仮想化道場

ARMプロセッサとGPUに賭けるAMD

2014年に登場するBulldozer/SteamrollerラインのBerlin

 前述したように、2015年のProject SkyBridgeでは、x86プロセッサとしてPuma+コアが利用されるが、AMDには、このPuma+が属している省電力のx86コアJaguar/Pumaラインとは別に、メインストリーム向けのBulldozer/Steamroller(いずれも開発コード名)ラインが存在する。

 AMDでは、2014年1月にSteamrollerコアを搭載するKaveriをリリースしたほか、Opteron 6300/4300シリーズでは、Piledriverコア(Steamrollerコアの1つ前の世代)を使ったWarsaw(開発コード名)を1月に発表している。

 Warsawは、12/16コアのマルチコアプロセッサで、消費電力改善などのチューンアップは行われるが、それまでのOpteron 6300/4300とは、CPUコアも半導体製造プロセス(32nm)も変わらないため、プロセッサとしてそれほど魅力があるとは思えない。Warsawでは、Xeon一辺倒になっている現在のサーバー市場をひっくり返すことはできないだろう。

 また、デスクトップのKaveriをサーバーに転用した第2世代のOpteron X(開発コード名:Berlin)として、HSA対応のサーバープロセッサが登場することも、以前から発表されている。Berlinは、4つのSteamrollerコアとGPUを統合しているAPUとなっているため、GPGPUを利用できるサーバーコンピューティングのプラットフォームとなる(製造プロセスは28nm)。

 ただし、HSA対応製品が登場するといっても、サーバー分野でのGPGPUが普及していくためには、GPGPUに対応したさまざまなアプリケーションやミドルウェアなどが鍵になってくる。まずは、Berlinを使ってソフトウェアを開発していくという状況なのだろう。従って、Berlinベースのサーバーが一気に普及するとも思えない。サーバー分野でAMDが存在感を見せつけるようになるには、GPGPUベースのソフトウェアがどれだけ開発されるかによるだろう。

AMDのx86プロセッサはどうなるのか?

 なお、WarsawやBerlinの後、Bulldozer/Steamrollerラインがどうなるのかに関しては、まったくアナウンスがなかった。以前、Bulldozer/Steamrollerラインでは、Kaveriの次世代プロセッサとしてCarrizoというコード名が出ていた。Carrizoは、Steamrollerコアの次世代となるExcavatorコアを採用するといわれていたが、今回のカンファレンスではまったく触れられていない。

 この理由は推測するしかないが、コアのデザイン自体は進んでいるものの、AMDのメインストリーム/ハイパフォーマンスサーバー向けのプロセッサを製造できる半導体製造プロセスがないのかもしれない。

 AMDのメインストリーム/ハイパフォーマンスサーバー向けのプロセッサは、GLOBALFOUNDRIESで製造されている。AMD向けの半導体製造プロセスは、現在主流のスマホやモバイル向けのARM向けプロセッサで利用するプロセスとはまったく違ったものとなっている。大ざっぱに言って、これらのサーバー向けプロセッサでは性能を追求するため、高クロックでの動作を行うようにしているが、一方のARMプロセッサは低消費電力性を追求している。

 ほとんどのプロセッサが、スマホやモバイルなどのARMプロセッサで占められるようになると、PC向けの半導体製造プロセスへの投資も減ってきており、GLOBALFOUNDRIESでも28nm以降のスケジュールは不明だ(14nmプロセスではSamsungとの提携が発表されているが)。

 このように、PC向けの半導体製造プロセスは非常に厳しくなっている。Intelほどの量を製造するなら、新しい半導体製造プロセスへの投資も可能になるが、外部のファンドリーに頼っているAMDにとっては厳しい事態だろう。そのIntelにしても、PC市場が小さくなっていることなどから、巨額の投資を続けるのは難しくなり始めている。

 このような状況を考えると、AMDのメインストリーム/ハイパフォーマンスサーバー向けのプロセッサは、世代交代のスケジュールが年1回から2~3年に一度に変わってくるのではないか、と筆者は考えている。

 一方でARMプロセッサについては、2016年以降の提供を目指し、AMD独自設計となる64ビットARMコアのK12(開発コード名)の開発を進めている。

 K12は、高パフォーマンスと省電力性を狙ったアーキテクチャとなるようだ。ちなみにK12の開発は、AMDでAthlon 64などのK8アーキテクチャ、AppleでiPhoneやiPadなどのA4/A5プロセッサ(A4はiPhone 4や初代iPad、A5はiPhone 4SやiPad 2で使われた)を開発した、Jim Keller氏が中心となって進められている。

 このように、ARMプロセッサに関してはK12コアの開発が発表されているが、x86コアに関しては、Puma+以降に関する明確なアナウンスはなかった。x86コアの開発は引き続き進めていく、というアナウンス自体はされているが、もしかすると、将来的にはラインアップ自体がなくなる可能性もある。このあたりは、Project SkyBridgeベースのx86プロセッサ、ARMプロセッサがサーバー市場で認められるかが重要なポイントになるのではないか。

2016年以降には、AMD独自開発の64ビットARMプロセッサのK12をリリースする
今後AMDのARMプロセッサには、独自開発のK12も用意される。サーバー用途のARMプロセッサを考えると、高い性能が必要になってきているのだろう

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 今後のサーバー向けプロセッサの中心が、従来のようなx86ベースで進むのか、それともARMベースで進むのかはAMDにとっても分からないため、Project SkyBridgeのような、両てんびんを賭けるプロジェクトが進んでるのかもしれない。

 AMDにとっての2014年後半は、ARMプロセッサをどのようにサーバー分野に普及させていくのか? GPGPUをサーバーで利用してもらうのか?などが、2015年以降のサーバー分野で影響力を持ち続けられるのかどうかの、重要なターニングポイントとなってきそうだ。

最近のAMDでは、1年後ぐらいのロードマップしか出さなくなっている。これは、度重なる変更があったり、経営陣が入れ替わったりしたためだ。今後、サーバー分野でもx86プロセッサ市場は小さくなってくるかもしれない

山本 雅史