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PwC、デジタルイノベーションを促進するエクスペリエンスセンターを開設

 PwC Japanグループは22日、デジタル分野で新たなイノベーションを創造する拠点として、「エクスペリエンスセンター」を東京・大手町に開設。報道陣に公開した。

エクスペリエンスセンター内(写真提供:PwC)

 PwCは、米国フロリダ州やドイツ・フランクフルト、中国の上海など、世界30を越える都市でエクスペリエンスセンターを展開、3000人を超える専門コンサルタントがグローバルで連携しながらサービスを提供している。すでに医療、保険、エネルギー、製造など幅広い業界で、デジタルイノベーションの創出を支援した実績があるという。

 PwCコンサルティング デジタルサービス日本統括パートナーで、エクスペリエンスセンター長を務める松永エリック・匡史氏によると、日本のエクスペリエンスセンターのコンセプトは「Live JAM」。つまり、さまざまな才能を持った人たちがコラボレーションし、「グルーヴ」(音楽的なノリのようなもの)しながら、これまでに予測できなかったようなものを生み出すセンターにしたいという思いが込められている。

 「世界各国のエクスペリエンスセンターで共通のコンセプトがあるわけではない。予測できないものを作り出すのだから、世界標準を決めるのはおかしいという考えの下、日本独自のコンセプトが決まった」(松永氏)。

PwCコンサルティング デジタルサービス日本統括パートナー 兼 エクスペリエンスセンター長の松永エリック・匡史氏

 エクスペリエンスセンターとは何か、との問いに松永氏は「わからない」と大胆な答えを返す。それも、「わからないものを作り出すセンターだからだ」と説明する。例えば、金融機関をさらに発展させる方法を考えるのではなく、金融機関がなくなった場合どうなるかをゼロベースで考えていく、といった具合だ。

 その背景には、各産業で業界のディスラプション(崩壊)が起こっていることがある。長年にわたってIT関連サービスを提供してきたGoogleが自動運転の分野に乗り出している例はその最たるものだが、このような業界の垣根を越えたディスラプションがさまざまな分野で起こっている。長年各業界でトップを走ってきた企業にとっても、こうしたディスラプションによって今後自社がどうなるのかわからないのが現状だ。「これまでの経験値では想像できないことが起こるだろう。その状況をこのセンターで支援したい」と松永氏は主張する。

 このところ各業界で注目を集めるデジタル領域だが、「PwCでは、デジタルを単にテクノロジーとは考えていない。ドローンやIoTなどは、技術面からデジタルを創造することができるかもしれないが、それは出発点にすぎない」と松永氏は言う。

 同氏によると、PwCにとってデジタルとは、「クリエイティブな問題解決法であり、ユニークな顧客視点に立ったカスタマーエクスペリエンスの構築であり、企業や社会のイノベーションを加速すること」。こうした考えの下、エクスペリエンスセンターは「デジタル時代のイノベーションを実現するエコシステムを構築する」(松永氏)としている。

PwCが考えるデジタルとは

 同センターの柱となるのは、「施設」「方法論(ソリューション)」「人材」の3つ。今回公開した場がその「施設」にあたり、ここでPwCとクライアントが協働でアイデアを創出する。方法論は、コンサルティング企業としての強みを生かし、クライアントの事業課題を解決するプロトタイプを開発していく。

エクスペリエンスセンターの3つの柱

 一方の人材は、同社が特に力を入れている部分で、ユニークな人材を幅広い分野から集めている。松永氏もそのひとりで、米国バークリー音楽院を卒業し、元スタジオミュージシャンとして活躍した経歴を持つ。

 その経験を生かし、メディアとエンターテインメント業界に特化したコンサルタントとして長年同業界に貢献してきた同氏は、「アーティストがクリエイティブなものを創造する課程を、経営にも生かしたい」と話す。「アートは、予測できるものを作ることではない。何かわからないものをゼロベースで作り上げていく。それこそがまさにデジタルだ」(松永氏)。

 すでに現在同社が取り組んでいるプロジェクトの中には、サイエンスフィクションプロトタイピングという、未来をデザインする手法を取り入れたものがあるという。これまでのように技術を起点としたシナリオを描き、ビジネスコンサルティングを行うのではなく、SF小説を執筆するように未来を創造した上でプロジェクトに取り組むという。こうした手法を進めるにあたり、科学雑誌に未来のシナリオを投稿するライターとパートナーシップを組むなど、これまでにないような取り組みが進んでいるという。

 エクスペリエンスセンターのオープニングセレモニーでは、Live JAMというコンセプトや、ゼロベースから生まれるアートを表現すべく、シンセサイザープログラマーの松武秀樹氏、書家の神郡宇敬氏といった著名人によるライブパフォーマンスも行われた。一般的な記者発表会とはかけ離れたパフォーマンスで注目を集めた同センター。今後ここからどのようなイノベーションが誕生するのだろうか。

書家 神郡宇敬氏によるライブパフォーマンス。松武秀樹氏のシンセサイザーに合わせ「心」をコンセプトに書を披露した
左から、松永エリック・匡史氏、神郡宇敬氏、松武秀樹氏(写真提供:PwC)