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安藤ハザマとNTT、IOWNを活用したトンネル工事DXに向けたドキュメントを一般公開

遠隔化・自動化への重点取り組みと4つのユースケースを策定

 株式会社安藤・間(以下、安藤ハザマ)とNTT株式会社は7日、両社を中心としたIOWN Global Forum検討チームのメンバーとともに、トンネル建設現場におけるIOWNを活用した施工管理の遠隔化・自動化について重点的に取り組むべき業務領域とユースケースを策定し、満たすべき評価基準とともに取りまとめたドキュメント「Use Case and Technology Evaluation Criteria -Construction Site」が、IOWN Global Forumで正式承認を受け、一般公開されたことを発表した。同日には、公開されたドキュメントの概要やユースケースの内容、今後の展開などについてオンライン記者説明会が行われた。

 今回公開されたドキュメントは、山岳トンネルを主なターゲットとしており、これまで現場中心・熟練作業者依存だったトンネル工事を、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術を活用し遠隔・リアルタイムで1000km離れていても安全かつ効率的に管理するため、重点的に取り組むべき業務領域を定め、問題・課題を解決する4つのユースケースを策定している。

 安藤ハザマ 技術研究所 フロンティア研究部 宇宙技術未来創造室 室長の船津貴弘氏は、山岳トンネル工事について、「山岳トンネルの建設現場では、トンネルの強度確保のため内壁にコンクリートを打設する覆工と、地盤安定化のため底面にコンクリートを打設するインバート工を実施する。そして、掘削作業の最前線である切羽では、穿孔・発破による削岩から、ずり出し、支保工建込み、コンクリート吹付け、ロックボルトまでの施工サイクルが行われ、1日の進捗は約5~6mとなっている」と解説した。

山岳トンネル建設現場の概要

 こうした山岳トンネル工事では、危険を伴う環境での作業や、ベテラン人材の減少といった課題を抱えており、崩落や事故の予兆をいち早く検知するデータ解析や、オフィスなどから現場の管理や検査を実施する遠隔施工管理や遠隔臨場、トンネル施工の自動化、中央制御室による施工情報の集中管理など、建設現場の高度化に向けた取り組みが進められている。

 一方で、現場状況を正確に把握・解析するためには、リアルタイムに多様なデータをやり取りする大容量・低遅延通信や、現場やオフィス、データセンターなどの多拠点間の接続、過去の現場データを活用したAIによる高度なデータ分析を行うための情報処理能力を確保する必要がある。

 しかし、トンネル建設現場では、工事期間中のみ使用する仮設の通信設備に対してコストをかけられないことや、従来、通信を必要とする作業が測量データやカメラでの切羽監視などに限られていたことから、ネットワークをベースとしたICT基盤の構築が進んでおらず、トンネル建設現場の高度化に向けたソリューション導入の障壁となっていた。

 これらの課題を解決するため、安藤ハザマとNTTでは、世界の業界リーダーが集うIOWN Global Forumにおいて、パートナーメンバーとともに、トンネル建設現場のオートメーション化の実現に向けたIOWN適用を検討するチームを立ち上げて活動してきたという。

 NTT IOWNプロダクトデザインセンタ 戦略デザインプロジェクト 主任研究員の伊藤伸樹氏は、「IOWNは、光電融合技術と光通信技術の開発によって実現する次世代の通信・コンピューティング融合インフラであり、既存インフラに対して、大容量・低遅延・低電力消費を大きな優位性としている。これにより、今のインフラの限界を克服し、持続可能な社会を創造することを目指している。IOWN Global Forumは、NTT、インテル、ソニーが2020年1月に設立した国際的なフォーラムで、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスアーキテクチャの開発を通じ、IOWNの実現を目指す非営利団体となっている。今年7月時点で、アジア・米州・欧州を含む168組織・団体が参画している」と説明した。

IOWN構想について

 今回、トンネル施工管理の遠隔化・自動化に向けたシステム構築を推進するためのリファレンス実装モデルを作成するにあたり、現状のトンネル現場における問題・課題をベースに取り組むべき業務領域を定め、最大1000km離れた施工者や発注者のオフィス、現場、データセンタなどが相互にIOWN APNで接続された構成において、早期に実現が見込める4つのユースケースを策定。このユースケースをまとめたドキュメントが、建設業界で初めて、IOWN Global Forumで承認され、一般公開となった。

 ドキュメントでは、「定常的な監視とデータ収集(遠隔監視)」、「施工中必要時のデータ分析(遠隔解析)」、「モバイル検査(遠隔臨場)」、「通信ファイバを活用した維持管理(モニタリング)」の4つの早期ユースケースを提案するとともに、実現に必要な基準を掲載している。

ユースケースのベースとなる構成概略

 各ユースケースで実現する内容としては、ユースケース1「定常的な監視とデータ収集」では、IOWN APN経由で建設現場の高解像度映像・センサデータを遠隔地に集約し、AIによる自動分析で常時監視・早期安全リスク検知を実現する。

ユースケース1「定常的な監視とデータ収集(遠隔監視)」の概要

 ユースケース2「施工中必要時のデータ分析」では、IOWN APNを介して現場と遠隔処理環境を接続し、大容量点群データ解析にかかる時間を、工事進行を妨げない60秒にまで短縮。安全・品質判断の即時性を確保する。

ユースケース2「施工中必要時のデータ分析(遠隔解析)」の概要

 ユースケース3「モバイル検査」では、取り回し可能な高精細カメラとIOWN APNで、必要な時に遠隔拠点から検査者の着目点を正確に捉えるピンポイント検査を実現する。

ユースケース3「モバイル検査(遠隔臨場)」の概要

 ユースケース4「通信ファイバを活用した維持管理」では、施工中に組み込まれた光ファイバなどをセンシングに転用し、延長方向の任意の箇所の歪み検知と加速度計測を行うことで、剥離や変形といった変状や経年劣化を遠隔で常時監視するシステムを構築するとしている。

ユースケース4「通信ファイバを活用した維持管理(モニタリング)」の概要

 今後は、ドキュメントの公開を起点に広範にパートナーを募るとともに、各ユースケースのソリューション開発を促進するためにアーキテクチャや評価基準を議論し、実現に向けた明確な要件を整理することで、システム構築に必要な情報を記載したリファレンス実装モデルの公開に向けて取り組んでいく。それぞれのユースケースについては、IOWN Global Forumのメンバーやパートナーと協力して2026年3月までにPoC(Proof of Concept)を開始する予定。

 PoCでは通信に関する技術仕様について机上検討を行い、パソコン上でのシミュレーション、ラボ環境での実験を通して通信性能を確認し、現場でのIOWN技術を活用した実証を行う。PoCから得られた検討結果や実証結果を今後公開するドキュメントに反映することで、トンネル建設工事に関わる多くのステークホルダにとって有益となる次世代のICT基盤構築を目指す。

 さらには、安藤ハザマの海外施工実績やNTTの国際展開力も活用し、IOWN Global Forumのメンバーとともに国内外の建設業界全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、未来の建設現場のあり方を大きく変えることを目指していく。