キヤノンMJが描く、ITソリューション事業3000億円への道



 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は、ITソリューション事業で3000億円の売上高を目指す「ITS3000」計画を打ち出している。その中核的役割を担う新会社として、4月1日付けで、キヤノンITソリューションズが設立され、それにあわせて、新たな事業方針が打ち出された。同社は、ITソリューション事業を、どう加速するのだろうか。


業界第2グループでの地位獲得を目指す

2008年度第1四半期のセグメント実績

ITSカンパニープレジデント・浅田和則専務取締役

 キヤノンMJの事業構成は、ビジネスソリューション事業のほか、デジタルカメラやプリンタなどのコンスーマ機器事業、半導体製造装置をはじめとする産業機器事業の3つに分類される。そのうちビジネスソリューション事業は、全体の約6割の売上高を占め、複写機を中心とするドキュメントビジネスと、SI事業を中心とするITソリューションに分類される。ITソリューションの売上規模は、2007年度実績で1710億円。先ごろ発表された2008年度第1四半期(1~3月)実績では348億円となり、全社売上高の16%を占める。

 キヤノンMJでは、中期経営計画の重点戦略のひとつとして、ITソリューション事業の売上高3000億円を目指す「ITS3000計画」の推進を掲げ、「ITソリューションを中核事業に育成し、早期に3000億円規模の事業に育て上げる」(キヤノンMJ・村瀬治男社長)との姿勢を見せている。

 2010年には、そのひとつの指針として、売上高2280億円の規模にまで成長させる考えを示しているが、実は、社内的には、この年までに3000億円規模へと事業を成長させる狙いがある。

 キヤノンMJのITSカンパニープレジデント・浅田和則専務取締役は「3000億円とのギャップはあるが、M&Aを含めて、これを早期に埋めるための施策を講じていく」とする。

 ITサービス市場においては、唯一、売上高1兆円を超えるNTTデータが圧倒的な規模を誇るが、第2位グループは、4月1日に設立したばかりのTISとインテックホールディングスの合弁であるITホールディングスや、野村総合研究所(NRI)、日本ユニシス、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)などが、売上高3000億円前後でひしめき合っている。キヤノンMJが目指すITS3000は、第2グループにおける地位を確固たるものにする狙いがあり、「ITサービス業界で存在感を発揮するには、第2グループの地位を確立できる3000億円の規模が必要条件。それが、キヤノンMJのITソリューション市場におけるブランド確立につながる」(浅田専務取締役)と語る。

 これまでにも、ドキュメント関連製品をベースにした自社開発製品などで事業を拡大する一方、住友金属システムソリューションズ(のちにキヤノンシステムソリューションズに社名変更)やアルゴ21を買収。M&Aによる事業拡大を図ってきた経緯がある。現在、ITSカンパニー全体で5487人の社員を擁し、そのうちSEが3800人という規模を誇る。

 「顧客に対応できる体制が徐々に整ってきた。ITソリューション市場は激化しているが、今後も、市場成長率を上回る成長を達成していく。そのためには、引き続き、M&Aを含めて、強力な施策を今後も打つ必要がある」と、浅田専務取締役は繰り返す。

 2010年までのITソリューション市場の年平均成長率は2%弱と見られている。同社では、ITソリューション事業において、年平均2ケタ成長を維持して、事業を拡大していくことになる。


ITSカンパニーを支える3つの子会社

ITSカンパニーの体制

 キヤノンMJのITSカンパニーには、直系ともいえる子会社が3つある。

 ひとつめは、4月1日付けで、キヤノンシステムソリューションズとアルゴ21が合併して設立したキヤノンITソリューションズである。

 キヤノンシステムソリューションズが得意とした製造、流通、医療などの分野に加え、アルゴ21が得意とする金融、組み込みシステムなどの事業を統合。さらに、キヤノンITソリューションズの連結子会社であるエス・エス・ジェイが開発したSuperStreamによるERP市場への展開や、ガーデンネットワークによるガソリンスタンド向けやホテル向けの業種システム展開、FMSによる医療分野への展開などにより、「コンサルティングから企画、設計、開発、運用、保守までのシステムライフサイクル全般にわたるサービスを提供できるトータルITソリューションカンパニーに成長した」(浅田専務取締役)と位置づける。

 4月1日付けで、キヤノンITソリューションズの社長に就任した武井尭氏は、「業種別ソリューションを強みにした広範なサービスと、強力な組織体制、高度な技術力を背景に、この業界において、価値創造に貢献するトータルサービスプロバイダとして、冠たる企業となることを目指す。そのための前提として、満足度ナンバーワンを目指すことが必要だ」と語る。

 社員数3460名というITSカンパニーでも中核的役割を担う組織として、オフショア開発への取り組み、自動車や携帯電話などを対象とした組み込みソフトウェアの開発など、収益性の高いビジネスにも積極的に踏み出していく考えだ。

 2つめが、キヤノンソフトウェアである。

 業務アプリケーション開発ツールの「Web Performer」やワークフローシステム構築ツール「Web Plant」などの自社開発製品を持つほか、IBM System i向けのシステム構築、年金システムの開発などを手がけ、2007年度実績では、前年比26%増の241億円の売上高を計上している。

 キヤノン製品向けの組み込みソフトの開発に加えて、昨年度からグループ外企業からの受託も開始しており、成長に向けた安定基盤を確立しようとしている。通信プロトコル技術を活用した開発会社であるキヤノンソフト情報システムが同社子会社のなかにあり、今後、キヤノンソフトグループ内での連動強化も注目される。

 そして、最後が、キヤノンネットワークコミュニケーションズである。

 ネットワークやデータベースシステムの構築および保守を行う企業で、2005年からはデータセンター事業にも参入。さらに、制御システムの開発経験を生かして、ネットワークカメラによる映像監視システムの取り組みにも力を入れている。


2008年度の7つの重点戦略

7つの重点戦略

 浅田専務取締役は、これら3つの企業が核となるITSカンパニーの事業領域別売り上げ構成比を示しながら、「現在は、SI事業が25%、ソリューション/商品が26%、ITプロダクトが28%となり、この3つで約8割を占める。今後、13%を占める基盤・保守事業や、8%にとどまっている組み込みソフト事業を拡大していきたい」と語る。さらに、「業種別では金融が39%、製造が28%を占めており、この分野をさらに強化していく」と語る。

 その言葉を裏付けるように、ITSカンパニーでは、2008年度の重点戦略として、以下の7つを掲げる。

 「SI事業の強化、拡大」「組み込みソフトウェアの事業の強化」「基盤・運用保守事業の強化」「ソリューション/商品力の強化」「グローバル化の推進」「販売力の強化」「人材育成」-である。

 「SI事業の強化、拡大」では、製造および金融向け事業をグループのさらなる強みへと発展させることを掲げ、製造業向けには、現在、同社事業の5割、キヤノンITソリーションズでは6割を占めているとするプライムビジネスへの一層の転換を打ち出し、上流工程への展開をシフトするとともに、コンサルティング・SIの強化によって、中堅市場へも参入を図る。また、金融業向けには、協業ビジネスを強化する一方で、これまでアルゴ21が得意としてきた銀行・証券に加え、保険・カードの領域にまで拡大していく考えを示した。

 「組み込みソフトウェアの事業の強化」では、キヤノン製品向けのソフト開発に加えて、カーナビをはじめとする車載システム向けソフト、携帯電話やモバイルソリューションなどの携帯端末向けソフト、半導体露光装置やマーキング装置、改札機、業務用レコーダーなどの産業機器向けソフト、DVDやBlu-ray向けなどの情報家電関連ソフトをターゲットとして、「アルゴ21が蓄積した開発経験により、事業が一気に広がりを見せた。なかでも自動車関連、オフィス製品、携帯端末を中心に拡大する」(浅田専務取締役)とする。

 「基盤・運用保守事業の強化」では、「2010年までの中期計画において、最も注力する分野」と位置づけ、既存データセンター機能の拡充と次世代データセンターへの取り組み、独自サービスの開発による差別化と、ストックビジネスの拡大による高採算体質への転換を目指すとした。

 「大規模ミッシュンクリティカルなIT基盤を扱う真のプロフェッショナルサービス部隊を目指す」という。


ドキュメントソリューションの強みを持続

 4番目の「ソリューション/商品力の強化」では、「キヤノンの強みを最も発揮できる分野」とし、MEAPやimageWAREなどのドキュメントソリューション商品の強化、金融・製造向けソリューションなどの戦略的業種ソリューションの推進、GUARDIANなどのセキュリティソリューション商品の拡充、ERPやEAIツールによるクロスインダストリー分野の強化の4点を掲げた。

 「グループ各社の強みを生かせるソリューションドメインの強化とともに、新規ソリューションの積極的創出にも乗り出す」とした。

 「グローバル化の推進」では、上海の開発子会社をはじめとするオフショア開発の強化とともに、R&D拠点展開を掲げ、「販売力の強化」では、SIおよびソリューション営業要員の強化と、コンサルティング力の強化、顧客規模別やソリューション別の営業組織の整備などに取り組む姿勢を示した。

 そして、「人材育成」では、昨年からプロジェクトを開始したグループ標準スキル定義の確立により、人材育成計画プログラムを強化。現在3800人規模の開発リソースをさらに拡充していく姿勢を見せた。また、IT人材育成ソリューションをビジネス展開していく方針も打ち出す。


どんなM&A戦略を打ち出すのか

キヤノンMJの中期経営計画とその中に占めるITソリューションの売上

 これまでのところ、ITSカンパニーにおけるM&A戦略は一応の成果を納めているといっていい。そして、業績目標として掲げた数字に対しては、着実に売上高が増加し、キヤノンMJグループのなかにおける存在感を少しずつ拡大している。

 しかし、3000億円という業績目標とは別のところに置かれた、大きな中期目標を達成するには、まだまだ長い道のりがある。

 先にも触れたとおり、2010年度のITSカンパニーの売上高計画は、2280億円の目標となるが、ITS3000は、計画立案当初から2010年を目標としてきた。現在の売上高計画には、当然のことながらM&Aは含まれていない。そして、浅田専務取締役がいう「3000億円とのギャップ」を埋めるには、2010年までに大型M&Aが見込まれることになり、それにより、事業の質も、量も、幅も拡充されることになるはずだ。

 2010年度に3000億円という売上高計画が、業績目標という形で発表されていない現時点は、ITソリューション事業が成長に向けた推進体制のすべて整ったとはいえない段階であるのは事実だ。

 そうした意味では、同社のITソリューション事業はまだすべてのベールを脱いだわけでない。

 今後、どんな手を打ち出すのか、ITソリューション事業への次の一手からは、目が離せないともいえる。

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(大河原 克行)
2008/4/30 10:45