サンが打ち出す4つの基本戦略とは?



 現在、サン・マイクロシステムズが打ち出している戦略は、大きく4つのポイントに集約できると考えられる。

 それはひとことでいえば、これまでのサーバーカンパニーからの脱皮を示したものだといえる。

 振り返れば、サンは設立以来、サーバー市場の成長を牽引し続けてきた。

 約25年前に米Sun Microsystemsを創業したスコット・マクニーリ会長は、設立当初からネットワークコンピューティングの世界にフォーカスし、これを事業戦略の柱としてきた。その戦略が、インターネットの世界的な普及と相まって、サンは、サーバー事業を急速な勢いで加速させてきた。まさに、サーバーカンパニーとしては、押しも押されぬ存在となったのである。

 だが、IAサーバーの普及や、UNIXサーバー分野における競争の激化、低価格化の波に乗れなかった判断の遅れ、さらに、サンをプロプラエタリとする動きなどが、ここ数年のサンのサーバー事業を厳しい状況へと陥れた。

 「敵に塩を贈る」とさえいわれたマイクロソフトとの包括提携は、サンの苦戦ぶりを示すには十分な証左といえるだろう。

 そのサンがここにきて打ち出した戦略は、いわば、サーバーカンパニーという枠のなかでは語れない取り組みだといっていいだろう。


システムカンパニーへの脱皮図る

 その最たる例が、戦略の柱のひとつめといえる、「システムカンパニー」への取り組みだ。

 同社がこの言葉を標榜してから、しばらくの時が立っている。

 これは、同社が20年以上にわたって推進してきたサーバーカンパニーからの脱皮を意味するのと同時に、同社が「Sun Grid」によって目指すユーティリティサービスへの取り組みを本格化することを宣言するものだったといっていい。

 だが、「システムカンパニー」としての取り組みはまだ緒についたばかりといわざるを得ない。

 同社は、先頃、米国においてユーティリティサービス「Sun Grid」の概要を明らかにした。サンが所有するサーバーおよびストレージを、ユーザーが利用し、その利用に応じて課金するという仕組みだ。

 Sun Gridの利用料金は1CPUあたり1時間1ドルという設定。近い将来に、同様の施策が日本でも開始されることになるのは明らかだ。

 事実、同社では、日本における準備を着々と進めており、昨年来、Sun Grid型を視野に入れたパートナーモデル、インダストリーモデル、サービスモデル、ソリューションモデルの模索に着手している段階だ。

 例えば、NTTデータやCSKなどとの連携強化は、Sun Gridに向けたパートナービジネスの改革と見ることもでき、また、直接、ユーザーとの接点を持つ形でのビジネスモデル構築にも取り組んでいるのも、同様の狙いがあるといえるだろう。

 しかし、いまの段階で、サンは、システムカンパニーとしての片鱗(へんりん)を見せ切れている段階にはない。いまは、Sun Gridのビジネス開始に向けた準備が静かに進行している段階だといっていいだろう。この分野における動きをいつ本格化するかが注目される。


一気に加速した提携戦略

4月にはNECとのグローバルな戦略的提携を発表。左より米Sun会長兼CEOのスコット・マクニーリ氏、NEC代表取締役執行役員社長の金杉明信氏

 2つめのポイントは、アライアンスビジネスを加速している点だ。

 昨年6月には、富士通と次期SPARCおよびSolarisサーバーの共同開発を発表し、2006年には富士通との製品統合を発表。さらに、AMDとの提携により、Sun FireシリーズにOpteron搭載のサーバーを投入、ラインアップの裾野を拡げて見せた。

 また、今年4月には、NECとSIビジネスにおけるグローバルな戦略的提携を発表した。これまでのプロダクトを対象とした協業だけに留まらず、SIビジネスの協業強化、ITとネットワークの統合ソリューションの協業、ソリューションセンターの強化というようにソリューションにおける協業にまで幅を広げた。

 これまでのサンには、あまり見られなかった施策だといえるだろう。

 そのほかにも、アイデンティティマネジメントで野村総合研究所との提携を発表するなどの動きもある。もちろん、先に触れたユーティリティサービスに向けた各社との戦略的提携も、今後は加速していくことになるだろう。


継続する技術分野に対する積極投資

 これまでの2つのポイントは、サンにとっては新たな取り組みだといえるが、3つめ以降のポイントは、従来からのサンの戦略とは一切変わらないものだといえる。

 それは、テクノロジーに対する継続的な投資である。

 サンは、CPU、OSまでも自ら開発する数少ないベンダーの1社だ。その開発費の負担が業績悪化につながったとの指摘もあるが、サンは、その姿勢を崩すつもりはない。

 米国本社の発表によると、CMT(チップマルチスレッディング)技術の採用によるSPARCチップのスループットの向上、次期SPARCとなる「Niagara(ナイアガラ=開発コードネーム)」や、次世代の「Rock(ロック=開発コードネーム)」への継続的な開発投資に関して、手綱を緩めるつもりはない。

 経営層には、ここにサンの差異化ポイントが存在するとの判断があり、それに対するスタンスを変えるつもりはないからだ。


オープンソース化をさらに加速

 そして、最後が、オープンソース戦略のさらなる加速だ。

 ちょうど10周年を迎えたJavaコミュニティの活動に代表されるように、サンは、以前からオープン化への取り組みを推進してきたが、さらに、ここにきてSolarisのオープンソース化にも取り組みはじめている。

 Solarisのオープンソース化は、まさに戦略的ともいえるもので、Linuxに流れつつあったエンジニアやユーザー企業を食い止めるには大きな意味がある。

 同社では、「Linuxが抱えていたスケーラビリティやセキュリティといった課題を、Solarisによって補完できる。この2つのOSの組み合わせが、UNIXベースの質の高いソリューションの実現につながるだろう」と語る。

 Linux+Solarisという2つのOSの連携という、思いもかけない組み合わせを訴えるのが狙いであり、そのために、SolarisをLinuxと同じ土俵に乗せたといもいえるだろう。

 このように、サンは、いくつかの新たな戦略によって、大きくかじ取りをはじめたともいえる。

 なかでも、ポイントは、システムカンパニーへの脱皮の切り札といえる「Sun Grid」を、いかにスムーズに市場に浸透させられるかにかかっているといえるだろう。

 ここ数年、静かに潜行していた感があったサンだが、次なる一手に向けた準備が着々と進んでいる。

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(大河原 克行)
2005/5/31 14:05