マイクロソフトが取り組む3つのマイグレーション戦略



 今年7月から始まったマイクロソフトのFY2005のなかで、同社は3つのマイグレーション戦略を掲げている。

 ひとつは、国産コンピュータメーカー製品を中心に普及していたオフコンから、Windows Serverへの「レガシーマイグレーション」。2つめが、グループウェアとして最大シェアを誇るNotes/DominoからExchangeへのリプレースを図る「ノーツマイグレーション」。そして、最後が、数10万台ものインストールベースが現存するWindows NT ServerからWindows Server 2003あるいはWindows Storage Server 2003へとマイグレーションを図る「NTマイグレーション」である。


米Microsoft セールス&マーケティングおよびサービスグループ担当のケビン・ジョンソン グループバイスプレジデント

 今年4月に来日した米Microsoftのセールス&マーケティングおよびサービスグループ担当のケビン・ジョンソン グループバイスプレジデントは、今後、日本においてこれらの施策に取り組んでいくことを明らかにしていたが、そのプレゼンテーションでは、結果として、レガシーマイグレーションだけがクローズアップされ、ノーツマイグレーション、NTマイグレーションについては言葉だけが紹介されただけだったため、これらの施策については、ほとんどの媒体が紹介することなく終わってしまった。

 本来ならばもう少し強く訴えるべきテーマだっただけに、マーケティングには抜け目がないマイクロソフトにしては、珍しい失策といえるのかもしれない。


3つのマイグレーション戦略のそれぞれの背景

 3つのマイグレーション戦略には、それぞれの背景がある。

 レガシーマイグレーションでは、99年にリプレースが集中した西暦2000年問題を、オフコンからオフコンへのリプレースで乗り切った企業が、ここにきて再度リプレース時期を迎え始めたというタイミングであることが見逃せない。約5万台といわれるオフコンのインストールベースを、一気にWindows Server 2003に乗り換えさせようというわけだ。

 ノーツマイグレーションは、Notes/Dominoの今後のロードマップに対して不安を持ち始めたユーザーに対してのアプローチが柱となる。IBMは将来の方向性としてJavaベースのLotus Workplaceを提案しているが、ロードマップの見方によっては、Notes/Dominoをこれに統合することを前提にしたロードマップとも受け取れるものになっている。これに対する不安を持つユーザーを、このタイミングを機にExchangeに取り込もうというわけだ。

 そして、NTマイグレーションは、今年末でWindows NT Serverのサポート期間が切れるというマイクロソフトの事情が大きく作用していることが見逃せない。マイクロソフトとしても早期に、これを移行させることが鍵というわけだ。

 現在、Windows Serverを利用しているユーザーの5台に1台がWindows NT Serverだという。ターゲット市場としても極めて大きなインストールベースであるのがわかる。

 実は、これらのマイグレーション戦略は、昨年から形になりつつあった。しかし、今年に入ってからの施策はいずれも地に足のついたものだといえるようになった。


OBC・日本HP・マイクロソフトの協業内容

 例えば、レガシーマイグレーションは、これまでのようにかけ声先行ではなく、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、および奉行シリーズで知られるオービック・ビジネス・コンサルタント(OBC)と提携したキャンペーンを展開。国産オフコンの切り崩しを図りたい2社が加わることで、より戦略的な提案を進める体制を整えた。

 さらに、過去2年間に渡って展開してきた全国IT推進計画によって、全国の地場ディーラーとの提携関係を築きつつあるマイクロソフトが、地場ディーラーとの協力関係を生かして、オフコンユーザーにアプローチを進めることもできるというわけだ。

 あとは、この動きに国産メーカーをどう巻き込むか、という点にかかっているともいえる。

 オフコンで実績を持つ国産メーカーも、かつてのようにオフコンが利益を生む商材であるという時代は過ぎ、むしろ、メーカーにとってもサポートコスト負担が大きいという問題へと発展しつつある。この解決のためには、レガシーマイグレーションに自ら打って出る必要性に迫られているのだ。

 つまり、レガシーマイグレーションにおけるマイクロソフトとの協業は、かつてオフコンを導入してきた国産メーカーにとっても、有力な手だてになるのは間違いないだろう。


無償ツールの提供で戦略的展開

4月に発表されたノーツ移行施策

ノーツ診断レポートの中身

 ノーツマイグレーションとNTマイグレーションは、さらに戦略的だといえる。

 それは移行のきっかけを作るための各種ツールを情報システム部門などに無償で提供するという施策に打ってでているからだ。

 ノーツマイグレーションでは、これまでにも、Notes 4.6ユーザーの乗り換えをターゲットとして、ディレクトリの移行ツールであるActive Directory Converter for Lotus Notesや、メール/カレンダーの移行のためのExchange移行ウィザード、アプリケーションの移行を行うための.NET Converter for Lotus Notesの3つのツールを提供してきた。

 このほど、これに加えて、Application Reporter for Lotus Notesと、SharePoint Converter for Lotus Notesの2つのツールを新たに無償提供を開始した。

 Application Reporterは、企業のNotes環境を診断するもの。3つのクリックだけでNotes/Dominoの利用環境をレポートするというツールだ。

 マイクロソフトによると、同ツールを利用して解析した結果、過去1年以上にわたって使用されていないデータベースが半数以上あるNotesユーザーがほとんどだという。そうした実態を掌握でき、Exchangeへの移行にあたって、なにを移行すべきか、なにを捨てるべきかといったことをこのツールによって示すことができるという。

 さらに、この診断結果を「ノーツ無償診断サービス」として、調査会社によるコンサルティングを無償で受けることができる。ここには、第三者である調査会社のレポートとして、Notesが現在置かれた立場、ユーザーがとるべき選択肢、そしてユーザーのNotesの利用環境を客観的に判断する内容となっている。これもNotesユーザーを移行させるための戦略的サービスとなりそうだ。

 SharePoint Converterは、これまで提供してきた.NET Converterと重複するような感じにも受け取れるが、むしろ、.NET Converterによる移行プログラムを1年以上にわたって提供してきた結果、新たに投入されたツールだといえる。

 例えば、古くからのNotesユーザーや大規模ユーザーのなかには、1000以上ものアプリケーションを持っているというユーザーが少なくない。だが、これらのアプリケーションを分析してみると、.NET環境に移行しなくてもいいが、念のため移行はしておきたい、というアプリケーションが数多く存在するという。

 SharePoint Converterは、.NETまでは必要ないが、とりあえずはSharePoint Portal Serverへ手軽にアプリケーションを移行しておくという措置のために利用するツールというわけだ。ひとことでいえば、Exchangeへの移行の敷居をより低くするための戦略的ツールだといってもいいだろう。

 こうしたツールの追加とともに、日本HP、日本ユニシス、大塚商会、日立ソフトウェアエンジニアリング、NECネクサソリューションズなど11社とパートナーシップを組んで、ノーツマイグレーションを戦略的に推進し、ノーツマイグレーション企業を今後1年間で累計1000社にまで増やしたいとしている。


NTマイグレーションを支援する移行ツールキット

 一方のNTマイグレーションも、無償ツールの提供が核だ。

 同社では、「ファイルサーバー移行ツールキット」の無償提供を6月から開始しており、まずは、Windows NT Serverを導入しているユーザーのうち約7割といわれるファイルサーバーとしての利用ユーザーの移行を支援する考えだ。

 ファイルサーバー移行ツールキットは、米国では、FSMT(File Server Migration Toolkit)として提供されているツールを日本語化したもの。ファイルサーバー移行ウィザードとDFS(分散ファイルシステム)統合ルートウィザードの2つから構成されており、複数あるファイルサーバー上のデータをシンプルな手順で新たなサーバーへ移行する支援ツールだ。これによって、移行のために必要となる期間や工数の算定、そのために必要となるコストの算出といった判断材料を提示。さらに、複雑化しているといわれる移行プロセスにおいて、移行の際に重要なデータを消去してしまったり、エンドユーザーの業務を中断することなく移行するといったように、移行の障害となりうる要素を回避することができるようになる。


ますます加速するマイグレーション戦略

 このように、マイクロソフトは各種のマイグレーションプログラムを、ここにきて一気に加速させている。

 この3つのマイグレーション戦略は、同社にとって極めて重要な戦略であると位置づけられているとともに、それぞれの戦略において、パートナー企業を巻き込んで展開しはじめているのが特筆できるといえよう。パートナーとの連携が遅れているNTマイグレーションでも、今後、ビジネスパートナー各社との連携施策が用意されることになりそうだ。

 これに加えて、今後は、UNIXからのリプラットフォーミングといった移行プログラムも、本格的に用意されることになりそうだ。

 マイクロソフトの数々のマイグレーション戦略は、さまざまなツールとサービスが揃い、パートナーとの連携が深まることで、いよいよ本格化することになるといえよう。

関連情報
(大河原 克行)
2004/7/20 11:02