MicrosoftのS+S戦略は、企業の価値を最大限に高める
~米本社のクラウド事業担当者に聞く
■すでに4万人の開発者のうち70%がクラウドに関与
米Microsoft エンタープライズテクノロジーストラテジストのThomas Wells氏 |
米Microsoftの「S+S(ソフトウェア+サービス)」戦略が本格化してきた。
S+Sとは、その名の通り、これまでMicrosoftが展開してきたソフトウェアのライセンスおよびパッケージビジネスとともに、サービスという言葉で表現する新たなクラウドによる展開を、両立していくという取り組みを示したものだ。
3月4日、米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが、同社のクラウドコンピューティングに関する方針を発表。これまでのソフトウェア事業に加えて、全社をあげて、クラウドコンピューティングに取り組む姿勢を示した。
バルマーCEOは、「すでに4万人の開発者のうちの70%がクラウドに関与。今後は90%の仕事がクラウドに関連したものになる」と宣言する。
■クラウドはIT管理の問題解決に利用できる
では、Microsoftは、クラウドをどうとらえ、どう展開していくつもりなのか。
米Microsoft エンタープライズテクノロジーストラテジストのThomas Wells氏はまず、ユーザー企業の現状を次のように指摘する。
「ユーザーの多くは最新のバージョンを活用していない。また、検証が終わり、新たなものを導入した途端に次のバージョンが登場するという状況となっている。」
「では、なぜ企業が、最新のバージョンをいち早く導入しないのか。その背景には、セキュリティに問題があるのでないか、新たな機能を確実に使い切れないのではないかといった懸念がある。新たな機能を活用するために、新たなスキルを習得する必要もあると考える。」
「しかも、投資コストの7割が既存システムの保守に使われ、戦略的な分野に新たな投資できないという問題もある。結果として、新たなバージョンを導入できずに、生産性を高められず、価値を最大限に生かすことができないという問題が生まれている。」
クラウドは、こうした問題解決のためにも活用できるとWells氏は指摘する。
「クラウドを活用することで、常に最新のバージョンを利用することができる。また、初期の導入コストを節約したいという場合にもクラウドの活用は適しており、戦略的投資に制限があったとしても、新たな領域への投資が可能になる。」
■管理コストを軽減、常に最新バージョンが利用できるクラウド
「米国では車を購入する手法のひとつとして、リースという形態が広がっている。2年ごとに新車を買いたいといったユーザーや、メンテナンスが面倒だという人には最適な制度だ。クラウドもこれと同じだ。」
「ライセンスを購入する必要がなく、ハードウェアやソフトウェアのメンテナンスも任せることができる。電気代も節約でき、スタッフにかかわる人件費も削減できる。そして、最新のバージョンも利用できる。」
「この数年に渡る厳しい経済環境のなかで、新たなビジネスモデルとして、SaaSやクラウドが注目を集めているのは、より効率性が高い最新のソフトウェアを利用でき、コストの観点からもメリットを享受できるという点にあるからだ。」(Wells氏)
Wells氏はクラウド戦略に関する資料のタイトルページにF1の絵を示す。「スピードが優先され、時間という価値をもたらすのがクラウドの世界」と説明する |
■オンプレミスとクラウドを使い分ける提案
だが、Microsoftは、クラウドだけに特化するという戦略を打ち出すつもりはないという。
「S+Sは、ソフトかサービスかという、二者択一の提案ではない。顧客が求めるセキュリティレベル、データのアクセス環境、拡張性といった観点から、オンプレミスとクラウドを使い分けたり、双方のいいところを組み合わせて活用したりといった提案が可能になる。」
クラウドの活用において、ユーザーが不安視しているもののひとつに、安定した運用が可能であるのかどうかという点がある。
これに対して、「Microsoftのクラウドサービスには、長年の実績がある」とWells氏は反論する。
「Microsoftは、メッセージサービスのHotmailや、ゲームユーザー向けのXBox Live、毎月第2火曜日に定期的にアップデートを行うWindows Updateサービスといったネットワークを活用したサービスで、すでに長年の実績がある。これらのサービスの対象となっている端末は全世界で10億台。どの端末に、どのパッチを配信すればいいのかというコントロールも行っている。」
「これだけの規模のクラウド環境を構築し、安定して運用している実績があるのはMicrosoftだけ。世界で最も信頼性の高いプラットフォームの上でサービスを提供していることが裏付けられるだろう。」
そして、こうも語る。
「Microsoftのクラウドサービスは、まず、エンタープライズ向けということを前提に開発をしている。多くのユーザーが考える以上に、セキュリティを重視し、強固なものを作っている。また、S+Sで提供されるのは、Microsoftの世界だけではいけない。ウェブやモバイルにも同様に提供できるものである必要がある。」
「例えば、Macに対するアプリケーションベンダーとしては、MicrosoftはAppleに次ぐプレーヤーだが、SafariやFirefoxといったソフトでも、Microsoftのクラウドサービスが活用できるようにするのは当然のことであり、オープンという姿勢はクラウドの世界でも変わりがない。」
Wells氏は、Microsoftのデータセンターに対する投資についても言及した。
「Microsoftは、過去数年に渡ってデータセンターへの投資を加速している。BPOSのために25億ドルという大金を投資した実績もある。クライアント向けソフトウェアの売り上げ規模は35億ドル。この売り上げを持ちながらも、データセンターへの投資を積極化させていく姿勢は、これからも変わらないだろう。」
「Microsoftが構築するデータセンターは、環境にやさしい省エネ型技術を活用している。また、キャリアと同じ水準の強固なインフラを持っている。競合他社と比較するならば、Microsoftはソフトウェアを売っている会社であり、BPOS、Officeでも使えるようにするなど、ソフトウェア戦略の手段のひとつとしてクラウドを展開している点が大きな特徴であり、また最新のバージョンを迅速に導入してもらうための手段としてもクラウドを生かすことができると考えている。」
「コンシューマユーザーに対しても、SkyDriveをより快適に活用できるようにするといった取り組みもできる。それに対して、Googleのメインビジネスは広告収入であり、売り上げの97%を広告が占める。また、Amazonは書籍販売が主軸となっている。いつ本業に戻り、いつまで投資を続けるのかという点では大きな不安が残る。そこに大きな差がある。」
さらに、「Googleの方がコストが安いという指摘もあるが、本当にそうなのか」と疑問を提示。
「Microsoftは、それだけのコストのものが提供されており、トータルコストで判断してもらうことも必要だ。また、Microsoftは将来にわたるロードマップを提示しており、それがユーザーの長年にわたる投資を担保することになる。さらに、クラウドとオンプレミス型のビジネスを両立するというという姿勢を打ち出しているのは、Microsoftだけ。その点でもGoogleのビジネスモデルとは異なる」とした。
Microsoftはクラウドとオンプレミスの両立が特徴となる |
■「Azureは、開発プラットフォームであり、PaaSのひとつ」
現在、Microsoftは、全世界に7か所にのデータセンターを持っている。基本的には、2つのデータセンターごとをペアにし、フューエルオーバーアベイラビリティを確保している。
例えば、米バージニア州のデータセンターのバックアップにはワシントン州のデータセンターを活用。ダブリンのバックアップとしてオートラリア、シンガポールのバックアップとして香港、そして、ブラジルのバックアップには米国のデータセンターを活用する。
Microsoftのデータセンターの立地場所 |
「パリやロンドンは規制が多く、データセンターを置くという点では最適とはいえない。一方で、ダブリンや、香港、シンガポールは、規制が少なく、政治的にも安定している。日本のユーザーには、香港とシンガポールのサーバーを活用してもらうのがいい。日本にデータセンターを設置するかどうか、そのための条件はなにかという点については、こまの時点では語ることができない」とした。
さらに、「サーバーの管理者が、顧客のデータに直接アクセスすることができないようになっている。また誰が、どの部分を管理しているのかがわかるようになっているため、問題が発生した場合にもすぐに突き止めることができる。データセキュリティの安全性については、ぜひ信用をしていただきたい」などと語った。
一方で、Windows Azureについては、「Azureは、開発プラットフォームであり、PaaSのひとつとなる。Windows プラットフォームのあらゆる機能が、クラウドで利用できるようになり、しかも、クラウド上では、プラットフォームが陳腐化するとか、レガシーになるという問題が発生しない。開発者には、この環境をぜひ活用してもらいたい」と語った。
Wells氏が強調していたのは、Microsoftが提供するクラウドは、あくまでもオンプレミストの両立が可能な環境を提供しているものであり、長年にわたる信頼性をもとに構築したものであるという点だ。そして、エンタープライズユーザーを中心に開発を進めており、そこで実現される高いセキュリティ、信頼性、安定性をもとに、コンシューマユーザーが利用できる環境を構築していることであった。
Microsoftと競合他社のクラウド戦略の違いを、これらの観点から、今後も強調していく考えだ。