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日立の新社長、Lumadaを立ち上げた小島啓二副社長が昇格へ
「日立を社会イノベーション事業のグローバルリーダーに」

オンライン記者会見レポート

 株式会社日立製作所(以下、日立)は12日、小島啓二副社長が社長兼COOに就任する人事を発表した。2021年6月23日の定時株主総会後に就任する。東原敏昭社長兼CEOは、5月12日付で会長兼社長兼CEOに、また6月23日には会長兼CEOに就任する。なお、中西宏明会長は5月12日付で相談役に就いた。

 5月12日16時30分から行われたオンライン会見で、小島次期社長は「4月下旬に、指名委員会で社長に指名する可能性があるという話をもらったが、中西会長が退任するというインパクトの方が自分のなかでは大きかった。突然の指名で驚いたが、そうしたことがあれば受けることをその場で返答した」とし、「日立を、社会イノベーション事業のグローバルリーダーにすることに全力を注ぐ」との抱負を述べた。

次期社長就任が内定した小島啓二副社長

 また、「データやデジタルは、私が入社以来取り組んできた技術である。これらが世界を大きく変える時代になっている。日立の使命はデータとテクノロジーをフルに使って社会インフラを革新し、人々の幸せな生活を支えることであると考えている。データから新たな価値を作り、それを顧客や社会に届けることをこれからも追求していく」と発言。

 「この使命に共感する多様な人材に集まってもらい、日立のアセットをフルに活用し、やりたいことや夢をかなえてもらいたい。そのためには、これまで以上にオープンで、ダイナミックな会社にしたいと考えている。私の仕事の上での信条は有言実行である。有言実行によって、そうした会社を作りたいという決意を持っている」と語った。

入社以来、“データから価値を作る”ことに一貫して取り組んできた

 小島次期社長は、1956年10月、東京都中野区出身。1982年3月に京都大学 大学院理学研究科を、2005年3月に大阪大学 大学院博士課程情報科学をそれぞれ修了。1982年4月に日立製作所に入社し、中央研究所に配属された。また、1989年から1990年までは共同研究のためカーネギーメロン大学に派遣されたほか、1996年~1999年は米国日立コンピュータプロダクツに出向している。

 その後、2004年には日立 ユビキタスプラットフォームグループインターネットプラットフォーム事業部 副事業部長に就き、2008年4月に研究開発本部 中央研究所長を経て、2011年4月には日立研究所所長に就任した。

 執行役常務には2012年4月に就任。2014年4月にCTO兼研究開発グループ長、2016年4月に執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニット CEOなどに就任した後、2016年8月からは日立インフォメーションアンドテレコミュニケーションシステムズグローバルホールディング(現:日立グローバルデジタルホールディングス)の取締役会長兼CEOを兼務した。

 2017年4月には日立データシステムズ(現:日立ヴァンタラ)の取締役会長を兼務したほか、2018年4月には代表執行役執行役副社長に就任し、社長補佐として、ビルシステム、鉄道 、生活・エコシステム、オートモティブシステムを担当。CISO(Chief Information Security Officer)も兼務した。

 2019年4月からはライフ事業統括本部長兼生活・エコシステム事業統括本部長を兼務。2021年4月には、現在の代表執行役執行役副社長 社長補佐(生活・エコシステム事業、ヘルスケア戦略担当)、CISO兼ライフ事業統括本部長兼ヘルスケア事業成長戦略本部長に就いている。

2017年の記者会見にて、Lumadaに関して説明する小島啓二氏(当時、日立 執行役専務サービス&プラットフォームビジネスユニットCEO)

 小島次期社長は自らの経歴を振り返り、「1982年に日立に入社して以来、一貫して取り組んできたテーマが、データから価値を作るということである。中央研究所での最初の研究はデータベースの高速化であり、神奈川工場でこれを実用化した。2000年には、データを保管して活用するためのデータストレージシステムの開発に従事し、現在では日立ヴァンタラの主力製品になっている。2016年には、サービス&プラットフォームビジネスユニットのCEOとして、データから新たな価値を作るビジネスの基盤づくりにかかわり、ここでLumadaを立ち上げた。2019年からは、ライフセクターのトップとして、自動車、家電、医療といった事業の収益性向上を目的に構造改革を指揮してきた。並行してこれらの分野でのLumadaの拡大にも力を注いできた」と語る。

 また、「新たな事業に取り組むには、持っているアセットをいかにうまく使うかが大切である。Lumadaの場合は、日立の特徴はシステムインテグレーションのリソースが強い点で、そこから入るべきだと考えた。受け身となっているSI事業だが、こちらからデータ活用に関する提案を行って協創という考え方に変えていければ、日立が戦えると考えた」と述べた。

 今後のLumadaの方向性については、「協創型にしていくという点では相当進んだと認識している。今後は、鉄道やパワーグリッドなどのプロダクト中心の事業にも展開していくこと、国内中心となっている事業構造をグローバル化したい。その点で重要なピースになるのがGlobalLogicである。GlobalLogicは、製品事業を行っている企業のデジタル化を支援する会社。日立の製品事業のデジタル化も推進でき、グローバルにも展開できる。ボルダリングと同じで、GlobalLogicによって壁をのぼり、次のステージにいくようなものである」と述べた。

 このほか、「すべての事業のビジネスモデルが不安定だ。それは、すべての事業がデジタルに大きくシフトしていく過程にあるため。全事業領域でデジタル化を急いでいる。そこに日立がITを持っている強みを生かしたい」とした。

 さらに、「データを価値に変える事業を行う上で日立が発揮できる強みは、IT、OT、プロダクトの3つを併せ持っていること。さまざまなプロダクトを実際に提供しているからこそ、現場でのデータの重要性や、オペレーションテクノロジーが理解でき、ITを使って、顧客や社会の価値に貢献できる。この一連の流れをトータルソリューションとして提供できるのが日立の強みである」と前置き。

 「リーマンショック以降、これらの強みを生かすために、日立は社会イノベーション事業に特化した企業になることを目指して変革を進めてきた。特に2021中期計画のなかでは、大きな事業ポートフォリオの入れ替えを行い、グローバルに社会イノベーション事業を展開するのに必要なアセットがようやく整ってきた。日立は環境、レジリエンス、安心・安全の分野で価値を作ることを宣言している。これらの領域で社会課題の解決に果敢に挑戦し、社会イノベーション事業のグローバルリーダーとして認知されるように全力を注ぐ」と話している。

東原会長がなにをやるかを決め、小島社長が実行する

 6月以降の東原会長兼CEOと小島社長兼COOの役割分担については、小島次期社長が回答。「東原会長兼CEOが、なにをやるかを決め、私は、どこで、どういったリソースを、いつアサインするかを決め、実行することが役割になる。2021中期経営計画でやってきたことを基盤として固め、その上で徹底して、スピードを上げてやっていく」と説明。

 「スピードを上げるために大切なのは、リーダークラスの考えをあわせることである。徹底して議論し、なにが一番いい方法なのか、中に置いていた方がいいのか、外に出した方がいいのかという考えをあわせる。いまはデジタル化、情報化、ソフトウェア化に向けて、速く動くことが大切である」とした。

 役割分担については、東原会長兼社長兼CEOも言及。「CEOがWhatとWhyを担当し、COOがHowを担当することになる。CEOは日立の将来の姿に対してビジョンを持つ必要があり、現状とのギャップを埋めるにはなにが必要なのかを考え、ロードマップを作る。それを徹底していくのは、CEOとCOOの共同作業になる。ビジョン中心がCEO、エグゼキューション中心がCOO」と役割分担を示してみせた。

 また、小島次期社長は、「日立は、アセットがそろってきたので、自分の力で成長することが問われるフェーズに入ってきた。その時に最も重要なのが研究開発分野であり、そこにあらためて力を入れていきたい。日立が持っている失敗を恐れない起業家精神や、挑戦心を高揚させたい。スピードを上げるのにはそれが近道である」としたほか、「日立の最大のチャレンジは、シンプルな形で経営ができるかだ。人が重視される労働集約型のIT、ロングタームでビジネスを行う鉄道やパワーグリッド、量産系で展開する自動車や日立ハイテクという3つの経営軸がある。また、GlobalLogicのようにスピード感の違う会社もある。そのスピードは減速させてはいけない。各セグメントで軸をそろえながら、シンブルな経営を行える会社にしたい」と語った。

 その一方で小島次期社長は、「自分はカリスマでもなく、秀でたところがあるわけでもない。心掛けているのはコミュニケーションである。最大の財産は日立のグローバルの人材である。優れた人材と徹底的にコミュニケーションを行い、次の日立を作っていくことが、私のやりたいことであり、私の使命である。コミュニケーション中心のリーダーシップにより、日立のグローバル人材をフルに生かしたい」と、自らの経営手法を示した。

デジタル技術やLumada事業に対する深い造詣と、構造改革を断行する実行力を評価

 東原会長兼社長兼CEOは、「日立の今後の成長のドライバーは、Lumadaを中心としたデジタル技術を用いた社会イノベーション事業。小島次期社長は、情報分野の研究者として入社し、世界トップクラスのデジタル技術の研究開発に従事してきた。2016年には、サービス&プラットフォームビジネスユニットのCEOとして、日立ヴァンタラを担当し、Lumadaをスタートさせ、Lumada事業の基盤を築いた。研究所時代の米国での勤務を含め、グローバルのキャリアも積んでおり、Lumadaのグローバル展開を加速するには最適な経歴を持っている」と話す。

 また、「近年ではライフセクターのトップとして、日立ハイテクの100%子会社化、画像診断事業の譲渡、海外白物家電の合弁会社の設立、日立Astemoの設立など、幅広い分野で構造改革を推進し、ライフセクターを強化してきた。デジタル技術やLumada事業に対する深い造詣と、構造改革を断行する実行力は、デジタルで成長する日立の社長として、最適であると取締役会が判断した。これまでの指名委員会での議論を踏まえて、取締役会ではスムーズに決定した」と、小島氏を次期社長に指名した経緯を説明した。

 加えて、東原会長兼社長兼CEOは「社長や会長はなりたくしてなるのではなく、その時点でだれが最適なのかということで選んでいる。在任の期間は関係がない」とも語った。

東原敏昭会長兼社長兼CEO

 小島次期社長の人物については、「実行力を評価している。難しいオペレーションを確実に実行してきた。Lumadaのさらなるグローバル展開を加速するこのタイミングで、社長兼CEOには最適な人材だと確信している。買収したGlobalLogicも、エネルギーやインダストリー、ライフといったさまざまなセクターとシナジーを生む必要がある。その接点を強化し、シナジーを出してもらう役割にも期待している。新社長とともに、社会イノベーション事業のグローバルリーダーは日立だ、と言われるようにがんばっていく」と述べた。

 さらに、「世の中の変化をどう捕まえるべきか。私は、常にワーストケースを想定しながら、先手を打って、ベストを尽くしていくことが大切だと考えて経営を行ってきた。この考えをもとに、従業員全体でリスクを共有しながら、将来を考えていく必要がある。トップダウンやボトムアップとかではなく、全員が自分ごととして考えることが大切である。社会の課題を自分ごとで考えるのが、社会イノベーション事業である。課題を常に意識しながら仕事をしていくことができれば、大企業病にはならないで済む」とした。

 なお、中西会長の相談役への就任について、東原会長兼社長兼CEOは、「療養に専念したいという本人の意思を尊重した。病気を理由に任期半ばで退任することは残念である。一日でも早い回復を祈っている」とコメント。「最大の功績はグローバルを意識した改革をしてきたことである。また、ガバナンスの強化にも取り組み、グローバルレベルで経営の議論ができる形になった」と述べた。

 小島次期社長も、「退任は残念である。一日も早い回復を祈る」と述べ、「グローバルに通用する経営者であり、ダボス会議に参加している姿を見ても、日本を代表する経営者であることを感じた。人を引きつけ、グローバルな目線で経営を行い、大きな方向性を打ち出すことができる経営者である」と語った。

 中西相談役は、現任の経団連会長についても、6月1日の定時総会のタイミングで、健康上の理由で退任することがすでに発表されていた