週刊海外テックWatch
外洋に浮かぶAIデータセンター 波力で世界を変えるか、夢で終わるか
2026年5月18日 11:22
「海は優しくない」――根強い懐疑論
だが、夢の海上データセンターには、長い“失敗の歴史”という影がつきまとう。
クリーンエネルギーと脱炭素化戦略を専門とするMichael Barnard氏は、CleanTechnicaへの投稿で、「波力発電は、クリーンエネルギーの中でも最も長く成功していない事例の一つ」であり、多くの企業の失敗の歴史があると指摘する。
開発者たちは、さまざまなシステムを試してきたが、同氏は「ほぼすべての設計が同じ壁に直面してきた」と論じる。壁とは、ひと言で言えば海の過酷さだ。塩水による腐食、付着生物、嵐への耐久性、そして風力や太陽光と比べた経済性の低さだ。
特に問題視するのは「劣化による出力減退」だ。波力発電では、塗装の劣化、腐食、生物付着による流路の閉塞、センサーへの塩分浸入、バルブの固着などの問題が積み重なっていく。同氏の試算では、メンテナンスが不十分な場合、有効出力が6カ月で70~85%、12カ月で45~65%、24カ月で10~25%にまで落ち込む可能性があるという。
また運用には、予備や故障も考慮した、数百から数千の機器のメンテナンスのため、専用のサービス船、予備部品、訓練を受けた乗組員などが必要で、「メンテナンスこそがビジネスモデルそのものとなる」という。
データセンターの専門家はどうみるのか。データセンター性能の国際的権威機関Uptime InstituteのJacqueline Davis氏は「電力とネットワークは常に、データセンター停止の根本原因の上位2つになる。スタッフがほとんどいない遠隔環境ではこれらの管理が特に難しい」とNew Scientistに語っている。冷却コンプレッサーの手動再起動など、異常時には人的介入が依然として必要なケースが多いという。
技術的・経済的な課題に加え、用途面での限界も指摘されている。New Scientistは、数時間から数日かけて結果を返すAIモデルの学習や科学シミュレーションのような用途には適する可能性がある一方、チャットボットや検索アシスタントのような低遅延用途には不向きだと指摘する。Panthalassa自身は公式発表でAI推論用途を前面に打ち出している。
構想の実現までには広い海が横たわる。Barnard氏はこうも述べている。「問題は、波力発電が不可能だということではない。洋上施設の所有にコストがかかるということだ」
海は、ロマンに優しくない。