イベント

Microsoft ナデラCEOがSalesforce.comのイベントに登場 プラットフォームベンダーとしての自負のぞく

 Salesforce.comのプライベートイベントDreamforce 2015に、MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラ氏がKeynoteスピーカーとして登場した。ナデラ氏は、長年プラットフォームビジネスを展開してきた企業のトップとして、「パートナーはとても重要な存在」とパートナーをあらためて強調。

 ただし、「GoogleもFacebookもWindowsがなければ存在していなかった」と、Microsoftのプラットフォーム事業がライバルを生み出すことにもなったと説明した。プラットフォーム事業については、「プラットフォーム事業への投資を引き続き行い、最高のものを出す。セキュリティの観点から、プラットフォームは常に最新のものにアップデートされる必要がある」とプラットフォーム事業が従来と変わってきていることを踏まえた見解を述べた。

 CEOという職務については、「眠れない夜には、自分を仕事に駆り立てるものは何か、CEOの仕事とは何かを考えることがある。CEOの仕事とは、文化を創るキュレーターのようなものではないかと考えるようになった」と独自の見方を披露した。

MicrosoftのCEO、サティア・ナデラ氏

Salesforce.comはMicrosoftのアイデンティティ?

 ナデラ氏のセッションは、Wired Magazineのジェシー・ヘンペル氏の質疑応答によって進行した。

 CEO就任から1年半が経過し、Microsoftの企業文化がどのように変化したのかを聞かれるとナデラ氏は、「卓越性を持つこと。常に良くなっていく方向を目指すのがMicrosoftの文化といえるのではないか。多様性もMicrosoftの一部となっている。Microsoftは世界192カ国でビジネスを展開している。いろいろな人に影響を受けビジネスを行ってきた。Microsoftにとって文化を創るとは多様性を意味している部分もある」とMicrosoftの企業文化の特徴をあらためて説明した。

 その上で、Microsoftにとっての、ミッションとは何かをたずねられると次のように答えた。

 「啓発すること。人、組織、そして人と組織を結ぶという3つの観点から啓発していく。具体的には、まずプロダクティビティ。プロダクティビティによって、ビジネスプロセスを作り直すことを啓発していく。次にインテリジェントクラウド。データ資産が重要であることを訴えたい。三つ目はコンピューティング技術。水、空気のように自然に活用できるものへもっと向上させていく必要がある。Windows 10でやろうとしたことはまさにそれになる」

 このセッションが行われた日、Salesforce.comとMicrosoftは戦略的パートナーシップを結ぶことが発表された。昨年来、さまざまな連携を行っていくことが発表されたが、今回の発表によって両社はさらに強固な関係を持ったように見える。

 ナデラ氏はSalesforce.comについて、「Microsoftのアイデンティティだ」と説明した。これは、「われわれはプラットフォームの会社だ。企業、政府など官公庁、NPOなど多くのお客さまを持っている。たくさんのお客さまにかかわっていくためにはわれわれの力だけでは無理だ。パートナー企業を介することで多くのカスタマーに製品を届けることができる」とパートナーとの関係がMicrosoftのビジネスの根幹を支えているという認識があるためのようだ。

 そしてプラットフォームビジネスを展開してきた企業の自負が見えたのが、「Googleだって、FacebookだってWindowsがなければ誕生していなかっただろう」という発言だった。現在のIT業界の先頭を走るのはMicrosoftではなく、GoogleやFacebookという見方をされることが多くなったが、ナデラ氏のこの発言からは、OSという他社にないプラットフォームビジネスを長年手がけてきたベンダーとしての自負がうかがえる。

 「これまでプラットフォームビジネスを展開してきたことで、多くのパートナーが存在している。このパートナーの皆さんとのビジネスがあるので、ゼロ・サムということにはならないだろう」と今後もパートナーとのビジネスがMicrosoftの重要な要素となるという見方も明らかにした。

セッションの進行役をつとめたWired Magazineのジェシー・ヘンペル氏

パーソナルコンピュータからパーソナルコンピューティングへ

 プラットフォームビジネスは確かに成功してきたMicrosoftだが、モバイルに後を追う立場でのビジネスが続く。ノキアの買収についても買収は失敗だとの見方もある。これに対し、ナデラ氏は次のように説明した。

 「われわれは1つのデバイスがすべてを独占することはないと思っている。パソコンが成功し、次にスマートフォンの時代が来た。そしてスマートフォンの次に何か新しいデバイスが登場するはずだ。ウェアラブル端末がその新しいものになるのかもしれないが、次に主流となるデバイスが何かは現段階ではわからない。その中で重視すべきは、人の経験。個人と共に動いていくものを開発できるかが重要なポイントとなると考えている。Windows 10については、モビリティの体感を実現するものとするべく開発を行った。経験をモビリティ化することを目指した」

 経験のモビリティ化とは、パソコン、スマートフォンといった1つの端末、1つのアプリケーションに縛られるのではなく、例えば、ユーザーの経験である会話がプラットフォームとなっていくような世界を意味しているようだ。その際に重要となるのは、「パーソナルコンピュータ」ではなく、「パーソナルコンピューティング」になるという。デバイスはパソコンでなくても、センサー、ビッグスクリーンなどを活用し、「これまでの出力、入力とは全く変わってくる」世界を想定している。

 ナデラ氏は経験をモビリティ化する例としてiPhoneを使ったデモを行った。MicrosoftのCEOがiPhoneでデモをするのは刺激的な光景ではあるが、「iPhoneの中にはわれわれのアプリが入っている」とiPhone上でもWindowsプラットフォームと同等の経験ができることをアピールすることが目的だったようだ。

ナデラ氏自らiPhoneを使ってデモを行う珍しい場面も

 新しいものとしてマシンラーニングでE-mailの中でも重要なものを判別する「Focus」、Salesforceの上でOutlookの動作、Cortanaによる音声認識で自然言語でのツイート分析といった機能が紹介された。

 ホロレンズについてもビデオで紹介し、当初の用途としてゲームとともにエンタープライズ分野での利用を想定していると説明した。

 「デジタルの出力と、実際の世界が組み合わさることで、混じり合う新しい世界が生まれる。来年には開発キットを提供する予定で、今考えているような新しい世界が生まれるまでに5年くらいの時間がかかるのではないか」と中期的な計画で市場起ち上げに取り組んでいく計画であることを明かした。

 また、CEOの仕事とはどういうものか?という質問に対しては、「私は文化を創るキュレーターのような存在になりたいと眠れない夜に考えている」と答えた。このセッションの中で、何回かナデラ氏から「文化を創る」という回答があった。それだけにこの文化を創るキュレーターという回答は、真剣に考えてのことではないかと感じさせた。

三浦 優子