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日本マイクロソフト、イノベーションに関する国内企業の取り組みについて調査結果を発表

就労支援に向けたデジタルスキル習得施策も

 日本マイクロソフト株式会社は15日、イノベーションに関する国内企業の取り組みについて調査結果を発表。日本の企業において、イノベーション文化の成熟度が急速に高まっていることなどが明らかになった。

 今回発表した調査結果は、マイクロソフトとIDC Asia/Pacificが共同で行ったものであり、日本を含むアジアの15の国と地域を対象に実施した。調査は、従業員250人以上の組織が対象で、フェーズ1(2019年12月~2020年1月)と、フェーズ2(2020年7月)の2回に渡って行われ、日本からは、延べ323人の経営者、延べ341人の従業員が参加した。

 これによると、日本の企業の47%が、コロナ禍による危機をビジネス機会ととらえており、そうした姿勢を持つ企業の方が業績回復が速いと信じていることや、市場シェアを維持できると考えていることが浮き彫りになった。また、71%の企業がイノベーションが重要だと考えており、43%の企業がイノベーションは難しくないと考えていることなどが示された。

危機をビジネス機会としてとらえる企業も多い
イノベーションはレジリエンシー実現と業績向上を加速させる

 IDC Japan リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏は、「危機を、ビジネス機会としてとらえている企業も多い。新たな環境に適応していくことがレジリエンシーを実現することにつながる。そのためにはイノベーションが重要であることは、日本の企業だけでなく、全世界の企業に共有されている考え方である」などとした。

IDC Japan リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏

日本の企業はイノベーション文化を社内に根づかせるためにがんばっている

 今回の調査では、イノベーション文化(COI:Culture of Innovation)に関する成熟度についてもまとめている。これによると、日本の企業のCOI成熟度は、新型コロナウイルスの感染拡大前に比べて12%上昇し2.09となり、リーダーの比率は30%以上増加し、10.5%を占めたという。

 イノベーション文化とは、テクノロジー、プロセス、人材、データの4つから、イノベーションに対するアプローチを評価。これらのすべてにおいて変革をし、それらが組み合わさることで、企業は持続的なイノベーションが可能になるとしている。調査では、成熟度を伝統主義者(Stage1)、初心者(Stage2)、適応者(Stage3)、リーダー(Stage4)に分類。調査対象の企業を分類し、成熟度分布をもとにして算出した。

 「さまざまな調査においても、わずか半年の間に、これだけ成熟度が上がることはない。日本の企業はイノベーション文化を社内に根づかせるためにがんばっている」と総括した。

国内企業ではイノベーションを起こす能力が強化されたという

 だが、その一方で、アジアの企業に比べて改善する点も指摘した。

 例えば、イノベーションを重視する日本の企業は69%、コロナ禍がDXのチャンスだととらえてDXを推進する企業は55%、イノベーションを困難と考える企業は58%だったが、アジアのリーダー企業では、それぞれ98%、87%、36%であり、「アジア諸国では、イノベーションが最重要であると考えている。日本の数字を見ると、イノベーションに対してネガティブな方向に動いている。DXにおいて日本はビハインドである」(日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者兼マイクロソフトディベロップメント代表取締役社長の榊原彰氏)とした。

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者兼マイクロソフトディベロップメント代表取締役社長の榊原彰氏

 また、デジタル製品やサービス、デジタルなビジネスモデルから得られる売上の比率は、日本の企業が41%、アジアのリーダー企業は48%と大きな差がないが、現在のビジネスモデルが5年以内に競争力を失うかもしれないと思っている企業は、日本では32.0%であるのに対して、アジアのリーダー企業では45.4%を占めており、「アジアのリーダー企業は危機感を強く持っており、将来への準備をしっかりと行っていることが浮き彫りになった」(IDC Japanの寄藤氏)と分析した。

 さらに、IDC Japanの寄藤氏は、「過去3カ月における主要な取り組みを見ると、日本の企業は、リモートワークや働き方改革などを優先したが、アジアのリーダー企業はビジネスモデルの再考が最も多い。次の成長に向けて動き始めている」と指摘した。

アジアのリーダー企業は、ビジネスモデル再デザインの必要性を国内企業より明確に理解しているという

 一方で、人材については、アジアのリーダー企業では、イノベーションに対する報酬を、これまでの業績に対するものよりも上位に置いている、とした企業が87%であるのに対して、日本の企業は56%にとどまっており、約30ポイントもの差があること、アジアのリーダー企業の70%が、企業全体の能力向上やスキル強化への取り組みに投資しているのに対して、日本の企業は54%にとどまっていることなどが示された。

 今回の調査結果から、IDC Japanの寄藤氏は、「組織全体にイノベーションやDXの考え方を広げようと考えている企業こそが、持続的なイノベーションを行える。また、アジアのリーダー企業は、既存システムとデジタルアーキテクチャーとの統合や、データの活用がデジタルイノベーションには不可欠であることを理解しており、そこに日本の企業との差が見られている。国内企業は、イノベーションの文化の構築に向けて、人材とテクノロジーを重視しているが、データやプロセスも含めてバランスの取れた全社的な推進が必要である」とした。

 さらに、「イノベーション文化を構築するためには、多様な人材をしっかりとした報酬制度で育てていくこと、顧客中心のビジネスプロセスを考えること、データドリブンの経営を進めていくこと、新たなテクノロジーに投資するだけでなく、既存のITシステムとの連携を考える必要がある」と提言した。

マイクロソフトはデジタル社会におけるファーストレスポンダーである

 こうした調査結果をとらえながら、日本マイクロソフトの榊原氏は、「新たな社会に対応していく上では、回復力(Resiliency)という観点から見ると、3つのフェーズがある」と前置き。緊急性の高い場面において、その状況に対応する「Response」、経済が回復し、徐々に以前の生活へと戻ろうとする「Recovery」、新たな生活に慣れていき、未来を再定義する「Reimagine」という3つのフェーズを示した。

 「多くの企業や個人、政府、自治体が新たな社会に対応しようと努力しているなか、クラウドやデジタルテクノロジーを活用している企業は回復力が高いといえる。リモートワークに長けている企業は、ビジネスが止まる期間が少なかった傾向がある」とし、「救急隊員をはじめとする、現場に急行し最初に作業を行う人たちをファーストレスポンダーと呼ぶが、マイクロソフトはデジタル社会におけるファーストレスポンダーである、という自覚を持って多くの企業の支援をしてきた。ここにきて、感染者数が再び拡大するなかで、この3つのフェーズの間を揺れ動いている企業が多い。マイクロソフトは、それぞれの段階において、さまざまな企業のサポートを行うことができる」と語った。

調査結果から分かったこと

 また、「日本マイクロソフトでは、社員に力を、お客さまとつながる、業務の最適化、製品/サービスの改革という4つの柱を掲げ、DXを推進することを提言してきたが、新たな社会においては、リモートのなかで行うということが大前提として加わった」などと述べた。

 さらに、「DXは手段であり、目的に向かってトランスフォーメーションをしていく必要がある。そのためには、Tech intensityを高めなくてはいけない。つまり、テクノロジーに対する強度を高める必要がある」とする。

DXは手段であり、目的に向かってトランスフォーメーションをしていく必要があるという

 Tech intensityは、マイクロソフトがここ数年使っている言葉だ。

 ここで榊原氏は、次のような数式を示す。

 (Tech adoption×Tech capability)^Trust=Tech intensity

 「最新技術をいち早く適用してトランスフォーメーションすることを示すTech adoptionと、テクノロジーの選択肢を増やし、適材適所でテクノロジーを駆使してトランスフォーメーションを進めるTech capabilityを掛け算し、ここにプライバシーを守ること、セキュアであるという信頼(Trust)をべき乗する。これがTech intensityになる」と定義してみせた。

Tech intensity

就労支援に向けたデジタルスキル習得施策を提供

 一方、日本マイクロソフトでは、就労支援に向けたデジタルスキル習得施策「グローバル スキル イニシアチブ ジャパン(Global Skills Initiative - Japan=GSI-J)」を開始すると発表した。

 GSI-Jは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、職を失った人や新たなデジタルスキル取得を目指す人、新卒学生などを対象に、ITスキルに加えて、関連するコミュニケーションスキルなどの習得を支援するものになる。

 日本マイクロソフトの榊原氏は、「マイクロソフトは、すべての個人をエンパワーすることを目指しており、そのために、デジタル社会において成功するためのスキル、知識、機会が得られるように支援している。だが、コロナ禍による社会の変化によって、この取り組みをさらに加速する必要が出てきた。新たな社会の働き方では、デジタルとリアルのハイブリッドがますます加速すると考えており、デジタルスキルがさらに重視される。企業で働いている人のリスキリングも必要であり、職がない人に対するデジタルスキルのトレーニングも必要である。企業もデジタルスキルを持っている人を雇用したいと考えている。GSI-Jは、賛同企業やNPOとともに、社会が連携しながら、就労支援をしていくものになる」と位置づける。

 すでに、アクセンチュア、デジタルハーツ、リクルートの3社がGSI-Jの賛同企業となり、認定NPO法人 難民支援協会、認定NPO法人ReBitが連携NPOとして参加を表明している。賛同企業や連携団体は、今後拡大していくことになるという。

 GSI-Jの具体的な取り組みとしては、オンラインラーニングプラットフォーム「LinkedInラーニング」での日本語による無償トレーニングや、日本マイクロソフトの無償のラーニングプラットフォーム「Microsoft Learn」を利用。基礎的な内容から専門性の高いコンテンツまでのさまざまな学習機会を提供し、ソフトウェア開発やウェブ開発、IT管理、グラフィックデザイン、ソーシャルメディアマーケティングなどの仕事に就くためのスキルを習得できるようにする。

求職者を支援するための包括的なアプローチを提供

 これらの職種を対象に、合計約165時間におよぶ6つのラーニングパスと、1つのコースを用意。認定NPO法人育て上げネットと連携して、これまで実施してきたオンラインでの就労支援から得たノウハウを活用。賛同企業やNPOと連携して、オンライン講座などの提供につなげる。

 デジタル時代における共通スキルとして、効果的なコラボレーションツールの活用スキルや、互いを理解し合い、多様性を認め、一体感と帰属意識を創り出すためのトレーニングも提供する。

 米Microsoftは2020年6月から、LinkedInやGitHubと連携して2500万人の求職者支援を行う「Global Skills Initiative」をスタートしており、今回のGSI-Jは、その日本版となる。日本語でのコンテンツを用意するとともに、日本の企業などから要求が多い職種の教育コースを用意。日本独自の課題に寄り添った仕組みとしているのが特徴だ。

 「LinkedInの過去4年間の求人、就業データを分析し、今後、最も必要とされる職種とスキルを抽出したり、市場や就職に関する調査をもとに、どんな対象者に、どんなサポートをすることが適切かといったことを明確にし、学習コンテンツを無償で提供する仕組みを用意した。職を失った人、雇い止めになった人、休職した人のほか、非正規雇用者をはじめとして、デジタルスキルの習得が急務になっている人、オンラインで働くことになった人、キャリアチェンジを考えている人、学生や在日外国人などのスキル取得の支援も行いたい。また、低価格で認定試験を受験できる仕組みを提供し、資格認定も可能になる。政府やNPO、企業などと連携し、デジタルスキルが必要な人にアプローチし、それらの人たちが就労できるように支援したい」とする。

 現在、新型コロナウイルスの影響で失職している人は、ハローワークの調べでは6万人強だというが、3月以降、110万人の非正規雇用社員が減少しているという調査結果もある。また、厚生労働省が12月15日に発表したデータによると、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、解雇や雇い止めになった人は約7万6500人に達しているという。

 日本マイクロソフトの榊原氏は、「就労機会の拡大に向け、業界を超えた連携が必要である。また、求職者を支援するための包括的なアプローチが必要である。さまざまな人にデジタルスキルを習得してもらい。幅広い人たちにこの施策を届けたい」とする一方で、「企業や組織にとっても、競争力を高めるためのデジタル人材の調達は急務であり、新型コロナウイルスによって、そうしたニーズに拍車がかかっている。企業のニーズにも応えていくことができる」とした。

 さらに、「日本マイクロソフトは、これまでにも、数多くのスキルトレーニングの場を提供してきた。オンプレミスの技術を持っている人たちをクラウドへリスキリングしたり、経営者や管理者などを対象にしたAIを生かすためのAIビジネススクールも用意している。社会全体がデジタルに対応し、活力がある社会になることを期待している。コロナ禍を乗り越えるためにも、すべての組織と、すべての個人が、より多くのことを達成できることに貢献したい」と述べた。