2026年10月7日 09:00
官公庁・大学・企業を支えるホスティング事業が主力に
両備システムズは、岡山県岡山市を拠点として、公共、医療、社会保障分野および民間企業向け情報サービスの提供(システム構築、アウトソーシング事業)や、ソフトウェア開発、データセンター事業、ネットワーク構築サービス、セキュリティ事業などを展開している。データセンターについては、岡山市内にデータセンター「Ryobi-IDC」2棟を有しており、ハウジングサービスのほか、ISMAP対応の仮想プラットフォームサービス「R-Cloud」や、ネットワーク接続サービスなどを提供している。
両備システムズが、データセンター事業の現状や急増するAI需要への対応についてどのように考えているのか、両備システムズ インフラビジネスカンパニー 副カンパニー長 データセンターMG事業部 事業部長の小西暁氏と、取締役上席執行役員 CIPO インフラビジネスカンパニー カンパニー長の下谷哲司氏に話を伺った。
巨大学習モデルではなく「エンドユーザーのAI利用」を支える
――昨今、データセンター業界ではGPUサーバーへの対応やAI需要が大きな注目を集めています。事業者によってスタンスが分かれるところですが、両備システムズとしての現状と方針をお聞かせください。
小西氏:現在の環境(おかやまクラウドセンター第1棟・第2棟)では、大規模な本格的水冷環境をご提供するのは難しいのが現状です。ただし、空冷で対応できる限界として、キャッピングや機器の間引き配置などを工夫し、1ラックあたり15kW〜20kW程度までの高負荷環境には対応しています。実際にお客様持ち込みによるGPUサーバー(NVIDIA H100など)もすでに稼働しています。
ただ、地域性もあり、巨大な学習モデル向けに大量のGPUを集積してホスティングする事業者とは、目指す方向性が異なります。そうしたベンダーを誘致するのではなく、あくまで「地域の団体・企業様が業務の中でAIを活用するためのインフラ」を整える方針です。
――現在持ち込まれているGPUサーバーは、どういった用途が多いのでしょうか。
小西氏:現時点では学術計算用途が中心ですね。自社でローカルLLMを動かしたいというエンドユーザー様からの引き合いはまだ少なく、GPUベンダー様やSaaS事業者様からの相談が先行している段階です。
まとまった単位での本格的な水冷対応や潤沢な受電容量の確保については、今後計画している「次の棟(第3棟)」で解決していく方針です。
――次期センターの設計においては、水冷対応はどのような形で検討されていますか?
小西氏:コンサルティング会社に入っていただき検討しているモックアップでは、「フロアの一部を水冷ゾーンとして区切る」という案が出ています。しかし、お客様が「基幹のIAサーバーとGPUサーバーが別室や別棟に分かれる」のは、導入時や障害対応時の運用面で問題視される場合があります。
現在でも大規模案件で物理的にルームを分けざるを得ないケースがありますが、機器同士の距離が離れることは極力避けたいご要望をいただきます。将来的な水冷技術の進展や設備の小型化を見据え、「通常のIAサーバー群の中に自然とGPUが混在し、どのラック列でも必要に応じて水冷が使える環境」を実現するのが理想だと考えています。
――生成AI以外の既存ビジネス、例えばハウジングやホスティング、プライベートクラウド需要の動向はいかがでしょうか。
小西氏:公共分野では自治体システムの「ガバメントクラウド」移行が進む一方で、移行スケジュールや要件の兼ね合いから、一時的に民間の地域クラウドやベンダークラウドへ移行・集約されるケースが出てきています。民間企業に関しても、クラウドシフトが進む一方で、全体の需要としては堅調に推移しています。
また特徴的な動きとして、古いリテール型データセンターの閉鎖に伴う「受け皿」としての引き合いがあります。単なるハウジングではなく、業務運用や保守が付随したレガシーシステムを、マネージドサービスとセットで引き受けてほしいというご相談です。現在、サーバー機器の価格高騰や極端な長納期化が起きていることもあり、延命や確実な移行先を求める声は根強く存在します。
25年後のデータセンター像と「光の速度の壁」
――本企画のテーマとして「25年後のデータセンター」を伺っていますが、将来のビジョンはどのように捉えていますか?
小西氏:極論を言えば、25年後には完全無人化が進み、大半が原子力発電所の至近に立地しているかもしれません(笑)。ただ、真面目な話をすると、GXなどの社会課題への対応やスケール効果による大規模事業集約が行われつつも、「現場に近接したエッジコンピューティングセンター」としての役割が強く残ると考えています。
製造業のスマートファクトリー化や自動運転・MaaSの進展には、超低遅延な超広帯域処理が不可欠です。どれほど通信技術やAPNのような光電融合技術が発達しても、光の速度の壁を超えることはできません。物理的な距離による遅延(レイテンシー)はゼロにできないため、各地域でのエッジ処理拠点は一定数必要となるでしょう。
下谷氏:産業の自動化やIoT、フィジカルAIが進むと、毎秒膨大なデータが生成されます。すべてをオンプレミスで抱えるのは管理上厳しく、パブリッククラウドに送っていては転送量課金と処理遅延の問題があります。
小西氏:例えば製造ラインで「即時に良品・不良品を判定する」画像認識AIでは、ミリ秒単位の遅れも生産性の低下につながります。また、沿岸部の工場などでは粉塵や湿気、振動などの影響で、構内にサーバーを置き続ける環境として適さないケースも多々あります。そうした現場に近い場所で、堅牢な設備と運用保守をセットで提供できる地域データセンターの価値は、今後さらに高まると思います。
ハイパースケーラーとの共存、そして「安心安全の砦」としてのデータセンター
――AWSやGoogle、Microsoftといった巨大パブリッククラウド(ハイパースケーラー)との棲み分けはどう考えていますか?
下谷氏:ハイパースケーラーは巨額の投資を行い、最新・最高のAIインフラを破格のコストで提供しています。これと真っ向から勝負するのではなく、「ハイブリッドでの賢い使い分け」がお客様にとって最善です。
パブリックに出して良いデータはコストパフォーマンスに優れるクラウドのAIを使い、機密性の高いデータや低遅延が求められる処理は地域のデータセンターやエッジに残す。データ主権(ソブリン)の観点も含め、お客様のデータの性質に応じた最適な配置を提案することが地域事業者の役割になると考えます。
――昨今、スピード重視で「コンテナ型」や「プレハブ型」のデータセンターを建てる動きもありますが、この点はいかがでしょうか。
小西氏:コンテナ型などは、コスト的にも優れるため、一時的な学習用途やデータの完全性、気密性が要求されない用途には向いていると考えます。一方で、ミッションクリティカルな推論処理やデータ損失が許されない業務システムには向かない面もあります。
下谷氏:安全・安心を第一とする両備システムズとしては、プレハブ型ではなく、強固な地盤の上にしっかりとした建物を建て、セキュリティと運用体制を担保したサービスを提供し続けたいと考えています。
運用省人化への挑戦とファシリティの課題
――データセンターの運用やファシリティ管理について、今取り組まれている課題を教えてください。
小西氏:将来の就業人口不足を見据え、省人化・無人化には積極的に挑戦しています。今年は二足歩行ロボットによる設備巡回検証を計画しているほか、サーバーのラック搭載作業を支援するパワースーツの導入も検討しています。
ソフトウェア面では、AIを用いたインシデント管理の自動化を進めています。障害発生時のお客様向けの連絡や報告書作成をAIに支援させるだけでも、現場SEやオペレーターの精神的負担を大きく減らすことができます。
――省エネ(PUE改善)やファシリティの環境対策についてはいかがですか?
小西氏:率直に申し上げて、空冷空調の効率化は根本的な構造変化や技術革新がない限り、大きな改善は難しいと考えます。弊社DCの現状を踏まえてのPUEの課題は、変圧器や各種設備での「電気回路の損失」です。空調機を省エネ化だけでなく、受変電ロス等を含めての全体的なPUEの改善が必要だと思います。
UPSを不要とするHVDC機器の一般化や、停電保持時間の規格見直しなど、IT機器側の革新にも期待しています。
岡山という地の利と自社エンジニアが生み出す独自の価値
――最後に、次期「第3棟」の展望と、両備システムズならではの強みを教えてください。
下谷氏:既存の2棟が満床に近づいていることから、第3棟の建設を計画しています。2029年頃の竣工を視野に検討中です。地場の団体や企業様が安心してAIや基幹システムの基盤を預けられる、地域に根ざした高信頼なデータセンターを目指しています。
他社との最大の差別化ポイントは、何よりも「岡山」という土地の圧倒的な安全性です。活断層や火山、原子力発電所が至近になく、大規模災害のリスクが低いという自然の地の利は、どんな最新設備にも勝る強みです。
そしてもう一つは、「人」と「総合IT力」です。施設工事の専門技術者やカスタマーエンジニアが自社に常駐しているだけでなく、社内にセキュリティ専門部隊やインフラ構築部隊を抱えています。単にラックや電源を貸すだけでなく、設計・構築から日々の保守運用、高度なセキュリティ対応までワンストップで伴走できる点こそが、私たちの最大の提供価値だと考えています。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。


