樋口COOの就任でマイクロソフトはどう変わるか



就任会見で握手をするダレン・ヒューストン社長(左)と樋口泰行COO(右)

 前ダイエー社長であり、元日本ヒューレット・パッカード社長の樋口泰行氏が、3月5日付けで、マイクロソフト株式会社の代表執行役兼COO(最高執行責任者)に就任したことは、マイクロソフト日本法人が推進しているPLAN-Jを、さらに加速するものになるといえるだろう。

 マイクロソフトでは、今回の役員人事を、日本におけるマイクロソフトの経営、事業戦略を大きく変更するものではなく、2007年から進めているPLAN-Jの一環での人材登用としており、樋口COOは、今後、ダレン・ヒューストン社長を補佐する形で経営に携わる。

 だが、「私の退任の噂は間違いであり、7月からの新年度も、私がぜひやりたいと考えている。しかし、将来的には、私の後任ということも含めて考えている」と、将来のCEOを見据えた人事であることを明らかにしている。

 樋口氏のマイクロソフト入りは、社長含みといっていい。


樋口泰行COO

 樋口氏は、1957年兵庫県出身。80年に大阪大学工学部電子工学科卒業後、同年、松下電器産業に入社。91年にはハーバード大学経営大学院(MBA)を卒業。92年にボストンコンサルティンググループに入社。94年にはアップルコンピュータに入社し、現日本マクドナルドCEOの原田泳幸氏などとともに、マックのコンシューマ事業拡大に尽力。97年には、コンパックコンピュータに入社。2002年の日本ヒューレット・パッカードとの合併にともない、日本ヒューレット・パッカード執行役員インダストリースタンダードサーバ統括本部長としてIAサーバー事業を担当。03年同社代表取締役社長就任。05年には、電撃的にダイエー代表取締役社長に就任したものの、2006年には社長を退任し、顧問に。昨年末にはダイエー顧問を退任していた。樋口氏にとっては、約2年ぶりのIT業界復帰になる。

 ダレン社長は、2005年7月から社長に日本法人社長に就任しており、前任のマイケル・ローディング氏が2年間の任期で米国本社に戻ったことを考えると、今年6月末が、ダレン・ヒューストン氏の交代時期ともいえる。

 同社では「任期という概念はない」としており、今年6月での社長交代を否定する。ダレン・ヒューストン社長も、「今後6カ月、9カ月、12カ月という期間で私が米国に帰るということはない」として、7月から始まる新年度もヒューストン社長体制で行くことになりそうだ。

 ヒューストン社長は、就任直後に3カ年計画のPLAN-Jを策定。米国本社からもその成果に高い評価が集まっている。PLAN-Jの最終年度の総仕上げは、樋口氏との二人三脚で挑むことになる。


ダレン・ヒューストン社長

 この4年間は、外国人社長となっていたマイクロソフト日本法人の大きな変化をあげるとすれば、米国本社と日本法人のパイプが強く結びついたことだろう。

 先頃発表したWindows XPのサポート期間の延長については、日本市場から期間延長に対する要求が強く、これを米国本社が承認する格好で、全世界規模で延長に踏み切ったものだ。そのほかにも中小企業向けの各種支援策や、日本発のプロダクトの開発など、米国本社が日本独自の市場性を理解した上で、施策を打ち出す例が数多く見かけられる。

 同社関係者の間からは、「英語をネイティブで扱え、本社にも精通している外国人社長だからこそ、日本市場の現状や、日本ならではの施策の意味が伝わりやすくなった。それがこうした数々の日本独自の施策につながっている」といった声が聞かれる。

 英語を流暢に扱う樋口氏は、コミュニケーションの点では心配はないだろうが、これまでパイプがないマイクロソフト米国本社とのやりとりにどんな手腕を発揮できるかが注目されるところだ。

 一方、全国規模でのディーラー支援策や官公庁向けの施策などでは、日本人としてのメリットが存分に発揮できそうだ。ダイエー時代にも、数多くの店舗を回った足腰の強さを生かして、現在、ヒューストン氏が実行しているような全国規模での支援体制を実現すれば、十二分ともいえる成果につなげることができるだろう。


 だが、こんな見方もある。

 日本ヒューレット・パッカード社長就任時には、45歳という「若さ」が取り沙汰された樋口氏だが、マイクロソフトにおける、現在49歳という年齢は、ヒューストン氏および前任のローディング氏の社長就任時の39歳という年齢、さらにその前任の阿多親市氏が42歳で就任したことと比較すると最高齢となる。成毛眞氏、古川享氏は30代での社長就任であったことと比較するとなおさらだ。

 1年間、ヒューストン体制を維持したあと、樋口氏にCEOをバトンタッチすると、50歳での社長就任となる。激務といわれるマイクロソフト日本法人社長の仕事を、最高齢社長となる樋口氏がいかに担うことができるかもひとつの焦点といえよう。

 日本ヒューレット・パッカードの社長時代には、「ハードワーカータイプ」、「まじめという言葉が一番似合う」、「仕事はアグレッシブで、人をグイグイ引っ張っていくタイプ」とされた樋口氏の性格が、マイクロソフト日本法人の経営に、どんな影響を及ぼすかがこれから楽しみだ。

関連情報
(大河原 克行)
2007/3/6 00:00