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サーバー事業に拡大するLenovo、IBMのPCサーバー事業を買収 (「PC Plus」PCからの多角化戦略)

「PC Plus」PCからの多角化戦略

 この売却でのIBMの狙いは明確だ。同社は約10年越しで収益性の低いハードウェアからからソフトウェアとサービスへの移行を進めており、それに沿ったものだ。IBMのソフトウェアとシステム担当上級バイスプレジデントのSteve Mills氏は「IBMはシステムとソフトウェアのイノベーションにフォーカスできる。これによって、コグニティブ(認知)ソフトウェア、ビッグデータ、クラウドなどの戦略的事業分野に新しい種類の価値をもたらすことができる」とコメントしている。

 実際、IBMは2014年に入って急ピッチでクラウドやコグニティブソフトウェア関連の発表を行っている。コグニティブソフトウェアでは10億ドルを投じて人工知能「Watson」専門の事業部を設立することを発表しており、クラウドでは12億ドルを投じて15カ所のデータセンターを新設する計画を発表している。

 では、収益性で切り捨てられるサーバ事業を取得するLenovo側の狙いは何だろう。Lenovoは「この買収は、収益性の面で拡大し、拡張する事業に投資するというわれわれの姿勢を示すものだ」と説明している。こうしたPCからの拡大戦略を同社は「PC Plus」と呼んでおり、スマートフォンやタブレットなどのモバイル、そしてエンタープライズなどが含まれる。

 スマートフォンでは、参入が遅かったにもかかわらず、中国市場の規模とブランド力で上位に食い込む成長を見せている。x86サーバーのエンタープライズセグメントでは、すでに強化していたサーバー市場を加速することになる。New York Timesによると、IBMのx86事業取得によって、Lenovoのサーバー事業の売上規模は一気に10倍以上に拡大し、シェアも現在6位から3位に跳ね上がるという。

 New York TimesはLenovoの北米地区担当幹部の「戦略拡大にあたって論理的な動きだ。数年前に、PC事業だけではないことに気がついた」という言葉を引用している。PC市場は2013年はマイナス成長となったが、LenovoはPC事業の重要性も強調しており、「PC市場は2000億ドル市場だ。われわれは、まだその18%しかシェアをとっていない」と強気だ。

 こうしたLenovoの動きに対し、アナリストの多くは肯定的な見解を示している。香港のStanford C. Bernsteinのアナリスト、Alberto Moel氏は「Lenovoにとって(買収は)転換となるものだろう。サーバーはPCよりも収益性が高く、Lenovoがコストをきちんと制御して高い収益を生むことができれば成功する」とWral TechWireにコメントしている。

 Wral TechWireはIBMの顧客関係を手に入れることができるという指摘も紹介し、これによって「Lenovoはトップティアのエンタープライズサービス市場に入ることができる」とのBOCI Researchのアナリストの見解を引用している。

 それでもx86サーバーは、IBMの足を引っ張ってきた事業だ。マイナス事業を引き継ぐことについて、Reutersは中国市場にスポットをあてる。そして、中国政府が米国政府による盗聴などを危惧して米国企業ではなく地元企業からの調達を進めており、Lenovoなら中国市場での売上げを改善できると分析する。

 ComputerworldはLenovoの戦略を、SamsungやHuawei Technologies(華為技術)と同じ「マルチマーケット成長戦略」だと指摘した。「ここ数年、大手企業の多くが成長にあたって新しい市場に参入する方法を選んでいる。この傾向はとくにアジア企業によくみられる」とComputerworldは記し、Lenovoの動きを冷蔵庫からスマートフォンまで幅広い製品ポートフォリオを持つSamsungやHuaweiになぞらえる。

(岡田陽子=Infostand)