Microsoftの新検索ブランド「Bing」ついに登場-Google対抗キャンペーン展開


 Microsoftが「Kumo」のコード名で開発進めていた最新の検索エンジンと新ブランド「Bing」を発表した。GoogleとYahoo!に大きく後れをとっている検索分野で、大規模な広告キャンペーンとともに巻き返しを図る。キャッチフレーズは「意思決定エンジン」で、検索サービスの高機能化のトレンドに沿ったものだ。だが、Bingの前途を手放しで楽観視する声は少ない。

 サービスのオンライン化が進むとともに、検索ブランドの重要性は、ますます増している。Googleは検索をベースとして、さまざまなサービスを拡充し、ユーザーと広告主をひきつけて広告モデルを成功させた。

 これに対し、Microsoftは検索でのプレゼンスが低く、検索サービス「Live Search」のシェアは8%程度にとどまっている。MicrosoftにとってBingは、検索だけでなく、インターネットサービス分野を強化する上で重要な柱となる。

 Microsoftはこれまで、検索の強化を、1)自社開発、2)Yahoo!との提携―という少なくとも2つの方向性で進めてきた。Bingの発表は、このうち、1)の成果であるといえる。

 Microsoftの検索の刷新は、2006年にLive Searchを発表して以来で、今回、「検索」(Search)ではなく「意思決定」(Decision)という言葉を使うことで、差別化を図っている。

 具体的には、ナビゲーションや直感的なツールを含むユーザーインターフェイス、そしてグループ化などの検索結果の表示だ。ショッピング、地域情報、旅行、健康の4つのカテゴリー分類、レビューやユーザーによる評価をネット上から収集する機能などによって、“これまでの検索の一歩先”を提供するというのがMicrosoftの主張だ。

 このBingのローンチに合わせて、Microsoftは大々的な広告キャンペーンを展開する。Advertising Ageなどによると、Microsoftは広告代理店JWTと契約を結んでおり、その投入額は8000万ドル~1億ドルに及ぶという。Googleが2008年に費やした広告費が2500万ドルというから、その意気込みがうかがわれる。

 だが、Bingと大規模な広告キャンペーンをもってしても、検索分野でのMicrosoftの反撃がうまくいくと見る声は少ない。

 Advertising Ageは、Googleブランドの強さを指摘する。Googleは開始当初、品質、シンプルさ、ユーザーエクスペリエンスをもとに、時間をかけてブランドを構築した。現在、検索エンジンの品質はどこも同じレベルに達しており、乗り換えには、障害らしい障害はなく、ブランドが選択の決め手になるというわけだ。

 元Yahoo!幹部でEfficient FrontierのCEO、David Karnstedt氏は「Googleは早期にしかるべきユーザーとポジションを確立してユーザーを興奮させ、自社サービスに乗り換えさせた。一度Googleを使う習慣を身につけたユーザーを、他のサービスに乗り換えさせることは難しいだろう」とAdvertising Ageにコメントしている。

 またThe Registerは、Googleの果たした役割をかつてのMicrosoftになぞらえて説明する。「デスクトップと生産性ツール市場は、WindowsとOfficeの技術的視点から文化的に形づくられた。これと同じ方法で、Googleはインターネット検索の文化と技術をつくった」。Googleは“デスクトップにおけるMicrosoft”にあたるという見方である。

 そして、「Corelなどの企業、OpenOffice.orgやLinux関連のプロジェクトが、デスクトップでWindowsとOfficeに対抗できないように、Bingが、Microsoftの望む変化をもたらす可能性は低い」と結論づけている。

 それでも、Microsoftにとって明るい材料はある。同社が3月に開始した対Appleのノートパソコンキャンペーン「Laptop Hunters」(家電ショップで1000ドルの予算で、自分好みのノートPCを購入するCMシリーズ)が成功し、広告キャンペーンの効果を実証しているからだ。

 市場リサーチ会社YouGovのBrandIndexが公開した一般消費者の「価値」パーセプションのグラフでは、同キャンペーン開始後、Microsoftの認知度が上昇し、4月にはAppleを上回っている。Bingも、1億ドルのキャンペーンの内容次第では、大きな効果を出せるかもしれない

 一方、Google追撃を狙うのはMicrosoftだけではない。Yahoo!は現在、ホームページのリニューアルを進めているといわれており、背水の陣で臨んでいる。

 また、検索の新しいトレンドも起こっている。技術・科学計算ソフト「Mathematica」で知られるWolfram Researchは、“計算知識エンジン”と呼ぶ新タイプの検索サービス「Wolfram|Alpha」を公開した。Googleが拓いた検索エンジンの新しい時代を予見させるものだ。一方、「Wikipedia」のWikimedia Foundationは野心的な試み「WikiaSearch」の閉鎖を発表。Google出身者が立ち上げたCuilも開始から1年が経つが、大きなインパクトを与えておらず、未踏の世界の難しさもうかがわせる。

 AeroXperienceは、Bingをネーミングから分析して、「失敗するのではないか」と予想しながらも、「Googleには検索でライバルが必要だ」と述べている。たしかに、Googleの一人勝ち状態が続くことは、健全な市場につながらない。

 テクノロジーカンファレンス「D: All Things Digital」(The Wall Street Journal主催)でBingを発表したMicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏は、長期的に戦い抜く戦略であることを明らかにしている。また、同じカンファレンスに出席したYahoo!のCEO、Carol Bartz氏は、Microsoftとの買収再交渉に前向きな姿勢をにおわせている。Microsoftの逆襲は自社開発だけとは限らないのだ。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/6/1 09:00