サイボウズ 青野社長/弥生 岡本社長に聞く、グローバルビジネスパートナーとしてのマイクロソフトの存在
7月に米ロサンゼルスで開催された米Microsoftの年次パートナーカンファレンス「2011 Worldwide Partner Conference」には、日本からも総勢250名を超えるパートナーが参加し、過去最大規模の参加者数となった。
今回、WPCの会場で国内パートナー数社にお話を伺う機会をいただいたが、本稿ではサイボウズの代表取締役社長 青野慶久氏、そして弥生の代表取締役社長 岡本浩一郎氏に伺った内容をそれぞれ紹介したい。
周知の通り、サイボウズはグループウェア、弥生は会計ソフトでそれぞれ国内トップのシェアをもつ企業。そういう意味では、ほかのリセラーやSIerといったパートナー企業とは位置づけがやや異なるかもしれない。
だがインタビューでは両社長とも、日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)との協業により、グローバル進出の青写真がよりクリアになってきたと語る。マイクロソフトが両社のグローバル化に貢献したこと、そして国内で確固たる地位を築いている両社との協業がマイクロソフトにもたらした利益とは何だったのだろうか。
■念願の北米進出がマイクロソフトとの協業で実現~サイボウズ青野社長
サイボウズの代表取締役社長 青野慶久氏 |
サイボウズとマイクロソフトは2009年、グループウェア製品の開発/提供における業務提携を発表した。この協業の成果として、今年6月に、SharePoint Server 2010上で動作するグループウェア「Cybozu SP Apps 2010」シリーズの提供を発表している。もともとサイボウズは国内の中堅/中小企業に大きなシェアをもっていたが、この新製品ではさらに大企業、そして北米市場をも視野に入れた販促活動を行っている。
提携以前、サイボウズとマイクロソフトは“競合”としてお互いを意識していた部分が強かった。その状況が大きく変わったのは、樋口泰行氏がマイクロソフトの社長に就任してからだと、青野社長は語る。「樋口さんは大阪大学の先輩で、パナソニック出身という点も私と同じ。もちろんそれだけが理由ではないだろうが、社長に就任されてからすぐ、“一緒にビジネスをしていきたい”というお声がけをもらった。マイクロソフトが変わったと感じた瞬間だった」(青野社長)。
マイクロソフトはここ数年、Windows Azureなどプラットフォーム側の開発に注力し、アプリケーションはローカルのニーズをすくい上げたパートナーと共同で提供していくケースが増えてきている。
サイボウズとの提携もおそらくその一環で、国内グループウェア市場で多くの企業から支持を得ている同社と機能開発などの面でむやみに張り合うよりも、パートナーとして協力したほうがビジネス面でのメリットが大きいと判断した節がある。青野社長も「Cybozu SP Apps 2010の開発に関しては、われわれは国際化などを考慮する必要はなく、アプリケーションの開発だけにフォーカスできたので、正直すごく楽だった」という。
このマイクロソフトとの提携は、海外進出、特に北米市場でのビジネスにチャレンジしては失敗していたサイボウズにとっても大きな飛躍のチャンスとなった。サイボウズは2001年、米国に現地法人を設立し、製品をリリースするも2005年には会社を清算するという苦い経験をもっている。「このままでは絶対に勝てないということを、身にしみて実感した」と青野社長は当時を振り返る。
WPCには3年前から参加しているというサイボウズだが、マイクロソフトのパートナーエコシステムに入ったことで海外でのビジネスチャンスが格段に広がったという。
「マイクロソフトが世界中にもっているパートナーの数とその多様性は本当にすごい。今までわれわれにはドアを開けてくれなかった現地の企業が、SharePointのパートナーだというだけで喜んで迎えてくれる。セールスのチャネルを広げたいというわれわれの要望に対し、マイクロソフトはどんどん現地のパートナーやお客さまを紹介してくれる。パートナーどうしのつながりも大きく広がり、海外での仕事がはるかにやりやすくなった」とマイクロソフトのパートナーネットワークを絶賛する青野社長。
「日本の企業は海外進出がうまくいかないケースも多いが、マイクロソフトのようなグローバル企業に乗っかる“コバンザメ商法”も方法のひとつではないか」と語る。
サイボウズは4月に、米国カリフォルニア州アーバインに現地法人「Cybozu Corporation」を設立、マイクロソフトの協力を得て、北米市場でのCybozu SP Apps 2010の販促活動を開始している。
日本のユーザーとの違いを考慮し、掲示板ではなくディスカッション機能をもたせたり、スケジューラを強化したりするなど、現地のニーズをくんだ仕様となっており、来年1月までに60社以上での導入を目指すという。青野社長念願のサイボウズ海外進出がこれでいよいよ本格化したことになる。
SharePointに限らず、Office 365などでも今後はマイクロソフトとの提携を考えているという青野社長。「サイボウズはグループウェアの会社。その時代にあったプラットフォームを選択していきたい。そして今はSharePointが最適だと感じている」と語る。ライバルからワールドワイドでのパートナーへと変化した両社の関係は、今後もさらに発展する可能性を多分に秘めている。
■来年はクラウドサービスでのアワード受賞を目指す~弥生・岡本社長
弥生の代表取締役社長 岡本浩一郎氏 |
Microsoftは毎年、WPCの前にワールドワイドで各国のパートナーに対し、さまざまな部門でアワードを授与する。そして2011年度に弥生が受賞したのは「Microsoft Country Partner of the Year for Japan」、日本国内で最も優秀な成果を収めたパートナーとして表彰されたのである。
受賞の決め手となったのは「やよいの青色申告」などの同社製品における、WPF(Windows Presentation Foundation)の積極的な採用だ。.NET Frameworkベースのこの技術は、印刷帳票をそのままのイメージで表示することを可能にし、入力も行うことができる。会計ソフトはWPFを搭載しているかいないかで、ある意味、機能的な境界線が引かれるともいわれている。
だが弥生の岡本社長は「大変名誉なことだが、本当の勝負はこれから。来年のWPCでは別の業績で評価されてアワードを狙いたい」と語る。別の業績とはもちろん、クラウドサービスの「弥生オンライン」のことを指している。
弥生オンラインは2010年3月、マイクロソフトとの協業ビジネスとして発表されたWindows Azure上で提供される中小企業向けのサービスだ(発表時の仮称は“弥生SaaS”)。現在、一部の顧客に対しベータサービスが提供されているが、正式なサービスインの時期はまだ明らかになっていない。全容がなかなか見えてこないだけにどんなサービスなのか気になるところだが、「個人事業主/中小企業向けの統合ITサービスであり、パッケージ製品と同じ機能を提供するものではない」という。つまり「弥生会計」や「やよいの青色申告」がオンラインで使える、というサービスではない。
「パッケージの会計ソフトでは仕訳がすべての作業のベースとなっている。だが弥生オンラインでは必ずしも仕訳の知識を必要としない」と岡本社長は説明する。「お客さまが求めているものは会計ソフトではなく業務を改善すること。弥生オンラインではこれまでどうしても自計化を果たせず、税理士や会計事務所に丸投げしていたような個人事業主/中小企業を支援することが目的であり、日報のかわりに入力するだけで自動的に仕訳ができるような仕組みを提供する」としている。将来的にはともかく、現時点での弥生オンラインはパッケージソフトを補完するような位置づけにあるようだ。
Windows Azureに限らず、クラウド導入にあたって顧客にとって最大の不安材料はセキュリティの担保だが、岡本社長は同社の顧客は、大企業と異なり「データの置き場所に対してそれほど神経質になっていないようだ」と語る。Microsoftのデータセンターという面での信頼性の高さも前面に出していきたい考えだ。
マイクロソフトとしてもAzureの先行事例として弥生オンラインには大きな期待を寄せているという。すでに国内で大きなシェアを獲得している弥生がAzure上で動くとなれば、会計ソフトの先駆者的クラウドサービスとして、国内はもとより世界的にも注目されるパートナービジネスとなることは間違いない。
弥生のターゲットは基本的に国内に限られるが、岡本社長は「弥生がAzure上で稼働すれば、それは技術的に大きな進歩を遂げたということ。つまりグローバルの土俵で戦いうる技術をもった企業として世界に認めてもらう大きなチャンスになる」と、グローバルでの評価に強い意欲を見せる。
今後のマイクロソフトとの関係について岡本社長は、「まずはWindows 8の進ちょくを見守りたい」と語る。「何か新しいビジネスをはじめるとき、“新しいサービス×新しいサービス”の組み合わせだとうまくいくことが少ない。新しいサービスに既存のものをかけ合わせたとき、失敗のリスクを減らすことができる。マイクロソフトとの提携も、今後、そういったバランスを考慮しながら進めていきたい」とする。まずは今年中の弥生オンラインのサービスインを実現し、来年のアワード受賞につなげていくことが、当面の目標となりそうだ。