再び浮上する謎 GoogleのMotorola買収


 GoogleのMotorola Mobility買収が発表から10カ月を経てついに完了した。「Motorolaの膨大な特許を取得して、ライバルの特許訴訟攻撃からAndroidエコシステムを守る」というのが、しばしば語られる目的だが、それだけでは、125億ドルを投じた超大型買収の説明がつかないと考える者も多い。Googleの意図を探る試みが再び活発になっている。

特許の取得に1兆円?

 Motorola Mobilityは携帯電話やセットトップボックスを中心とするコンシューマー製品を製造しており、2011年1月のMotorolaのコンシューマー部門と企業・政府機関向け部門の分社で誕生した。同年8月、Googleが125億ドル(日本円で約1兆円)で買収すると発表した。これには各国の独禁法当局の調査を経ねばならなかったが、米国やEUなどに続いて先月、最後となった中国が承認したことで、ようやくゴーサインが出た。

 Googleの声明によると、買収の目的は2つある。一つは、両社でモバイルのイノベーションを加速すること。もう一つは携帯電話の老舗Motorola Mobilityが保有する特許ポートフォリオで、Androidエコシステムを守ることだ。

 このうち特に特許は切実な問題だ。メーカーは、Androidで採用している技術に含まれる特許のライセンス料を払っている。Microsoftなどのライバル企業が関連特許を保有(買い集めることも多い)して訴えてくるためだ。

 同じく携帯電話関連特許で訴訟バトルを繰り広げているAppleが、訴えられると同時に相手を訴えていることが多いのに比べ、Android端末メーカーは、しばしば一方的に訴えられている。GoogleがMotorolaの1万7000超の特許を保持すれば、この状況が変えられることになる。

 しかし、それにしても125億ドルは巨額だ。Googleの過去最大の企業買収はDouble Click(2007年)の31億ドルだったが、その4倍になる。特許獲得のためだけでは説明しづらい。それに、Motorola Mobilityは約2万人の従業員と、世界約100カ国大きな工場を持つ巨大ハードウェアメーカーでもある。これが一体どう活用されるのか、Googleが何を考えているのか、あらためて検証する動きがメディアで出ている。


新生Motorolaの次の動き

 独自の“Google Phone”のためにハードメーカーを持ったというのが、多くのユーザーの期待しているとことだろう。確かに、MotorolaとGoogleがソフトとハードを緊密に連携させて強力な製品を送り出す、というのは魅力的な考えだ。両社で真っ向からiPhoneに勝負を挑むとなれば、携帯業界の勢力地図が塗り替えられるかもしれない。

 しかし、おおかたはこうした見方に懐疑的だ。まず当局は、買収の承認に当たってメーカー間の公平性を損なわないことを条件としており、GoogleはMotorolaを“えこひいき”できない。また、そんなことがあればAndroidエコシステムをGoogle自らが脅かすことにもなりかねない。

 実際、Motorola MobilityとGoogleのAndroidチームは、これまで一切の接点を持っていないという。Androidの責任者であるAndy Rubin氏は今年2月、「(両者の間には)文字通り、ファイアウォールが築かれている」とコメント。「彼らは引き続きMotorolaブランドの製品を、同じチームで作っていくだろう」と述べている。

 では、どんな可能性があるのだろう。

 まず、Computerworldは、企業向けソリューションに打って出る可能性を指摘する。Androidは、セキュリティ懸念とさまざまなバージョンの混在による管理の難しさがネックになって、エンタープライズへの採用が進んでいない。だが、Motorola Mobilityが昨年買収したMDM(モバイルデバイス管理)ソフトベンダーの3LMによって、この状況が変わるという。Computerworldは3LMの技術がAndroidの将来バージョンに搭載されると推測している。

 CNet Newsは、今後のMotorola Mobilityの方向として、「そのまま独立運営」「Androidのためのショーケースとする」「Googleへの垂直統合」「事業分離」の4つの可能性を挙げている。

 このうち「Androidのためのショーケース」は、標準的なAndroid端末をMotorola Mobilityから提供することで、Android OSの悩みの種「分岐」の問題に対処しようというもので、有力な見方だ。

 この見方を補強する材料として、複数のメーカーが同じAndroid端末を製造するという構想がある。5月15日付のWall Street Journalは、Googleが直接販売する「Nexus」ブランド端末の製造を、従来の1社だけから5社で製造する方式に変更したと報じている。Motorolaが他メーカーを脅かすことなく、開発と製造を主導することができそうだ。

 CNet Newsは、「そのまま独立運営」や、Motorolaの“えこひいき”になる「垂直統合」の可能性は低いと見ており、ショーケースのほかには、最後の「事業分離」が五分五分と読んでいる。GoogleがMotorolaのハードウェア事業を売却して、特許を手元に残すというものだ。

 ただ、いずれに進むとしても、Motorola Mobilityの累積赤字がGoogleの節税対策となるメリットがあることから、しばらくは大きな動きがないだろうと予想している。


モバイル広告の開拓

 Wired.comは、新生Motorola Mobilityを率いるDennis Woodside CEOに注目して、広告がカギだとしている。

 Woodside氏はGoogleの米大陸地域担当責任者として、3年間で米国の売上高を108億ドルから175億ドルに引き上げた人物だ。だが、ハードウェアのプロジェクトで働いたこともなければ、コンシューマーエレクトロニクスやモバイル分野での経験もなく、エンジニアでも設計者でも、サプライチャネル・マネジャーでもない。Motorola Mobilityという会社には似つかわしくないように見える。

 Wired.comは「Woodside氏が、前M&A法務担当で、数十億ドルになったGoogleの30カ国以上のビジネス(特に広告サイド)を監督してきた人物」であり、その役目は、「モバイル広告の開拓」であると指摘する。その上で、調査会社CCS Insightのアナリストの次のコメントを引用している。

 「もし、Woodside氏がMotorola Mobilityを、省電力の表示技術、Androidを統合したハードウェアなどを、広告を共有するためのイノベーションセンターとして活用するなら、Googleのパートナーを後押しすることになるだろう」

 そうであれば、Googleの説く「モバイルのイノベーション加速」の意味も想像できる。Androidのためのショーケースは、Google広告のショーケースにもなる。ありそうな選択肢である。


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(行宮翔太=Infostand)
2012/6/4 08:51