「7インチタブレットは最初から失敗」「Androidは断片化」 Jobs節が炸裂


 世界が不況にあえいでいる中で、過去最高の決算を発表するのは、ずいぶん気持ちが良いに違いない。Appleは10月18日、売上高203億ドル、純利益43億ドルの2010年度第4四半期(7-9月)決算を発表した。四半期ベースの過去最高で、カンファレンスコールにはCEOのSteve Jobs氏が2年ぶりに姿を現し、その勢いでライバルをこきおろした。標的はAndroidだ。

「断片化したAndroidよりも統合したiOSが支持されるはず」

 カンファレンスコールの中でJobs氏は、今四半期にiPhonesの販売がBlackberryを上回ったことを挙げながら、「われわれはRIMを抜き、彼らはもはや追いついてくることはない」「Androidが最大のライバル」と発言した。実質的な戦いがiOS(iPhone/iPod)対Androidになったという認識を示したものだ。

 AppleはRIMに追いつき追い越したが、一方でAndroidには追い越されようとしている。メディアは両プラットフォームのシェア争いに注目しており、この日のJobs氏の発言の中からも、「オープンがいつも勝つとは限らない」「7インチのタブレットは初めから失敗」という2つが特に取り上げられた。

 「オープン」についてJobs氏は、「Googleが“オープン”であると主張するのは不誠実だ」と決めつけた。Androidでは244種類の端末と100を超えるバージョンが開発されており、Amazon、Vodafone、VerizonがそれぞれのAndroidマーケットを発表するなど断片化(fragmented)していると批判した。

 そして、2種類(iPhoneとiPad)のOSと、1つのAppStoreしかない「統合」されたiOSプラットフォームの方が、はるかに支持されるはずだと述べ、「もしGoogleがいう通り(オープンだった)としても、オープンがいつも勝つわけではない」と熱弁をふるった。

「7インチのタブレットは最初から死んでいる」

 「7インチのタブレットは初めから失敗」は、iPad(9.7インチ)よりも小さい7インチの画面サイズのタブレット端末群を酷評したものだ。現在タブレットの投入を予定しているメーカーの多くが7インチモデルを用意している。Samsungが9月に発表した「GALAXY Tab」をはじめとするAndoroid端末を中心に、RIMの「BlackBerry PlayBook」や、Windowsを採用したものなどが控えている。

 Jobs氏は、7インチのタブレットはiPadの45%の画面面積しかなく、ユーザーにとって小さすぎ、価格面で競争をしかけてきても勝ち目はない、と述べ、「最初から失敗(DOA=dead on arrival、もともとは「到着時死亡」の意)だ」と切って捨てた。さらに「各メーカーは痛い目に遭って、次の年にはもっと大きいサイズを出すだろう。これはユーザーと開発者を捨て去る行為となる」と予言した。

 7インチのタブレット端末は、Appleが次に投入するとうわさされていた。だが、Jobs氏はこの場で「7インチタブレットを作るつもりはない」と明確に否定。質疑応答では「そんな低価格市場を取りたいとは思わないからだ」と答えている。

 このニュースを受けて、とくに「7インチDOA説」に対する異論がどっと出てきた。

 「もはや敵ではない」と言われて怒りが収まらないRIMのCEO、Jim Balsillie氏は「われわれは7インチタブレットが、市場の大きな部分を占めることを知っている。それに、Adobe Flashのサポートが真のWeb体験を求めるユーザーにとって重要な問題であることもだ」とブログで反論した。

 メディアでも、Wired.comは、7インチのAndroidタブレットは低価格なだけでなく、軽く、持ちやすいと評価。iPadとは別のフォームファクターであって、直接争うことにはならないと分析した。Wall Street Journalは、モバイル性や、ポケットに入れて持ち歩けることが消費者にアピールするとの開発者の意見や、「開発者がAndroidプラットフォームに関心を持ってないと言えばウソになる」とのABI Researchのアナリストのコメントを紹介している。

 ところで、過去を振り返ると、Jobs氏が「駄目だ」「やらない」と言った市場に、前言を翻して参入した例はいくつもある。たとえば、「ビデオiPodを出すつもりはない(2004年)、「携帯電話ビジネスに興味はない」(2003年)、「タブレット製品を出す計画はない」(2003年)といった発言は、その後ひっくり返った。今回の発言も、ライバルをけん制する戦術的トークで、Apple自身の7インチタブレットを製品化する可能性がないとは言えない。

NY Timesの記事への反論?

 一方、「統合」が極めて重要とした発言の方は、本心からの言葉ではないか。決算発表の前日、New York Timesが「Appleの文化は iPhoneも損なうのか?」という記事を掲載している。Jobs氏はこれを読んだのではないだろうか。

 記事は、現在の米国ではAndroid端末の売れ行きがiPhoneを上回っていると指摘。さらに、かつてのパソコンのシェア争いの歴史を繰り返すのではないかとしている。AppleのMacintoshは最初は優位にありながら、Windowsに破れていった。製品を厳しくコントロールするAppleのやり方が、オープンにソフトウェアをライセンスする競合者たちと戦えるのかと問うものだ。Appleは同紙へのコメントを拒否していた。

 Jobs氏は、この記事に怒ったに違いない。製品のデザインと質への厳しい管理は彼のビジネス哲学に基づくものだ。彼のカンファレンスコールでの熱弁は、そのまま記事への反論のように思われる。

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(行宮翔太=Infostand)
2010/10/25 10:22