次のパラダイムシフト? 「クラウドコンピューティング」とは



 このところ、「クラウドコンピューティング」(cloud computing)という言葉を、よく見かけるようになった。つい先週もIBMとGoogleが、大学向けのクラウドコンピューティングを推進する「Academic Cluster Computing Initiative」を発表している。「Web 2.0」に続く流行語になりそうな予感だ。


 クラウドは、“インターネットの雲”を指し、ネットワークを雲の図で表すことから来ているという。クラウドコンピューティングをインターネットの“あちら側”と表現する人もいる。

 インターネット常時接続が普及して、さまざまな処理がサーバー側で行われるようになった。ユーザーのデスクトップで動いていたアプリケーションはサーバー側に、データはデータセンターに移動する。クラウドコンピューティングは、こうした環境を言う。アプリケーションをWeb経由で利用するSaaSと同じようにも思えるが、もう少し広い含みがあるようだ。

 早くから「クラウド」という言葉を使っているのが、GoogleのCEO、Eric Schmidt氏だ。米ZDNetのDonna Bogatin氏のブログによると、Schmidt氏は8月に開かれた検索エンジンのカンファレンス「Search Engine Strategies Conference」で次のように語ったという。「データサービスとアーキテクチャがサーバーにあるデータセンターでスタートする――(このデータセンターは)どこか“雲”の中にある」「適切なブラウザか適切なアクセスがあれば、PC、Mac、携帯電話、Blackberry、新たに登場するデバイスでもなんでもいい――雲にアクセスできる」

 Schmidt氏によると、ソフトウェアがパッケージとして販売された時代とは異なり、クラウドコンピューティングを支えるのは広告なのだという。「クラウドコンピューティングと広告は手を取り合って進む。これは新しいビジネスモデルで、広告がけん引して、ソフトウェアイノベーションのための資金を提供している」(Schmidt氏)。


 パッケージソフト販売で成長したMicrosoftも今年7月、パートナー企業向けカンファレンス「Worldwide Partner Conference」で、クラウドコンピューティングに取り組んでいると認めた。同社がクラウドコンピューティングに本気であるとすれば、180度の方向転換となる。

 米The New York Times紙が伝えたMicrosoft Windows Liveサービス担当ゼネラルマネージャ、Brian Hall氏のコメントによると、「コミュニケーションと共有のコンポーネントを取り出し、サービスを構築する。PC、Web、電話からアクセスできる個人/コミュニティ向けのサービスとアプリケーションのスイートのようなものとなるだろう」という。

 Microsoftは今後、プラットフォーム技術「Windows Live Core」の開発を進め、「Microsoft Live」ブランドを強化していく考えだ。また10月2日には、「Microsoft Office」のSaaS版となる「Microsoft Office Live Workspace」を発表している。

 Microsoftだけでなく、9月以降、IBMの「Lotus Symphony」、プレゼンソフトが加わった「Google Document」など、オフィスアプリケーション分野でSaaS関連の発表が相次いでいる。これまで、どちらかというと米Salesforceなどの業務アプリケーションが先行していた分野だが、一般ユーザー向けでも動きが活発化している。そして、Googleに刺激されて、巨人Microsoftも動き出した。本格的なインターネットサービス時代の幕開けを思わせる。クライアント/サーバーからのパラダイムシフトである。

 今回のIBMとGoogleの提携は、その象徴だろう。クラウドコンピューティングの実現には、サービスの提供だけでは不十分で、大規模なデータセンターと実際のユーザーが必要となる。両社が今回発表したイニシアティブは大学を対象としており、この部分の支援を狙う。両社は今後大規模クラスタを構築、将来的には1,600プロセッサで構成するプラットフォームにする計画という。すでにワシントン大学が参加しており、カーネギーメロン大学などいくつかの大学が参加を検討中という。


 これまでのところ、クラウドコンピューティングは主としてMicrosoft対Google(および、反Microsoft陣営)の戦いの場とみえるが、新しいベンチャー企業も市場を盛り上げそうだ。たとえば、デスクトップOSをSaaSとして提供する米Sapotek、米Zimdeskなどのベンチャー企業が生まれている。今後、こうしたベンチャー企業と大手が刺激しあって、新しいパラダイムに移行するのだろう。

 Gartnerは先ごろ発表した2008年の「戦略的技術トップ10」の一つとして、「Web Platform & WOA(Web Oriented Architecture)」を挙げている。そのなかで、クラウドコンピューティング環境を経由するWebプラットフォームが浮上してきたと指摘。企業は、このことが今後3~5年の間に自社にどんなインパクトを与えるかを見越しておかねばならない、としている。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/10/15 09:16