI-Ready Engineeringにおいては、非常に強い競争優位性を持つ。また、簡単にまねができない領域である。AIによって、システム開発を一気通貫で自動化するためには、AIを使いこなすことや、AI技術そのものの強みだけではなく、システム開発の実践知が重要である」と述べた。

 そして、「富士通のAIドリブン開発基盤の競争軸は、AI-Ready Engineeringという仕込みと、AIドリブン開発基盤という実行力である」と位置づけた。

AI-Ready Engineeringとは

 さらに、「この取り組みを富士通のなかにとどめておくつもりはない。AIドリブン開発基盤を、新たな標準として業界全体に広げ、育てていきたい」と述べた。

 現時点では、設計書などが整備されているパッケージを対象に改修が行えるようにしているが、今後は、ドメイン知識の蓄積とシステム開発経験を活用しながら、新規アプリケーションを自律的に開発するといったことにも活用できるとしている。

 富士通では、2026年3月以降、月1回のペースで開発者向けコミュニティやイベントを開催するほか、オープン開発コミュニティを立ち上げる考えを示し、半年後には、これらの成果についても発表する考えを示した。

 富士通の岡田氏は、「富士通に求められているのは、長年使われてきた複雑で巨大な既存システムを、AIが理解し、システム開発プロセス全体を変革することである。AIドリブン開発基盤は、システム開発のターニングポイントになる。新しいシステム開発のスタンダードとして発信し、世界中のシステム開発プロセスの変革を、ここから本格展開していく」と意気込みを語った。