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生成AI活用で効果を上げる企業、国を超えた共通点が明らかに――PwC調査
2025年6月24日 06:30
PwC Japanグループは23日、生成AIに関する実態調査についてメディアセミナーを開催した。今回の調査は、2025年2月下旬から3月中旬にかけ、日本、米国、中国、ドイツ、英国の5カ国にて実施したもので、生成AIの導入に関与している課長職以上を対象に、生成AIに関する認知や興味・関心、活用状況などを調査した。
PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナーの三善心平氏によると、5カ国の結果を比較したところ、生成AIの活用で高い効果を上げている企業には、国を超えた共通点があることがわかったという。
三善氏はまず、日本単独の状況を解説。「2023年の春には8割ほどの企業が生成AIの活用に未着手だったが、1年後の2024年春には未着手の企業が約1割まで減少し、活用が急速に進んだ。2025年春には、活用中の企業が56%にのぼっている」とした。
生成AIの活用効果に対する期待については、「昨年と比較したところ、期待を大きく上回っている、または期待通りの効果があったと答えている企業の割合はほぼ変化がない一方で、期待を下回ると回答した企業が増加した」と三善氏。期待を大きく上回ると答えた企業と、効果が期待未満だったと答えた企業の違いについては、「目的意識や推進体制、業務プロセスに違いがある」という。
具体的には、期待を大きく上回ると答えた企業は、生成AI活用を「業界構造を根本から変革するチャンス」ととらえ、期待未満と答えた企業は「自社ビジネスの効率化・高度化に資するチャンス」ととらえていたという。
また、生成AIの導入を推進する部門については、期待を大きく上回ると答えた企業では61%が「社長直轄(経営トップが直接推進している)」と回答した一方、期待未満と答えた企業では経営トップによる推進は8%だった。
CAIO(最高AI責任者)の配置状況にも差が見られ、期待を大きく上回る企業では、CAIOが配置されている割合が60%と、期待未満の企業の11%と比較して明確に高かった。
生成AIによる業務置き換えの見込みについても、期待を大きく上回ると答えた企業は、生成AIによって業務が「完全に置き換わる(100%)」「大部分が置き換わる(60~80%程度)」との回答が合計70%にのぼった一方、期待未満と答えた企業では同様の回答が16%にとどまった。
AIエージェントの導入状況も、期待を大きく上回ると答えた企業は、77%が「AIエージェントについて理解しており、導入済み/導入を進めている」と回答したが、期待未満と答えた企業では同様の回答が26%だった。
期待を大きく上回る企業と、期待未満だった企業にその理由を聞いたところ、順位こそ異なるものの、1位と2位に「ユースケース設定」と「データ品質」が並んだ。三善氏は、「特に、期待を大きく上回る企業では、ユースケースの設定が期待を超えた1番の理由だったと58%が回答している」と指摘する。一方、期待未満だった企業については、「データガバナンスやデータマネジメントがうまくできていないのではないか」と三善氏は述べている。
AI推進度は平均的だが効果は低い日本
日・米・英・独・中の5カ国で調査結果を比較したところ、「日本の生成AI推進度は平均的だが、明らかに効果が低い。生成AI活用を効率化のツールとしてとらえており、生成AI活用に向けた体制や業務、ガバナンスの変革には至っていない」と三善氏は分析する。
また、生成AIの導入推進部門については、特に「社長直轄」や、組織横断的な取り組みを進める「CoE(Center of Excellence)組織」が関与する割合が、他国と比べて半分以下と大きな差があることを三善氏は指摘。CAIOの配置についても、米国と英国は38%、中国は37%、ドイツは21%で「配置されている」と回答したが、日本では14%にとどまった。
5カ国で共通する成功要因とは
このように、今回の調査では日本と他国の生成AIに対する体制の違いが明らかになったが、生成AIへの期待が上回っている企業では国別での差が小さく、「期待を上回る企業では、成功要因が国を超えて共通している」と三善氏は語る。
例えば、期待を上回ると答えた企業では、生成AIを「業界構造を根本から変革するチャンス」ととらえる割合が各国で高かったほか、導入推進部門に関しては「社長直轄」で導入を推進する割合が5カ国共通で高かったという。
また、期待を上回る企業は、生成AIを業務プロセスの一部として取り入れている割合が各国ともに高かった。逆に、業務担当者の判断で任意に利用できる状態の企業は、期待を下回っている割合が高いことも各国でほぼ共通していた。
生成AIを活用する従業員の割合については、期待を上回る企業では「全従業員(100%)」と回答する割合が各国で高かった。「特に日本では、期待を上回る企業で全従業員と回答した割合が4割と、5カ国の中でも特に高かった。日本の方が全従業員で活用する傾向が高い」と三善氏は指摘している。
こうした5カ国間で共通する成功要因を踏まえると、今後日本企業が生成AIの活用で効果を上げるには、「トップダウンでの意思決定や、リスク回避文化の緩和、高い目標設定と変革マインドの醸成が不可欠だ」と三善氏は述べている。