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大阪国際がんセンターで「問診生成AI」と「看護音声入力生成AI」の運用開始、日本IBMらが協力

 医療現場でも生成AIの活用が進みつつある。患者への問診や看護の記録作業にAIを活用することで、患者と医療従事者双方の負担を軽減するという取り組みが1日に発表された。

 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所と、地方独立行政法人 大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(以下、大阪国際がんセンター)、そして日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の3者は、「生成AIを活用した患者還元型・臨床指向型の循環システム(AI創薬プラットフォーム事業)」の研究成果として、「問診生成AI」および「看護音声入力生成AI」の開発を完了し、9月から実運用を開始した。

 AI創薬プラットフォーム事業は、3者が2024年3月から共同研究を進めている事業で、同年8月には「対話型疾患説明生成AI」の実運用開始を発表していた。今回の問診生成AIと看護音声入力生成AIは、それに続くものだ。

 医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長の中村祐輔氏は、「医療現場では負担の軽減が重要課題。生成AIの活用によって改善を図り、働きやすい環境と心温まる医療現場を構築し、患者に還元する体制へとつなげたい」とコメント。

 また、大阪国際がんセンター 総長の松浦成昭氏は、「がん医療の高度化に伴い、治療後の生活支援や副作用管理が重要性を増している。従来の紙ベースの情報収集では限界があり、問診や看護記録の効率化が課題だったが、今回の共同研究により、生成AIを活用した問診と看護記録支援システムが誕生した。これにより、医療従事者の負担軽減と患者に寄り添う医療が実現する」と述べている。

医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長 中村祐輔氏
大阪国際がんセンター 総長 松浦成昭氏

 問診生成AIでは、患者やその家族がスマートフォンやタブレット、PCなどのデバイスで、AIアバターとチャットしながら日々の体調を入力する。音声入力にも対応しているため、文字入力が困難な場合も記録が可能だ。「生成AIによる会話形式の問診により、規定項目だけでなく、体調不良時の状況や規定項目以外の症状についても引き出すことができる。入力内容は電子カルテ端末で参照でき、グラフ表示や週ごとのサマリー、前週との比較なども確認できる」と、大阪国際がんセンター 腫瘍内科 部長の工藤敏啓氏は説明する。

 問診生成AIの効果について工藤氏は、「問診情報の一元化によって医療者の業務負担が約25%軽減できるほか、患者も医療者に同じ説明を繰り返す必要がなくなる。迅速かつ的確な診療が可能となり、患者の満足度向上にも寄与するだろう。スマートフォンによる入力で副作用の見逃しを防げるほか、患者自身が治療経過を振り返ることで、体調管理にも活用できる」としている。

問診生成AI
問診生成AIの期待される効果
大阪国際がんセンター 腫瘍内科 部長 工藤敏啓氏

 一方の看護音声入力生成AIは、「看護師1人あたり1日平均94分、勤務時間の約20%を記録作業に費やしている」(大阪国際がんセンター 看護部長 山根康子氏)という課題に対応するもの。看護業務における記録作業の中でも、特に改善効果が大きいと見込まれる看護カンファレンスと電話サポートの2つの業務で生成AIと音声認識AIを活用したアプリを導入した。

大阪国際がんセンター 看護部長 山根康子氏

 山根氏は、看護カンファレンスにおいて、従来の手動記録とAIによる自動要約記録の比較検証結果を示し、「記録作業時間が42.2%短縮できた」とする。また、記録品質についても「正確性、網羅性、関連性、明瞭性、一貫性の全項目で、AIによる記録が高評価を得た」としている。

看護カンファレンスで実証された看護音声入力生成AIの効果

 電話サポート窓口では、AIによる音声自動要約により、記録作業の効率化や、患者との電話応対への集中、記録品質の向上という3つの効果が期待できるという。山根氏は、「AIが生成した要約を確認し、最小限の編集で記録が完了するため、患者との会話に集中できる」と語る。

電話サポートで期待される看護音声入力生成AIの効果

 なお、問診生成AIと看護音声入力生成AIは、いずれも大阪国際がんセンターの院内ポリシーに準拠し、セキュリティを確保したネットワーク接続を構築した上で、現行運用の他社製電子カルテシステムの仕様に沿って安全な自動データ連携を行っている。また、IBM Watson Speech to Textによる音声認識と、IBM watsonx.aiが提供する日本語要約に最適な大規模言語モデルを活用し、患者が入力した情報についてもセキュリティとプライバシーを確保するための厳格な対策が講じられているという。

 今回発表した両サービスは、今後実用面で改良を図るほか、「ほかの医療機関にも展開する準備を進める」と、日本IBM 執行役員の金子達哉氏。また、昨年度乳腺外科で実運用を開始した対話型疾患説明生成AIは、今月より胃外科や大腸外科でも運用を開始し、その他の科への展開も準備する。電子カルテの情報から医療文書に必要な項目を選んで文書の作成を支援する「書類作成・サマリー作成」についても検証が完了し、今月より運用を開始する。

 さらに、初診の問診をデジタル化する仕組みも今月より利用開始する予定で、初診時に提出する紙の問診票をスマートフォンなどから提出し、電子カルテに自動的に取り込むようにするという。

 金子氏は、「医療現場で実際に使えるアプリケーションを今後も継続的に改善し、患者と医療従事者双方に役立てていきたい」と語った。

日本IBM 執行役員 金子達哉氏