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仕事上のストレスや不安を上司よりAI・ロボットに話したい? 日本オラクルが「職場におけるAI」調査結果を発表

 日本オラクル株式会社は4日、従業員やマネージャー、経営幹部などを対象にした「AI@Work」の調査結果について発表した。日本企業に勤務する1000人を対象にした調査結果をもとに、日本の職場におけるAIの活用実態、従業員のメンタルヘルス(ストレス、不安、極度の疲労など)対策への提言を行った。

 同調査は今年で3回目。2020年7月16日から8月4日の期間に、日本を含む世界11カ国(米国、英国、UAE、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)で、企業に勤務する1万2347人を対象に実施しており、今年の調査では、コロナ禍での職場におけるメンタルヘルスやAIの活用に関する内容が中心となっている。

AI@Work 2020調査について

 これによると、日本では調査対象者の61%が、「2020年は最も職場でのストレスと不安を感じた年」と回答しており、日本の従業員の70%に対して、メンタルヘルスの面で悪影響を与えていることがわかったという。

 従業員がストレスと不安を感じる要因としては、「業績基準の達成に係るプレッシャー」が48%と最も高く、「不公平な報酬」が39%、「チーム連携の欠如」が39%、「職場での偏見」が38%、「退屈なルーティン作業の処理」が38%となっている。

 また、74%の従業員がいままで以上に自分の会社がメンタルヘルスを守る必要があると回答しており、実際に33%の企業がコロナ禍において、メンタルヘルスのサービスおよびサポートを追加したという。

 だが41%の従業員は、仕事上のストレスや不安を上司よりもAIやロボットに話したいと回答。メンタルヘルスのサポートを、ロボットやAIよりも人に頼りたいという回答は、わずか13%にとどまった。

 人よりもロボットやAIにサポートを頼りたい理由としては、「ジャッジメントフリーゾーン(決めつけない環境)を与えてくれる」が42%、「問題を共有する上で先入観がない感情のはけ口を提供してくれる」が27%、「医療に関する質問に迅速に回答してくれる」が26%となっている。

メンタルヘルスのサポートをロボット・AIに頼りたい理由

 HRテクノロジーの第一人者として知られる慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏は、「コロナ禍はメンタルヘルスに悪影響を与えていること、従業員はメンタルヘルスに対する支援を求めているが、人よりもテクノロジーに期待していることがわかつた。これらはグローバルの調査結果と同じ傾向だが、コロナ禍のリモートワークでは多くの国で生産性が上がっているのに対して、日本では生産性が下がる傾向があった。海外では、生産性が上がり、労働時間が増えたと回答しているのに対して、日本ではそうした企業が少ない。GAFAなど、海外企業ではコロナ禍で業績を高めているケースが多い。また、日本の企業では、リモートワークでなにをしていいのかわからない、あるいは仕事をしているつもりになっているといった状況にある」と指摘した。

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏

 日本での調査では、リモートワークで生産性が下がったとの回答が46%に達し、生産性が上がったとの回答は15%にとどまり、11カ国中で最下位となった。グローバル平均では41%が、生産性が上がったと回答している。

 また、日本ではリモートワークで労働時間が減ったとの回答は34%であり、労働時間が増えたという回答は21%に達し、これも日本が最下位の結果だったという。グローバル平均では52%の回答者が、労働時間が増えたと回答している。

コロナ禍による生産性の変化
コロナ禍による労働時間の変化

 このほか、職場でAIを活用していると回答した企業は26%であり、ここでも世界11カ国中最下位となった。その一方で、コロナ禍でAIツールへの投資を加速するとの回答は44%となり、経営者層では63%、部長クラスは58%が、投資を加速すると回答している。

職場でのAI活用

 「コロナ禍によって、職場へのAIツールへの投資は加速することになるだろう。事業をけん引する経営層では、半分以上がAIツールへの投資に意欲的である。また、人の代替としてロボットやAIを許容すると回答した人は11カ国平均と同じであり、従業員が許容する余地が高い」と述べ、今後日本において、ロボットやAIの導入が促進される土壌があることを示した。

 こうした調査結果から、慶應義塾大学大学院の岩本特任教授は、「ウィズコロナ/ポストコロナ時代では、企業は、従来の生産性向上に対する課題を克服すると同時に、従業員のメンタルヘルスに対するケアを強化することも重要である。メンタルヘルスケアについては、人よりもテクノロジーに期待する従業員が多く、テクノロジーの導入、活用が重要である。また、日本では、リモートワークをうまく活用できておらず、生産性が全体的に下がっている一方で、職場でのAIやロボットなどのテクノロジーの活用に対しては、従業員は抵抗がなく、コロナ禍によってテクノロジーへの投資を加速すべきという意識が高まっている」と総括。

 「コロナ禍によって、やらなくてはいけないとはわかっていながらも金縛り状態で進まなかったデジタルトランスフォーメーションを、経営トップの意思決定で進める企業が増加している。今後、日本の職場でのデジタルトランスフォーメーションを加速するきっかけになることを期待している」と述べた。

 なおグローバルの調査結果では、2020年は、これまでのどの年よりも職場でストレスと不安を感じたという回答者が70%に達したほか、職場でのメンタルヘルスの問題は家庭生活に影響しているとの回答が85%、自分の会社がいままで以上に従業員のメンタルヘルスを守る必要があるとの回答が76%、メンタルヘルスのサポートを人よりもロボットに頼りたいという回答が82%に達したという。

 メンタルヘルスのサポートを人よりもロボットに頼りたい理由としては、「ジャッジメントフリーゾーンを与えてくれる」が34%、「問題を共有する上で先入観がない感情のはけ口を提供してくれる」が30%となっているほか、仕事上のストレスや不安を上司よりも、ロボットやAIに話したいという回答が68%、ロボットやAIを、セラピストやカウンセラーとして利用することにオープンであるとした人は80%にのぼったという。

 さらに、仕事でのメンタルヘルスの改善にAIが役立ったとの回答は75%となり、仕事の効率化に必要な情報の提供や、作業の自動化と仕事量の削減による極度の疲労の防止、仕事の優先順位づけによるストレスの軽減で効果があったとの回答が上位を占めた。
 また、AIは51%の従業員の週間労働時間の短縮と、長い休暇の取得に貢献。63%の従業員の生産性を向上させ、54%の従業員の仕事の満足度を向上させ、52%の従業員の幸福度を向上させたという。

自社のAIおよびHCMソリューションを紹介

 一方、日本オラクルのAIおよび人材管理(HCM)ソリューションに関する取り組みについても説明した。

 日本オラクル 執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括ERP/HCMクラウド事業本部の善浪広行氏は、「コロナ禍では、社員の安心・安全が最優先であったが、それと企業の持続的成長や生産性向上のバランスを取ることが重視されてきた。また、いまこそデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むタイミングであると考えている経営者が多いことが、今回の調査結果から明らかになったメッセージだといえる。リモートワークなど新しい働き方への対応、業務プロセスの自動化のほか、自社のポジションを理解するために会計処理の早期化、キャッシュマネジメントの強化といったニーズも高まっている。サプライチェーンもコスト重視から、弾力性の確保が求められるようになっている」とした。

日本オラクル 執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括ERP/HCMクラウド事業本部の善浪広行氏

 その上で、「日本オラクルは、AIをアプリケーションに組み込んで提供しているほか、使いやすさを実現するインテリジェントUXを提供している。また、AIが最適な回答と次のアクションを示唆することができるデジタルアシスタントの機能も提供している」と、自社の取り組みを説明。

 続いて、「AIの機能は、業務で使われなくては意味がない。その点を重視しているのがオラクルの特徴である。経営層に、人事を多面的にとらえたソリューションやそれを実現するAIを提供することで、ドメインごとの将来のビジネス予測とシミュレーションが行えたり、人材の最適配置や、プロジェクトに必要なスキルを持った人材を可視化したり、離職リスクなどへ対応したり、といったことが可能になる。従業員の視点では、AIを活用して、安全衛生管理の仕組みなどを提供しているほか、自身のキャリアプランに対するギャップを埋めるためにAIを活用することもできる」などと、メリットを紹介した。

 さらにOracleでは、全世界14万人の従業員のタレントマネジメントをリモートで実施し、各種トレーニングを行っていることを紹介。子会社では、わずか1日で決算を完了させたり、全社でも12日未満で、監査および決算発表までを行ったりといった成果についても説明した。このほか、予測の自動化により2000時間のデータ収集時間を削減したこと、1044時間のマニュアルワークの削除を実現できたことなども紹介されている。

 「経営層は、財務やビジネスととも、人事を多面的に見る必要があり、現場では自らのキャリア形成のためのサポートが重視されている。これらの領域はAIやMLが能力を生かせる領域であり、そこに成果が求められている」。

バックオフィスにおけるOracleの取り組み例