快進撃のFirefox、次のターゲットは企業



 長らくMicrosoftのInternet Explorer(IE)が支配してきたWebブラウザ分野で、Firefoxがシェアを伸ばしている。昨年の正式版の登場で一気に広がり、半年経った今もじわじわとIEを浸食している。Firefoxはオープンソースソースを身近なものにし、さらに企業分野をうかがう。だが、その行く手には課題や障壁も立ちはだかっている。

 Mozilla FoundationがFirefoxの正式版をリリースしたのは2004年11月9日。Webブラウザ市場はIEが独占してきたが、FirefoxはIEにはないタブ機能などでユーザーにアピールした。このころ、IEの脆弱性が相次いで報告され、またMicrosoftの対応が遅れたことも重なって、Firefoxは受け入れられていった。2005年2月時点で米国におけるIEのシェアは89.85%、2004年12月の91.8%から2ポイント下がっている。一方のFirefoxは、2004年12月時の4.06%から2005年2月には5.69%に増やしている(米WebSideStory調べ)。

 Firefoxはオープンソース・コミュニティで開発され、口コミと基金を募ってのマーケティングで広がった。が、今年に入って脆弱性の報告が続き、その勢いも減速しように見える。Mozilla Foundationは脆弱性にはパッチやアップデートで対応しながら、引き続き“IEより安全”と強調している。WebSideStoryが4月末に発表したWebブラウザでの最新のシェアを見ると、米国でのFirefoxのシェアは6.75%、ドイツでは22.5%。同社は、年内にも米国のシェアが2ケタに達する可能性も出てきたとみている。

 ダウンロード数で5000万を超えたFirefoxのユーザーの多くは、技術指向の強い人たちだといわれている。そのFirefoxの次なるターゲットが企業分野だ。コンサルティング会社の米Janco Associatesが行った、BtoBサイトにアクセスするWebブラウザの調査によると、ビジネスユーザーの10人に1人がFirefoxを利用しているという。だが、大きな壁が立ちはだかるとみる人も多い。もちろん、IE/Microsoftだ。

 Microsoftは、Windows OS、「Office」などのオフィスアプリケーション、「Internet Information Services」「Exchange Server」などのサーバー製品を持ち、これらの製品がIEの高いシェアに貢献している。企業の中にはこれらを組み合わせてIEを標準Webブラウザとしてシステム構築しているところも多い。実際、米Jupiter Researchの調査によると、従業員数1万人以上の大企業の場合、IEの利用率は97%にのぼるという。企業がシステム方針を変えない限りIEのシェアはほぼ固定といえる。同社のアナリストは、企業分野におけるIEの王座は当分不動だろうとしている。


 そんな中、5月13日、オープンソース推進で知られる米IBMが、社内でFirefoxを本格的に導入する方針を認めた。同社ではすでに1割程度の社員がFirefoxを利用しているという。さらに、利用促進のため、Firefoxを社内サーバーからダウンロードできるようにしたり、ヘルプデスクに専門知識を持つスタッフを配置するなどしている。標準技術に基づいており互換性に優れていることを評価したという。またFirefoxはオープンソースであることから、さまざまな追加機能が入手できることにも期待を寄せているようだ。

 Firefoxの利用を検討している企業は他にもある。Mozilla Japanは4月、日本でもFirefoxとThunderbird(Mozilla Foundationの電子メールクライアント)の導入案件があることを明らかにしている。

 障害はあるにしても、Firefoxには好材料もたくさんある。たとえば、デスクトップLinuxだ。まだ立ち上がっていない市場だが、公共機関や学校、それに企業も高い関心を示している。現在、米NovellのデスクトップLinux「SUSE LINUX Professional 9.3」にはWebブラウザとしてFirefoxがバンドルされているが、MicrosoftがIEで高いシェアを握るに至った経過を考えると、OSは重要な要素といえそうだ。また、同じくMozilla Foundationの電子メールクライアント、Thunderbirdはカレンダーなどの機能強化が予定されており、相乗効果も期待できる。

 受けて立つMicrosoftだが、Firefox人気を反省材料に態勢を引き締めている。同社は当初、「IEのアップデート(IE 7.0)は次期Windowsの「Longhorn」(開発コード名)と同時」としていたが、IEだけ前倒しし、今夏、ベータ版をリリースする予定だ。Microsoftのブログに掲示されたコメントによると、IE 7.0はタブ機能を備えるという。

 Webブラウザ市場の動向を予測することは難しい。だが、Firefoxがこの市場に起こした波は大きく、ユーザーにメリットをもたらしたことは誰もが認める事実だろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2005/5/23 09:00