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AWS、生成AI関連の取り組みやソフトウェア業界での生成AI活用事例を紹介

サイボウズやディップ、フリーの担当者も登壇しAWSを用いた自社の取り組みを説明

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)は30日、SaaS事業者による自社サービスでの生成AIへの取り組みと、そのためにAWSのBedrockなどの生成AIサービスを活用している状況について、記者説明会を開催した。

 kintoneのサイボウズ株式会社、バイトルのディップ株式会社、freeeのフリー株式会社の3社が、自社の取り組みについて紹介した。

 また、AWSジャパンの佐藤有紀子氏が、AWSによる生成AIのサービスや支援策について説明した。

左から、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 佐藤有紀子氏(常務執行役員 デジタルサービス事業統括本部長)、サイボウズ株式会社 栗山圭太氏(執行役員 事業戦略室長 兼 マーケティング本部長 兼 グローバル事業本部長)、ディップ株式会社 長島圭一朗氏(執行役員 CTO 兼 ソリューション開発本部長 兼 メディア開発統括部長 兼 プラットフォーム開発統括部長)、フリー株式会社 木村康宏氏(常務執行役員 CPO)

Amazon Bedrockと、導入活用支援、生成AI販売プラットフォームによる支援

 AWSジャパンの佐藤有紀子氏(常務執行役員 デジタルサービス事業統括本部長)は、クラウドによるイノベーションにいち早く取り組んできたSaaSやインターネットサービスの企業が、AIを自社のプロダクトに組み込んで、ユーザーに生成AIの付加価値の提供を開始していると語った。

 そして、そうした企業のニーズに応えるAWSの生成AI関連サービスの特徴として、企業が自社プロダクトに組み込める生成AIのビルディングブロックを用意してタイムトゥマーケットを早くすること、テキストや画像など多岐にわたるニーズに応える柔軟性、データ保護やAIガードレールなどのセキュリティと信頼性の3つを挙げた。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 佐藤有紀子氏(常務執行役員 デジタルサービス事業統括本部長)
SaaS企業のニーズに応えるAWSの生成AI関連サービスの特徴

 その中心となるAWSのサービスが、さまざまなAIモデルを統一的に利用できる生成AIプラットフォームの「Amazon Bedrock」だ。佐藤氏は、日本でもすでに多くの企業がBedrockを利用していることを紹介し、その中からウェザーニュースと弁護士ドットコムの例を取り上げた。

 ウェザーニュースはスマートフォンアプリに、天気に関して自然言語で質問できる「お天気エージェント」を搭載した。サブスクリプションプラン「ウェザーニュースPro」の会員向けの機能として提供したことで、会員増加につながっているという。この機能は、Bedrockを活用して、開発から1カ月でリリースされたと佐藤氏は紹介した。

 また弁護士ドットコムでは、リーガルデータベースを生成AIから横断的に検索する「Legal Brainエージェント」を開発し、調査業務のスピードと精度を向上させた。これもBedrockをはじめとするマネージドサービスを活用することで、法務実務に耐えられる応答精度やスケラビリティを実現したと佐藤氏は紹介した。

日本でのBedrock利用企業の例
ウェザーニュースと弁護士ドットコムのBedrock事例

 また、AWSからの支援として、Bedrock、導入活用支援、生成AI販売プラットフォームの3つを佐藤氏は挙げた。

 Bedrockについては、新しいものとして、7月に発表された「Amazon Bedrock AgentCore(Preview)」を佐藤氏は取り上げた。AIエージェントを開発してデプロイするためのさまざまな機能をビルディングブロックとして提供するもの。米国2カ所(バージニア北部、オレゴン)と、シドニー、フランクフルトのリージョンで提供する。

 導入活用支援としては、「AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム」を佐藤氏は取り上げた。すでに「モデルカスタマイズコース」と「モデル活用コース」を合計200社超が利用し、2025年度からは「戦略プランニングコース」も追加された。

 生成AI販売プラットフォームとしては、これも7月に発表されたマーケットプレイスの新カテゴリー「AI Agents and Tools in AWS Marketplace」を佐藤氏は取り上げた。事前構成済みのAIエージェントや、AIエージェントから利用できるMCPサーバー、AIエージェントを導入するためのコンサルティングサービスなど、幅広いラインアップをそろえているという。

 「AI Agents and Tools in AWS Marketplace」ですでに出品している日本のパートナー企業としては、株式会社アンチパターンによるSaaS開発支援ツール「SaaSus Platform」のMCPサーバーと、株式会社エクサウィザーズによるAIエージェントを設計・開発・実行するオールインワンプラットフォーム「exaBase Studio」を佐藤氏は紹介した。

AWSの支援の例3つ
Amazon Bedrock AgentCore(Preview)
AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム
AI Agents and Tools in AWS Marketplace
「AI Agents and Tools in AWS Marketplace」ですでに出品している日本のパートナー企業:株式会社アンチパターンと株式会社エクサウィザーズ

サイボウズ:kintoneに、生成AIで検索やアプリ作成ができる機能を追加

 サイボウズ株式会社の栗山圭太氏(執行役員 事業戦略室長 兼 マーケティング本部長 兼 グローバル事業本部長)は、ノーコードでWebデータベース型業務アプリを作る「kintone」のAI機能について説明した。Bedrockを使って開発し、β版を「kintone AIラボ」として公開しているものだ。2つの機能を公開済みで、7月中にもう1つの機能を公開予定。

サイボウズ株式会社 栗山圭太氏(執行役員 事業戦略室長 兼 マーケティング本部長 兼 グローバル事業本部長)
kintoneのAI機能のβ版を「kintone AIラボ」として公開

 AI機能の1つめは「検索AI」。RAG技術によって、チャット形式で質問するとAIがkintoneに蓄積したデータを検索して回答してくれるものだ。自然言語で問い合わせられるようにすることで、検索における「あの情報どこだっけ」というストレスを削減するという。特に、社内の業務マニュアルやFAQで成果が出ていると栗山氏は説明した。

kintoneの「検索AI」

 2つめは「アプリ作成AI」。kintoneは「やりたかったことが、簡単に早く」をコンセプトとしているが、そのやりたいことが具体的に浮かばない人に向けたものだという。ふわっとした指示でも言葉でAIに伝えることで、取りあえずAIがアプリを提案してくれる。これにより、自分が思っていなかったものも提案されるなど、新しいアイデアやヒントを得るのにも使えるとのことだった。

kintoneの「アプリ生成AI」

 3つめは「プロセス管理設定AI」で、7月中にリリース予定。kintoneでワークフローのプロセス管理設定は比較的難しいとのことで、そこを言葉で伝えるとプロセス管理の設定を提案してくれるものだとのことだ。

kintoneの「プロセス管理設定AI」

 栗山氏はkintoneがBedrockを利用するメリットについて、セキュリティが強固なことや、Amazonのサポート体制、AIのアクセス権限のリスクがないことなどを挙げた。

 そしてkintoneのAI機能について、自社データでAIを使うという第一歩を踏み出しやすいものになっているので、まず使ってみてほしいと語った。

ディップ:スキマバイトの違法や不適切な求人をAIで検出して排除

 ディップ株式会社の長島圭一朗氏(執行役員 CTO 兼 ソリューション開発本部長 兼 メディア開発統括部長 兼 プラットフォーム開発統括部長)は、スキマバイトを探すサービス「スポットバイトル」において、違法や不適切な求人を排除するための審査に生成AIを用いたシステムを説明した。

ディップ株式会社 長島圭一朗氏(執行役員 CTO 兼 ソリューション開発本部長 兼 メディア開発統括部長 兼 プラットフォーム開発統括部長)
対象サービスは「スポットバイトル」

 それ以前にも審査フローはあったが、文字列パターン(正規表現)と人手によるものだった。それにより、審査の工数がかかっていること、属人的でスケーラビリティに欠けること、基準のあいまいさや判断のばらつき、といった課題があったと長島氏は語った。

 そこで、Amazon Bedrockを利用して、求人審査支援AIシステムを構築している。現在できている仕組みとしては、Amazon Bedrockで求人原稿を分析して問題のあるものを検出し、その結果をデータベースに格納して、Amazon QuickSightにより可視化する。

 今後の構想としては、求人の作成や変更の際のリアルタイムなAI審査を考えているという。また、違法や不適切な求人だけでなく、報酬や業務内容が不明瞭な求人情報についてもスコアリングして可視化したいと長島氏は語った。

 このシステムでBedrockを選択した理由として、もともとAWSを利用していてデータもAWSにあり、BedrockやQuickSightなどの各サービスとスムーズに接続できる点を長島氏は挙げた。そのほか、Bedrockによるモデル選択の柔軟性なども挙げられた。

 さらに、将来的にはプロンプトベースだけでなくエージェント型AIも考えており、そのときにBedrockが柔軟に対応できることが大事だと考えている、と長島氏は付け加えた。

スポットバイトルにおける求人の審査の課題
求人審査支援AIシステム
処理フロー
QuickSightによる可視化

 実際に試してみてわかったビジネスメリットとしては、まず人間が感覚的な判断で見落としていたNGワードをAIが発見できていることが確認された。また、人間は1件目のNG事項に気をとられてそこで終わってしまいがちなのに対して、AIは複数のNG事項を一括で検出してくれ、抜け漏れのない審査が可能になった。さらに、判定結果をもとに傾向を横並びに可視化できることで、人間が再確認すべき傾向をピンポイントで絞り込むことができるようになり、審査の工数の削減が現実的だと長島氏は説明した。

 今後については、掲載前のAIによる自動チェックを8月にリリース予定。これによってリスクのある求人が表に出る前にブロックできるという。

 そして、業務効率の飛躍的向上や、プラットフォーム全体の信頼性向上を果たし、審査機能全体の持続化と品質向上につなげていきたいと長島氏は語った。

現在わかったビジネスメリット
今後のビジネスメリット

フリー:AIエージェントがいろいろな業務のアシスタントになる「freee AI(β)」

 フリー株式会社の木村康宏氏(常務執行役員 CPO)は、同社の統合型経営プラットフォームfreeeにおいて、「AIエージェントがいろいろな業務に入り込みアシスタントに」というコンセプトで5月からトライアル受付を開始している「freee AI(β)」について説明した。

 その役割としては、社内で申請や承認において、人と人の間の“お願い”になっているところを、AIが代わることで、人間は確認して“報告”するだけになるようにするのが狙いだと木村氏は語った。

フリー株式会社 木村康宏氏(常務執行役員 CPO)
freee AI(β)
「お願い」から「報告」に

 具体的なものとして、まずは、2025年秋提供開始予定の「まほう経費精算」。レシートなどを写真に撮るだけで、あとはAIが申請の種類や内容を判断して、あとは提出するだけになるというものだ。

 次は、同じく2025年秋提供開始予定の「AI年末調整」。年末調整は年1回なので、保険の証書として去年のものを出してしまった、といったミスで差し戻しが発生し、出す側も受け付ける側も互いにハッピーではないという。しかも、年1回なのでピークが集中するという大変さもある。そこで、書類を写真に撮ると、AIが書類に必要な項目を埋めてくれ、書類間違いなどのミスも本人とAIとの間で差し戻してくれるものだと木村氏は説明した。

 2024年12月からクローズドβ版で提供を開始しているのが「AIクイック解説」だ。新しく会社を経営する人などで、会計ソフトの中で財務情報をどう分析して経営に生かしていくかよくわからないという場合に、AIが解説してサポートしてくれる、“クラウドCFO”と呼べるようなものだと木村氏は語った。

まほう経費精算
AI年末調整
AIクイック解説

 最後に木村氏は、freeeがAWSを選ぶ理由として、これまでAWSを活用してきた中でサポートを受けて信頼している点、安全安心なセキュリティインフラ、利用者のデータを学習に利用しないことを保証している点、AIについても充実した支援を受けている点など、同社のAWSへの信頼を挙げた。