デル・浜田社長が「低価格戦略脱却」宣言した理由とは?



デル株式会社 代表取締役社長の浜田宏氏

 デル株式会社の浜田宏社長が、8月2日のエンタープライズ事業戦略の説明会で、2つの宣言をした。

 ひとつは、「価格だけのデルではない」という宣言だ。

 これまではデルモデルや、直販ビジネスによる流通コストの削減効果を背景にした「低価格戦略」によってシェアを伸ばしてきたといわれるデルだが、「かつてのように価格が3割も4割も安いという時代は終わった」と浜田社長自らが、価格優位性による成長戦略を初めて否定したのだ。

 「サーバー分野では、わずか6年半前にはゼロだったものが、いまや20%以上のシェアをとり、1位、2位を争うメーカーになった。だが、この数年の事業を見ると、価格だけで売っているのではないことがわかる。もはや、デルが、価格戦略でアグレッシブであるとか、価格性能比が高いというイメージだけで売る時代ではない」と続ける。

 そして、もうひとつの宣言が、「真のエンタープライズカンパニーになる」というものだ。

 浜田社長は、「基幹システムを対象にしたビジネスにも積極的に食い込んでいく」と言い切る。

 これまで、デルのイメージは、やはり低価格パソコンメーカーという印象を背景に、クライアントPC分野には食い込めても、基幹サーバーなどへの導入は難しいというものである。ましてや、メインフレームからの置き換えは、デルのコンピュータ事業からは最も遠い領域といえた。

 しかし、いまや、デルにおいてもエンタープライズ事業は徐々に存在感を増している。

 ワールドワイドで見てもエンタープライズビジネスが同社売上高の約2割を占め、日本でも、デル・プロフェッショナル・サービスといったコンサルティングサービスでの実績が出始めているからだ。

 今回の浜田社長の発言の背景には、ここ数年にわたる同社のエンタープライズ事業の取り組みを助走として捉え、いよいよ基幹システムにも打って出られる体制が整いつつあり、まさに、この分野に本格的に攻め入っていく宣言ともいえるのだ。


米DellのCEO ケビン・ロリンズ氏

米Dellが描くエンタープライズ戦略

 先頃来日した米Dellのケビン・ロリンズCEOは、「今後、エンタープライズ分野への展開が最大の課題である」と言い切る。デルにとっては、日本のみならず、全世界共通の課題が基幹ビジネスへの展開となっている。

 浜田社長は「エンタープライズカンパニーに向けて、思い切って舵を切る。今日はこの宣言の日だともいえる」と繰り返し強調する。

 浜田社長の2つの宣言を実現する上で、共通の取り組みともいえるのが、「サービス事業」への取り組みということになる。

 もちろん、今回の宣言とともに発表した第8世代のサーバー製品群、ラインアップの拡充をすすめているEMCとの提携によるストレージ製品群といったハードウェアや、マイクロソフト、オラクルとの強力な提携関係によるソフトウェア製品群の存在も見逃せない。

 だが、エンタープライズ事業を本格的に加速させる上では、やはりサービス事業が重要な鍵となるのだ。

 浜田社長も、そのあたりを示唆するように次のように話す。

 「サービス事業をいかに強化するかが当社にとって重要な取り組みとなる。いまは、まだ大手メインフレーマと比較しても、体制は小さく、最後発メーカーという立場でしかない。最初なのだから、初心者と同じだし、初日から同等の規模の体制を整えることはできない。しかし、すでにIAサーバーに関する取り組みではユーザーから高い評価を得ており、日本一優秀な体制だと自負している。この質を維持しながら、人員規模や、サービスメニューの範囲を拡大していく」。

 とくに、浜田社長は、「導入前のコンサルティング、プレセールスよりも、導入後のサポート、ポストセールスのエンジニアの強化に力を注ぎたい」と話す。

 実際、デルは、コンサルティングチームの人材確保に力を注いでいる。浜田社長もこの人員強化が最重点課題だと話す。

 コンサルティングファームや大手外資系ベンダーのコンサルタントおよび技術者を相次ぎ採用して、同部門の体制を一気に強化させる考えだ。

 そして、8月からは大企業向けのエンタープライズ専任チームを新たに編成し、体制整備に乗り出している。

 ユーザーターゲットは、メインフレームユーザーとUNIXユーザー。当面は、UNIXサーバー領域を、IAサーバー+Linux、あるいはIAサーバー+Windows Serverで置き換える戦略が主軸となりそうだが、「もちろん、IAサーバー同士の競合も激しくなる」として、IAサーバーを巡る国産ベンダーとの正面対決にも徹底的に挑んでいく考えだ。

 また、「すでに30年間にわたって、メインフレームを使い続けているユーザーと商談しているが、2年に一回、数億円をかけて買い換えているという。しかも、多額の運用、保守費用がかかっている。すでに、そのメーカーの枠から抜け出られない状況にある。これをIAサーバーによって解決したい」とメインフレームユーザーにおける具体的なリプレース案件にも取り組んでいることを明かす。


米Dellですでに展開しているECC(エンタープライズカスタマセンター)北米のエンタープライズユーザーを24時間365日で監視する。エンタープライズ向けサービス事業の中核的存在だ。日本での展開も期待されるところ

 だが、デルは、先頃、日経パソコン誌が発表した調査で、これまで2年間連続でトップとなっていたクライアントパソコンのサポートランキングナンバーワンの座をNECに譲るどころか、一気に4位にまで転落した。

 クライアントパソコンと、エンタープライズ向けのサービス/サポートの質は異なるが、同社がサポートを語る上での看板ともいえる勲章だっただけに、サービス事業を強化することをベースに展開するはずだった2つの宣言発表を前にして、まさに足下をすくわれるような状況に陥ったともいえる。

 浜田社長の性格からして、今後、サポートナンパーワンの奪回とともに、サービス事業の強化には徹底的に力を注ぎ、この分野における評価で一気に巻き返しを図るであろうことは容易に想像できる。

 むしろ、サポートナンバーワンからの脱落が、エンタープライズ分野およびクライアントパソコン分野での、当初の計画以上の徹底的なサポート強化につながることになるかもしれない。

 競合メーカーにとっては、かえって「要注意」になったともいえそうだ。

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(大河原 克行)
2004/8/12 00:01