キヤノン販売が本気で挑むITサービス事業



キヤノン販売本社

 キヤノン販売は、ITサービス事業を、中期経営計画における成長戦略のひとつに位置づけている。

 キヤノン販売のイメージというと、デジカメ、一眼レフカメラ、インクジェットプリンタといった「キヤノン」ブランドのコンシューマ製品の国内販売、卸を担当する販売会社として、または、コピアに代表される複写機の販売会社としてのイメージが強く、ITサービス事業というイメージは薄いかもしれない。

 だが、いまやキヤノン販売にとって、ITサービス事業は同社の柱のひとつへと成長しつつある。


キヤノン販売の村瀬治男社長

 今年1月に発表した中期経営計画では、キヤノン販売の村瀬治男社長が、グループビジョンとして、「人の創造力を支援するソリューションプロデューサー、キヤノングループ」を掲げ、卸売り体質からの脱皮と、情報サービス企業への脱却、そしてコンサルティング機能の強化を目指すことを示している。この実現のためには、ITサービス事業への注力が今後の重点ポイントとなるのは明らかで、中期経営計画を推進する上で、卸からの脱却を目指すキヤノン販売の象徴的事業と、ITサービス事業が位置づけられていることがわかるだろう。

 村瀬社長は、「ITサービス市場におけるキヤノンブランドの確立」を、同事業におけるビジョンとして掲げ、2004年は2369億円だったITサービス事業の売上高を、2007年には3050億円を目標とする計画を打ち出している。これが達成されれば、2007年度のキヤノン販売グループの売上高のうち、33%をITサービスが占めることになるという。


4月に発表されたMEAP-Lite対応のオフィス向けカラーレーザープリンタ「Satera」シリーズ

 キヤノン販売は、ITサービス事業を4つの分野に分けている。

 ひとつは、情報系ビジネスと呼ばれる分野だ。

 これは、キヤノン製マルチファンクションプリンタ(MFP)やレーザービームプリンタ(LBP)をベースに、その上で帳票ソリューションなどの製品群を提供するというものであり、いわば、キヤノンらしいビジネスといえる分野である。

 ここで同社独自の展開として特筆できるのが、MEAPアプリケーションである。

 MEAPは、Multifunctional Embedded Application Platformの略称で、Javaで書かれたアプリケーションを、MFP上で動作させるプラットフォーム。先ごろ、LBP上での利用を想定したMEAP-Liteも投入し、相互プラットフォームの高い互換性によって、より戦略的なMEAPアプリケーションの展開が可能となっている。

 最近では、個人情報保護法や、e-文書法の施行に伴って、文書セキュリティに対する要求が高まっており、印刷情報追跡システムなどのセキュリティソリューションをMEAPとの連動で提供するといった動きも出ている。


 2つめは基幹系ビジネスだ。ここでもMEAPアプリケーションへの取り組みが欠かせない。すでに、オービックビジネスコンサルタントの商奉行や、PCAの商魂との連動ソリューションや、HULFTとも連動を図るなど、MFPを基幹系システムのクライアントと位置づけた提案も開始されている。今後はERPとの連携やデータベース連携などにも範囲を拡大させる計画である。

 キヤノン販売が、この基幹系分野に積極的に乗り出す背景には、見逃せないポイントがある。それは、2003年に買収したキヤノンシステムソリューションズの存在だ。もともと住友金属工業の情報システム部門を設立母体に、住友金属システムソリューションズとして事業を拡大してきた同社は、その生い立ちからもわかるように、SI事業、サーバーソリューション事業、パッケージ製品事業と、基幹システム系にも強みを見せる。

 製造、流通、金融、医療、通信などの業種別ソリューションのほか、ERPやCRMおよび基盤運用保守などの業種横断型のソリューション展開を可能としており、社員1200人中、約8割がシステムエンジニアおよびプロジェクトマネージャーという、キヤノングループとしてはまさに異質の存在だ。

 「SEおよびPMの人的資産は、グループ全体の財産である。キヤノン販売のITサービス事業拡大の原動力となるのが当社の役割」とキヤノンシステムソリューションズの浅田和則社長は話す。

 キヤノンシステムソリューションズでは、今年度の重点課題として、金融向けのデータエントリーシステム、医療分野向けの電子カルテシステム、ERPによる業種テンプレートの開発などに力を注ぐほか、昨年発表したSAPとの提携をベースにしたERP事業の本格立ち上げ、キヤノン製医療分野向け製品との連動による医療ソリューション事業への展開などを推進する考えだ。

 また、ワンストップソリューションサービス体制の強化によって、コンサルティングから設計、開発、運用、保守までのトータルサポート体制を構築。5月11日には、キヤノンネットワークコミュニケーションズの大手町ソリューションセンター内に、運用サービスのための専用拠点をオープンさせる予定だ。

 そのほか、97年に設立した中国・上海の開発子会社では90人のSEを擁し、オフショアの開発体制を整えているほか、同社が住友金属工業のシステム部門時代から培った製造業向けのソリューションノウハウなどを活用した提案を行う予定だ。

 こうしたキヤノンシステムソリューションズの存在が、基幹系ビジネスへの本格参入を可能としている。キヤノン販売が、今後の中期経営計画のなかで、基幹系ビジネスの成長が最も重要なポイントとしているのも、同社の存在があるからだ。


ビジネスソリューションカンパニープレジデント・土門敬二常務取締役

 3つめは基盤系ビジネスだ。ここでは、ネットワークインフラ事業をベースに、iDCサービス、ASPサービス、情報セキュリティサービスなどを提供する。IP電話ソリューションや、ネットワークカメラを活用した情報セキュリティソリューションなどもこのなかに含まれる。

 ここでは、キヤノン販売の子会社であったキヤノテックとファストネットの合併により設立したキヤノンネットワークコミュニケーションズの果たす役割が大きい。

 さらに、今年3月に出資した日本SGIとの連携もこの分野で効果を発揮すると見られている。

 キヤノン販売ビジネスソリューションカンパニープレジデント・土門敬二常務取締役は、「日本SGIが持つ動画技術、プロードバンド技術を活用して、新たなソリューション提案が可能になる。SGIが持つ独自のビジュアライゼーション技術、3D技術は大変魅力的であり、ITサービス事業にとってはプラス要素になる」と、この資本提携に期待を寄せる。


 そして、4つめが、情報系、基幹系、基盤系をトータルでとらえるプロフェッショナルサービスである。

 すでにサービスを開始しているものの、キヤノンシステムソリューションズ、キヤノンネットワークコミュニケーションズ、そして、販売を担当するキヤノンシステム&サポートなどのグループ各社をあげて、この体制を強化することが今後の鍵といえる。キヤノンシステム&サポートでは、181拠点から24時間365日でサポートできる体制を確立した段階だが、今後、この分野に向けた体制づくりをいかに進めるかが注目されるところだ。


 一方、同社では、今年度の重点課題として、同社がこれまで得意としていた中小企業、大手企業に加えて、中堅企業への積極的な展開を行う姿勢を示している。

 この分野に対しては、キヤノン販売のエリア販売事業部やパートナー会社でのアプローチのほか、キヤノン販売GB販売事業部、キヤノンBM東京、神奈川、大阪の各社が取り組んでいたが、これらの連携によって、より戦略的に取り組んでいく予定だ。

 こうして見ると、キヤノン販売は、ここ数年にわたって、積極的なM&Aへの取り組みや、主要各社との提携によって、ITサービス事業を展開できる体制を整えてきた。ひとつひとつの動きについては、首を傾げさせるを得なかったものも多いが、それぞれの点が線でつながると、ITサービスを強力に推進する体制が確立されつつあるのは驚きだ。

 今後の鍵とされるプロフェッショナルサービスの強化についても、村瀬社長は、「コンサルティング力、提案力といったITサービスの上流部分で強みを発揮できるようにしたい。そのためには、コンサルティング要員の育成とともに、有効なM&Aも必要だと考えている。足りない部分を補完できる案件があれば、前向きに検討する」とも語っているだけに、これからどんな手を繰り出すかも注目しておきたいところだ。

 キヤノン販売は、中期経営計画達成の柱のひとつと位置づけるITサービス事業の拡大に向けて、いよいよシフトをトップギアに入れ始めたといえそうだ。

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(大河原 克行)
2005/4/28 21:37