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富士通、超音波AI技術による非破壊での冷凍マグロの鮮度評価に成功

 東海大学海洋学部水産学科の後藤慶一教授、および富士通株式会社の共同研究グループは21日、冷凍マグロの重要な品質指標の一つである鮮度について、超音波AI技術を活用することで、冷凍状態のまま非破壊で評価することに世界で初めて成功したと発表した。

 天然マグロの大部分は漁獲時に船上で急速冷凍され、消費者のもとへと届くが、その品質は漁獲時の状況や流通過程での管理に大きく左右される。品質の判別には、水揚げ時などに行う尾切り選別をはじめとする破壊的検査が主に用いられており、品質を評価できるタイミングや適切に評価できる熟練者が限られ、また評価できる部位が尾周辺のみで限定的となっている。

 一方、非破壊検査の手段としては、さまざまな分野で超音波検査が使われているが、冷凍マグロに代表される冷凍物においては音波の減衰が大きく、一般的な超音波機器を使った検査が困難で課題となっていた。

 そこで共同研究では、マグロの品質異常の一つである鮮度不良を対象にして、減衰の少ない低周波数の超音波を用いて検査し、その波形を機械学習によって解析することで、世界で初となる非破壊検査による冷凍マグロの鮮度不良の判定に成功したという。

 研究でははじめに、冷凍マグロの超音波検査に最適な超音波の周波数を検討するため、いくつかの周波数で試行した結果、500kHz程度の比較的周波数の低い超音波が最適なことを明らかにした。

 次に、正常な検体と鮮度不良の検体からそれぞれ取得した超音波波形を比較したところ、鮮度不良の冷凍マグロから取得した波形では中骨からの反射が大きいことが判明し、この結果を用いて中骨からの反射波を活用した鮮度の判別を試みた。ただ、目視で判別可能な波形だけでなく、判別が困難なものもあるため、こうした波形も含めて超音波AI技術による鮮度不良の判別を目指した。

目視で判別可能な波形
AIで判別可能な波形

 具体的には、正常と鮮度不良のマグロの輪切り検体合計10個から取得した222個の超音波波形のうち、中骨からの反射波を切り出して機械学習を行った。さらにこれらの検体に加えて、正常と鮮度不良の輪切り検体合計6個から取得した126個の超音波波形を用いて鮮度不良度スコアの値を算出し、正常検体の波形と鮮度不良の波形を区別できるかを検証した結果、鮮度不良度スコアに有意差が認められたという。

 また、機械学習モデルの性能を、鮮度不良スコアが作るAUC-ROC(Area Under the Curve of the Receiver Operating Characteristic curve)を用いて評価したところ、性能が発揮できるとされる「0.7」を超える「0.791」の値が得られた。これは、約7割から8割程度の確率で正しく判定できる性能であり、冷凍マグロを超音波AIにより非破壊検査することに成功したとしている。

システム画面イメージ

 想定される利用シーンとしては、水産商社が漁師からマグロを購入する際に、ハンディターミナル形式で数カ所かざすことで、全体の鮮度を容易に検査可能になることや、漁港などでベルトコンベア形式の検査に技術を適用することで、冷凍マグロの鮮度について自動一括検査を実現できるとしている。

 両者は今後、マグロの検体数を増やすことで超音波AI技術の精度向上を図るとともに、血栓や腫瘍などの鮮度不良以外の異常検知にも取り組んでいくと説明。さらに、水産加工工場などの現場での実証実験を進めるとともに、冷凍物を扱う畜産業や医療・バイオ分野などへ技術を幅広く応用する研究を行っていくとしている。

利用イメージ