やはり“高い買い物”だった-創業者Zennstrom氏が辞任したSkype



 Skypeの創業者Niklas Zennstrom氏がCEO職を辞任した。同社は2年前、約26億ドルという巨額で米eBayに買収されて世界を驚かせたが、その評価に見合う業績をあげられなかったためだという。IP電話で世界トップのSkypeだが、それでも十分ではないという。テクノロジー企業の評価がいかに難しいかを思い知らされる“事件”だ。


 「eBayのSkype買収金額は高すぎた」。10月9日、ハンガリーのブダペストで開催された技術・ビジネスイベント「ETRE07」で、辞任後初めて公の場に姿を現したZennstromはこう述懐した。どんなに急成長しても、買収時の評価額の前提となった期待に応えられないことがわかった、という。

 同1日のeBayの発表によると、Znnstrom氏は代表権を持たない会長職に退き、後任がみつかるまで、eBayの最高戦略責任者であるMichael van Swaaij氏が暫定CEOを務める。Zennstrom氏は「ETRE07」で、辞任は自ら決断したと述べている。

 eBayは、Zennstrom氏辞任とあわせて、買収時の「earn-out」合意に基づく将来の支払いについて、3億7500万ユーロ(5億3000万ドル)を支払って終了すると発表した。

 「earn-out」は「買収時契約による将来支払い義務」である。見込まれるユーザー数、利益目標に基づいて取り決められたもので、26億ドルとは別に、業績に応じて追加で支払うことになっていた。当初は12億ユーロ(約17億ドル)と設定されていたため、この部分が約3分の1に“評価替え”されたことになる。eBayは現時点で、3億7500万ユーロが妥当な額だと説明している。

 そして、これを織り込んだ四半期決算は、1998年の株式公開以来、初めての赤字決算となった。

 10月17日発表の第3四半期決算(2007年7-9月期)は、9億3600万ドルの純損失(前年同期は2億8100万ドルの純利益)となった。Skype関連で13億9000万ドル(earn-outの終結分を含む)の評価損を計上したためで、これを除くと、前年同期比53%増の5億9300万ドルの黒字という。本業は好調だが、Skypeがお荷物になってしまった形である。


 しかし、一般的にみると、Skype事業自体は整理が必要な状態なわけではない。同期の売上高は同96%の9800万ドル。登録ユーザー数も同81%増の2億4600万人と順調に増えている。だが、eBayにとっては、“それでは足りない”のである。

 eBayのCEO、Meg Whitman氏はThe Timesに次のように語っている。「われわれは、この評価損にはがっかりした。財務指標的には、当初の期待に届いていない。しかし、earn-outを解消するとともに、戦略方向転換をすることで、正しい道に戻ることができると強く期待している」

 評価損の発表にあわせてGartnerは、「Why eBay Was Both Right and Wrong About Skype」(なぜeBayはSkypeで正しく、かつ間違っていたのか」という分析レポートを出している。

 それによると、「正しさ」は、「コミュニケーションできるビジネスプロセス」「統合型コミュニケーションの人気」「Skypeの強力なブランド」に注目した点。そして、「Skypeが形成したエコシステム」だ。Skypeには、400種類以上のハードウェア、350のSkypeアプリケーションがあり、4000の開発者を擁するという。

 そして、「間違い」は、まず、「このテクノロジーへの過剰な支払い」「加入者ベースへの過剰な支払い」で、評価額が高すぎたことだという。Gartnerによると、Skypeの基本テクノロジーは、10分の1の価格で他から手に入ったはずだという。そして「ことを急ぎすぎた」こと。さらに、「この市場の競争面での障壁の低さ」を挙げ、代替サービスとして、 Yahoo!、Google、MSN、AOLが現れていることを指摘している。


 ともあれ、eBayはSkypeを見捨てたわけではない。再編して事業を立て直す計画だ。

 17日から19日にかけてサンフランシスコで開かれた「Web 2.0 Summit」に参加したWhitman氏は、ホストのTim O’Reilly氏の質問に答え、「少々がっかりはしたが、楽観的でいる。earn-outの終結後は、顧客に喜んでもらえるポジションにつけた。われわれは、今の時点で、売り上げや営業利益率の心配をしなくて済むようになった。Skypeはなお、大きな可能性を持っている」と語った。

 Whitman氏は、Skypeをもっと緊密に中核製品に統合し、パートナーとの協力で伸ばしてゆく考えだという。この方向を示す最初の動きとして10月16日に、News Corp傘下のMySpaceとの提携を発表している。MySpaceの登録ユーザーがIM経由で、Skypeネットワークに接続できるようにするものだ。

 また、18日付のBusinessWeek.comによると、Skypeは今月下旬、携帯電話を発表するという。コードネームで「white phone」と呼ばれているこの携帯電話はSkype自身が製造し、欧州のキャリア、 3 Mobileが販売することになっているという。まず、英国、イタリア、香港、オーストラリアで提供を開始し、他地域に拡大してゆく予定とされている。

 まだ、ビジネスモデルが明らかでないが、Skypeにとっては大きな転機となることは間違いないだろう。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/10/22 09:10