2026年9月29日 08:00
官公庁・大学・企業を支えるホスティング事業が主力に
ミライコミュニケーションネットワークは、岐阜県大垣市でデータセンターを運営するほか、システムコンサルティング、システムインテグレーション、システム開発・運用・保守などの事業を展開している。
ミライコミュニケーションネットワークがデータセンター事業の現状やAI需要への対応をどのように考えているかについて、代表取締役社長の伊藤義仁氏に話を伺った。
ホスティング・プライベートクラウドが事業を牽引
――「クラウド&データセンター完全ガイド」は創刊から25年を迎えました。この節目に、地域のデータセンター事業者が現在どのようなビジネスを展開し、今後どのような方向性を目指しているのかをお伺いしています。まずは、御社のデータセンター事業の現状についてお聞かせください。
伊藤氏:当社のデータセンター事業は、大きく分けて3つの柱があります。1つ目はラックスペースを貸し出す「ハウジング」、2つ目はサーバー環境を提供する「ホスティング(クラウドサービスを含む)」、そして3つ目が「ネットワークサービス」です。
この中で現在、最も主力となっているのがホスティングサービスです。売り上げの伸びが最も大きく、成長を牽引しています。利用用途としては、半分ほどが官公庁や大学関係のWebサーバーなどで、残る半分が民間企業での利用です。ECサイトのようなトランザクション重視のものはわずかで、多くは一般企業のWebサイトやメールサーバー、一部は大手ニュースサイトなどでも安定してご利用いただいています。
――パブリッククラウドの台頭やデジタル庁主導のクラウド移行など、市場環境の変化についてはどのように感じていらっしゃいますか。
伊藤氏:影響はもちろんあります。国が推進していることもあり、AWSをはじめとする海外メガクラウドへのシフトが進むケースも見られます。しかし、データの主権(データソブリン)という観点は無視できません。特に官公庁や重要データを扱う企業にとって、データが国内にあることは極めて重要です。また、海外事業者の場合、準拠法や管轄裁判所が海外になるリスクもあります。
そうした中で、当社は誰でも使えるパブリッククラウドではなく、特定のお客様が安全・柔軟に利用できる「プライベートクラウド」の提供に強みを持っており、ここが重要なターゲットになっています。
AI時代における「用途のすみ分け」とデータ蓄積需要
――昨今、AI需要の急拡大に伴い、高発熱・大電力を消費するGPUサーバー向けのデータセンターが大きな話題となっています。御社でもそうした引き合いはありますか。
伊藤氏:当社へのGPUサーバー設置に関する問い合わせは、ほとんどありません。当社のデータセンターは超大規模ファシリティではなく、高電力密度に特化した設計にはなっていないためです。
私は今後、データセンターの用途がより明確に分類・すみ分けされていくと考えています。AIの学習モデルを回すような専用データセンターは、都心や街中にある必要はなく、電力と回線さえ確保できれば山間部などにコンテナ型などで構築するのが効率的です。一方で、当社のように地場の利便性やアクセスの良さを提供するデータセンターとは、求められる要件もコスト構造も全く異なります。何でもできるデータセンターを目指すのは、コスト面からも現実的ではありません。
――AIやDXの進展は、御社のビジネスにどのような影響を与えると見ていますか。
伊藤氏:データ蓄積の受け皿としての需要は確実に増えると見ています。AI自体はツールですが、AIによって生成・処理されるデータ、あるいはペーパーレス化に伴って保存が必要になるエビデンスの量は爆発的に増加します。
さらに、防犯や防災、事故防止などで活用が進むネットワークカメラの映像データもその1つです。エッジ側のカメラ単体では保存しきれない大容量データを、ネットワーク経由で安全に保管するストレージ基盤として、地域に根ざしたデータセンターの役割はますます高まると考えています。
最大の運用課題は「セキュリティ」と「人材育成」
――ITインフラ運用の観点において、現在もっとも大きな課題と感じられている点はどこでしょうか。
伊藤氏:一言で言えば「セキュリティ対策」に尽きます。これに尽きると言っても過言ではありません。
近年はサイバー攻撃の手口も巧妙化しています。例えば、事業者の回線帯域を事前に調査した上で、その上限をわずかに超えるようなトラフィックを送りつけてくるDDoS攻撃などが発生しています。「帯域が太ければ耐えられる」という時代は終わり、いかに大元で悪意ある通信を遮断・制御できるかが問われています。また、ランサムウェアへの対策として、バックアップの重要性も再認識されています。
――そうした脅威に対応するための取り組みについて教えてください。自動化やAI活用の動きもありますが、現場ではいかがでしょうか。
伊藤氏:当社で最も注力しているのは「人材の育成」と「業務の標準化」です。単なるアラートのトリアージ程度であればツールで対応できますが、運用自動化や、日々進化する独自仕様のネットワーク機器・セキュリティ技術に対応するには、どうしても高いスキルを持ったエンジニアの存在が欠かせません。最新技術をキャッチアップする人材と、目の前のセキュアな運用を堅実に行う人材の双方が必要です。
ただ、業界全体として若手のインフラエンジニア不足は深刻です。仮想環境やパブリッククラウドの利用が中心となり、物理的なサーバーやネットワーク機器は触ったことがないという人も増えています。当社では、JANOG(日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ)の地域版である「ChuNOG」などのコミュニティ活動を通じて、地域の学生などに物理インフラやネットワークの面白さを伝える取り組みにも力を入れています。
ファシリティの現実解と、想定を超える自然災害への向き合い方
――ファシリティ面についてもお聞かせください。省エネ基準やカーボンニュートラルへの対応はどのように進められていますか。
伊藤氏:経済産業省が掲げる指標などに合わせ、当社でもPUEの数値を0.1刻みで改善していく地道な節電・省エネ施策を行っています。大垣市は地下水が豊富に出る土地柄ですので、地下水を有効活用した空調効率化などの強みもあります。
ただし、率直に申し上げて「環境性能が高いからこのデータセンターを契約する」というお客様は現状ほとんどいらっしゃいません。事業実態と乖離した過度な投資ではなく、現実的な運用努力を重ねることが重要だと捉えています。
――昨今激甚化している自然災害への備えや、今後のデータセンター新設・改修についての考えをお聞かせください。
伊藤氏:建物自体の耐震性などはもちろん基準を満たしていますが、近年頻発するゲリラ豪雨や線状降水帯などは、都市計画や建築当時の「設計想定」そのものを上回る規模で発生しています。「絶対に大丈夫です」と安易に言い切るのではなく、想定外のリスクを常に意識しながら対策を講じる必要があります。また、警察や自治体との連携も不可欠です。
もし今後、新しくデータセンターを手掛けるとしたら、莫大なコストをかけて更地から新築するよりも、構造的に頑丈な既存の建物を取得してリノベーションする方が現実的だと考えています。データセンターにとって最も重要な条件は「電力」と「ネットワーク」が安定して引き込める場所であるかどうかです。この2点さえ押さえていれば、目的に応じた適切な規模のデータセンターを展開できると考えています。
地域に開かれた、身近に感じられるデータセンターを目指して
――最後に、読者やユーザー企業の皆様に向けてメッセージをお願いします。
伊藤氏:データセンターというと、セキュリティの観点から「場所も非公開で、黒子としてひっそり存在している」というイメージを持たれがちです。しかし、ミライネットのデータセンターはあえて所在地を公開し、地域に根ざした「顔の見えるデータセンター」として運営しています。
最近はニュースやCMでもデータセンターという言葉を耳にする機会が増えました。遠くの大規模クラウドだけでなく、身近な地域で信頼して自社のデータを預けられるインフラが存在することを知っていただき、より親しみを持って活用していただければ嬉しく思います。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。


