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米MicrosoftのバルマーCEOが来日講演、「Windows 8.1は新たな旅の延長線上」

クラウド戦略の優位性も強調

 米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは23日、都内で報道陣を前に講演。そのなかで、バルマーCEOが強調したのが、新たに日本リージョンの設置を発表した日本におけるクラウド戦略への取り組みと、同社が掲げる「デバイス&サービス カンパニー」への変ぼうという2点だった。なお今回の来日記者会見は、質問を受け付けない仕組みとしたため、「講演」というスタイルを採用した。

 バルマーCEO、22日夕刻に日本に到着。朝から主要顧客やパートナーを訪問。さらに経済産業省の茂木敏充大臣と面談する予定を明らかにし、「日本の将来の成長に対して、Microsoftはどんな支援ができるかといったことについて話したい。特に、中堅・中小企業の支援について取り上げたい」などと語った。

Microsoftのクラウドがユニークな点

米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO

 バルマーCEOが語った同社のクラウド戦略については、既報の通り、日本リージョンの設置が新たなトピックスとして発表されたが、バルマーCEOは、それ以外にも同社クラウド戦略について言及した。

 「クラウド・コンピューティングは、大きな変革を起こしているものであり、企業に対して無制限のコンピューティングパワーを提供するものである。企業はリソースを気にせずに利用でき、新たなビジネスや新たな市場に挑戦でき、企業の成長に生かすことができる」と前置き。

 その上で、「Microsoftがユニークな点は、クラウドの展開とともに、エンタープライズデータセンターにも投資をし、さらに依然としてオンプレミスでもソリューションを提供している点にある。ExchangeやOfficeをオンプレミスで利用していても、クラウドで利用していても、あるいはその両方を利用してもいい。顧客の使いたい方法で利用することができる」などとした。

 また、「Microsoftにとって、クラウドサービスの最初のフラッグシップはOffice 365となるが、これは当社の歴史のなかでも、最も急成長している事業である。大手企業も中小企業も、これを活用することでワールドクラスの生産性向上を図ることができる」と、その実績をアピールする。

 続いて、日本リージョンの設置が発表されたWindows Azureについては、「パブリッククラウドのプラットフォームであるWindows Azureは、信頼性が高く、柔軟性があり、価値を提供できる。業界内で最も高い水準のサービス保証をしている。独自のデータセンターで一部のアプリケーションを展開するといった活用のほか、サービスプロバイダーが持つデータセンターでの運用、Microsoftのデータセンターでの活用も可能。それらが共通のセキュリティ、管理体制、運用体制で、ひとつのインフラとして活用できる。これによって柔軟性や規模拡張といった得ることができる」などと述べ、同社のクラウドサービスの特徴を訴えた。

 また、バルマーCEOは、「新しいリージョンを展開するのは決して簡単なことではない。データセンターを開設はできるが、クラウドサービスという観点で考えれば、データセンターだけでなく、管理用インフラ、ネットワークのパイプの太さ、どうやってキャッシングをするのか、データはどこに格納され、どうやってストレージを展開するのか、そして香港、シンガポール、米国とつなげるということが必要になる。日本に対して、引き続き投資をしていく」などと述べた。

クラウドの選択肢を提供する

講演では、樋口社長がバルマーCEOにクラウドの強みなどを問うといった趣向も凝らされた

 さらに、バルマーCEOは、日本マイクロソフト 樋口泰行社長の質問に答える形で、クラウドにおける競合に対する強みについて回答。「Windows Azureは、クラウドのコアのプラットフォームであり、クラウドのインフラストラクチャである。VMware、Amazon、Google、salesforce.comといった競合他社との違いは、Microsoftは唯一、プライベートクラウド、パブリッククラウドの選択肢を提供している。他社は100%パブリッククラウドか、100%プライベートクラウドである」との違いを説明した。

 「2番目には、共通した管理環境、セキュリティ環境、そして開発用ツール、管理ツールなどを提供している点である。100万台のサーバーを持ち、これほどの規模や経験を持って、大規模なクラウドインフラストラクチャーを展開しているところはほかにない。ラピッド・アプリケーション・デベロップメントのための開発ツールや、複雑なハイエンドのツールも必要である。Officeやエンタープライズクラウドサービスも用意して、すべて提供している。ほかのプレイヤーとは違う独特な要素を持っている」(バルマーCEO)。

 なおバルマーCEOによると、フォーチュン500社のうち、約半分の企業でWindows Azureを採用しているという。「日本では、トヨタがWindows Azureを活用して、次世代のテレマティクスシステムを構築している。Gazoo.comでも、SharePointをAzure上で動作させ、月間160万人の自動車愛好家が利用するサイトを運用している」などとした。

 また、樋口社長は、「東日本大震災以降、クラウドに対する関心が高まっている。クラウドが災害対策に有効であること、企業の競争力も向上することが証明され、クラウドが不可欠な存在になっている。日本の新たなリージョンによって、さらに多くの顧客に効果的に利用されることを願っている」としたほか、「Windows AzureのパートナーによるWindows Azureサークルと呼ばれるプログラムが用意され、日本から26社のパートナーが参加している。この26社を加えて、日本国内では45社が展開している」などと語った。

Windows 8.1は新たな旅の延長線上

 一方で、「デバイス&サービス カンパニー」への変ぼうという観点では、創業以来、同社が掲げてきたソフトウェアカンパニーからの脱却を強く印象づけるものとなった。
 バルマーCEOは、「私がMicrosoftに入社したころは、Microsoftは、マイクロコンピューティング・ソフトウェア企業であるということに確信を持っていた。いまのソフトウェアは、IT業界において、引き続き高い価値を持っている。だが、ソフトウェアのデリバリー方法は過去のようなものではなくなっている。クラウドのデータセンターから配信されるのがいまの手法である。つまり、これはハードウェアとソフトウェアがいかに統合できるかが鍵であり、ハードウェアそのものが急激な変革のなかにある。Microsoftが目指すデバイス&サービス カンパニーとは、いままでのように単にソフトウェアを開発し、WindowsをOEMベンダーに引き継ぐというものではなく、われわれが積極的に介入しなくてはならない時代に入ってきたことを示している。Microsoftは、ソフトウェアとともに、ハードウェア設計のところにも入っていき、新たなデバイスを開発し、OEMベンダーとも協力をしながら市場を創造していかなくてはならない」としながら、「パートナーとの関係はこれからも重要であり、一緒になって次世代のデバイスを作っていく」とも語った。

 また、「Microsoftは、この1年の間にも、新たなデバイス、サービスを市場導入し、日本においては13社のPCメーカーから、250機種以上のWindows 8搭載デバイスが投入され、Surface RTも日本市場で投入された。Windows 8は、タブレットとPCの良いところ、タッチとキーボードの良いところを一体化して使い方を提案し、仕事でも、遊びにも利用できるようにしている」との実績を強調。

 「今後、数カ月の間に、Windows 8に関する新たな展開を行う。Windows 8.1は、Windows 8で開始した新たな旅の延長線上にある製品で、Windows 8ユーザーは、今年後半にはWindows Storeを通じて無償でアップデートできるようになる。これにより、次世代のPC、タブレットを実現し、お客さまに新たなエクスペリエンスを提供できる。プレビュー版は、6月末から提供する」と語った。

 さらに、Windows Phoneについても触れ、「Windows Phoneは、WindowsタブレットやPCと同じような機能を持ち、同じようなサービスを利用でき、共有できる。いまは、日本でWindows Phoneの展開は行っていないが、(日本での展開に向けて)努力はしている。市場導入する際には、スマートフォンの刷新が図れると考えている。(iPhoneのように)ひとつのスマートフォンで多くの人たちに展開するのではなく、一人ひとりに向けてパーソナル化されたスマートフォンを展開できるようにしているのが、Windows Phoneの特徴である」とした。

 また、日本市場については、「Microsoftにとって、日本は大変重要な市場である。子会社のなかで2番目に大きな規模を誇り、27年間にわたって、ビジネスを行ってきた。1万社のビジネスパートナーがあり、13社のハードウェアメーカーがWindowsデバイスを作っている。また数1000社のデベロッパーがわれわれのプラットフォーム上で開発を行っている。決意を持ってイノベーションに取り組み考えであり、日本の企業の成長に寄与、世界的な競争力強化を支援したい。新しいリージョンの設置も日本への投資のひとつである。成長するのは新興国だけではなく、日本のような先進国も成長すると考えている」などと述べた。

(大河原 克行)