クラウド&データセンター完全ガイド:インタビュー

高効率・低コスト・低環境負荷――OCPJが描く「ユーザーによる、ユーザーのためのデータセンター」

オープンコンピュートプロジェクトジャパン 座長 藤田龍太郎氏(左)、副座長 鵜澤幹夫氏(右)

ユーザーが自社のビジネスに最適なデータセンターを自ら創る――米フェイスブックのデータセンター戦略を基に発足したOpen Computing Project(OCP)は、高効率・低コスト・低環境負荷を追求した次世代データセンターの仕様を定め、業界全体で共有することを目指すプロジェクトだ。その日本版であるオープンコンピュートプロジェクトジャパン(OCPJ)を2013年1月に立ち上げた発起人の2人に、OCPのコンセプトや現在の活動内容などを語ってもらった。

「データセンターもサーバも、ユーザーがデザインすべきもの」

――OCPJを設立された経緯を振り返っていただけますか。

鵜澤●2011年の春にフェイスブックがオレゴン州に超巨大なデータセンターを開設して話題になりましたが、このとき施設内の写真が大量に公開されたのです。普通、データセンターは内部の写真なんて絶対公開しないですよね。なんて気前がいい会社なんだと驚いていたら、今度はデータセンターの仕様をすべてオープンにするという構想が伝わってきました。

本来なら門外不出なはずの施設や機器のスペックなどが、すべてドキュメントとして公開されたのです。これはすごいと藤田さんと2人で半ば興奮しながら日本語に翻訳しているうちに、だんだんと分かってきました。この人たちは本気でデータセンターの常識を変えようとしているんだ、と。

この年の秋、ニューヨークでOCP Summitが開かれるというので、日本語化したドキュメントを彼らに見せようと思い渡米しました。誰とも面識はありませんでしたが非常に喜んでくれました。その後、密接に連絡を取り合うようになって、藤田さんとOCPの日本版の立ち上げに奔走しました。最終的に、ワーキンググループ(WG)の骨格や“本家”との整合性まで調整して、2013年1月にOCPJの設立にこぎ着けました。

本家としては、米国のナレッジだけでなく、世界中の環境に適合可能なデータセンターを目指しています。例えば地震への対応といった問題は日本が考えてほしいというわけです。

――OCPJに大きな期待がかかっているのですね。

藤田●本家には、日本だけでなくAPAC地域全体を引っ張っていってほしいという意向があるようです。実際、日本で立ち上げたやり方を台湾にレクチャーして、5月にOCPT(Taiwan)がスタートしています。今は韓国と話をしていて、11月にエンジニアリング・ワークショップをソウルで開催しました。

本家では「OCPの活動に興味を持って参加する人材は豊富だが、組織運営のコアとなるメンバーがいない」という悩みがあったようです。そこに我々がOCPJとして活動を始め、APACに広がろうとしている。要請があれば、次も立ち上げに協力することになるでしょう。

――OCPが目指している次世代データセンターとはどのようなものなのでしょう。

藤田●サービス事業者が自社のサービスを運営するために最適なインフラをどう作るかというところから出発しています。ICT産業では従前、ベンダーが提供した製品ありきでサービスを始めるという構造があって、施設としてのデータセンターと、そこに設置する機器やソフトウェアもベンダー次第です。ですが一方では、オープンソース・ソフトウェア(OSS)の進展で、自分たちのやりたいことが、ソフトウェアの仕組みでかなりのところまでできるレベルになっています。

では、サービス事業者はデータセンターに一番何を求めるのか。それは当然ながら、極力コストのかからないデータセンターです。コストの大半を占めるのが電気代で、フェイスブックにしても、アマゾンやグーグルにしても莫大な電力を日々使っています。そうした企業は、自ら電力消費を減らす努力をしなければ、冗談でなく地球上の電気がなくなってしまいます。そこで、地球環境保護の観点からも電気代を大幅に下げて、それから大量のハードやソフトのリプレースを楽に行えるようにする。その際にはリプレースで不要になった機器の処分までを考える必要があります。OCPでは、データセンターだけでなく、そこにかかわるライフサイクル全体の処理系の確立を目指しています。

――ライフサイクル全体で持続性を持っていないといずれ立ちゆかなくなる。でも、今の構造のままでは改革は不可能だと。

鵜澤●OCPのチェアマンを務めるフランク・フランコフスキー(Frank Frankovsky)氏はよくこう言います。「データセンターもサーバも、ユーザーがデザインすべきものだ」と。ベンダーでも、ゼネコンでもなく、ユーザーです。OSSがそういうもので、そのメリットをすでに我々は享受していますよね。ならば、ハードウェアでも同じことができるだろうという考えです。

市販のサーバは、幅広い温度・湿度で動作できるよう、筐体やファンの設計が工夫されています。でも、データセンターに置くサーバであれば、それ自体が幅広い温度・湿度にしっかり対応している必要はありません。

だから、フェイスブックが使っているサーバは蓋もフロントパネルもありません。コネクタやスイッチは全部フロント側にあって、背面にはファンだけ。データセンターではホットアイルとコールドアイルを分離しますが、ホットアイルでの作業は過酷なので、人が立ち入れないようにしています。そうした設計に合うサーバが欲しくても、ベンダーは作ってくれません。ならば、自分で作ろうというのが発端です。

藤田●実際に機器の運用にあたるユーザーが考えて作れば、確実に運用コストが下がるのです。OCPではラックの仕様も定義しています(図1)。電源とUPSを格納し、直流のバスバーが後ろに通っていて、そこにOCP仕様のサーバやネットワーク機器のカードを挿せるようになっています。ラック自体がブレードサーバのシャーシのように機能し、カードの差し替えだけでサーバの交換や拡張、移行が行えます。

「ラックや機器の金属部分を生物分解する素材にしたい。日本にはマテリアルを手がけている会社が多いから紹介してほしい」という話もしていました。そこまで考えられているのです。どういうデータセンターにしたいのかというテーマにおいて、彼らの考えるサステナビリティーはすごく先にあります。

図1 OCPのオープンラックと電源ユニットのイメージ図(出典:OCP)

――ユーザーが欲しいものを自ら作るオープンハードの考え方は、既存のビジネスの枠組みにあるベンダーからは、まず強い抵抗にあうと思いますが。

藤田●そこが悩みなのですが、意外にもさまざまなベンダーが参加しています。どのみちニーズがなくならないCPUベンダーは当然として、いくつかのシステムベンダーからも賛同を得ています。この流れはもう無視できないということでしょう。

これまでシステムベンダーに製品供給してきた台湾のOEMメーカーも、今ではフェイスブックやアマゾン、グーグルが直接の顧客です。OSやBIOSの動作保証はベンダーの仕事ですが、フェイスブックなどは自分たちでそれができる。ただ、普通の企業では難しいので、OCPがそうした検証も担っていきます。

オープンの世界では、コントリビュートする技術が無二のものなら生き残れます。サービス事業者にシフトして活路を見いだすベンダーもあります。この流れを皆に伝えていくのも私たちの役目です。もう、旧来のビジネスにしがみついていても仕事はなくなるだけだから、今から新しい世界を目指しましょう、と。

失格失格日本発のグローバル標準を――OCPJ独自の取り組み

――OCPJの設立から1年を迎えようとしています。現在の会員数はどのぐらいですか。

藤田●95人、50社に達しました。会社として参加というより、インフラ分野のエンジニア個々人がコミュニティに参加しているかたちです。ITベンダーやサービス事業者から、電源やラックのメーカー、ファシリティ設計のゼネコンに至るまで、データセンターを構成するすべてのレイヤから参加があります。日本では他のレイヤと交流する機会がほとんどなかったところにOCPJができて、レイヤを越えて活発な交流や情報交換がなされています。

――OCPJでは7つのWGがあります(表1)。これらは本家のWGを日本にそのまま展開したものですか。

藤田●いえ、本家と密に連携しているのは「Compliance & Interoperability」だけで、後は日本独自です。なかでも「Earthquake measures」には大きな期待が寄せられています。日本のゼネコンの免震技術は世界トップレベルですから。海外でも免震性の高いデータセンターを作れるよう、建造物に関する日本独自の法規制なども紹介しながら、日本発グローバルの取り組みとして進めています。

表1 OCPJワーキンググループ一覧(出典:OCPJ2013年9月2日現在) ※最新情報をOCPJのWebサイトやFacebookページで公開中

――「White Data Center Project」がとても気になります。どんな活動をするWGなのでしょう。

藤田●北海道美唄市に雪冷データセンターを建設し運用する実証実験プロジェクトで、Whiteとは北海道の白い雪のことです。普段は自然空調ですが、電力消費がピークとなる夏場のみ雪で冷やします。冬に、雪が降って道路などを除雪した雪が溜まります。それを5、6mの山にして木片のチップを30cmくらいの厚みでかけておくと、溶けずにひと夏を越せるそうです。その雪山の下に水冷用のダクトを這わせて、水を冷やす。それをデータセンター内の空気と熱交換して、冷えた空気をファンで送るという仕組みです。ファシリティの設計にOCPのコンセプトを取り入れ、検証用として調達するOCP準拠のサーバー、電源、ラックアセンブリ、運用設計を通じてOCPコンポーネントに対する理解を深めることを目的としたWGです。

図2 White Data Center Projectでの雪冷の仕組み(出典:OCPJ)

――OCPの構想は、餅は餅屋的なレイヤごとの領域分担や、ファシリティ指標のTierなど、データセンターのこれまでの常識や業界標準を根底から覆すものに思えます。

藤田●その常識や業界標準は、サービスを提供する企業にとって本当に必要なのか、という問題意識から始まっています。コロケーションやハウジングの場合、Tier指標がないとお客さんは選ぶことができないし、事業者は、お客さんが持ち込むサーバのファンの向きや消費電力がバラバラだったりで効率を上げられません。

一方、OCPに参加している事業者は、自分たちもサービス提供側なので、余分なものは一切いらないという方針でデータセンターをデザインできます。クラウドが進展し、自前でデータセンターを持つよりインフラをサービスとして借りたほうが合理的だという考えが広まった結果、OCPが描く方向に世の中が変わりつつあるのです。

――1年間の活動で、日本で今後OCPのコンセプトがきちんと理解されていくという感触を得られましたか。

藤田●サービス事業者は、すでにそういう設計を始めています。通信キャリアもIaaS事業を手がけるようになって、次世代データセンターのことをよく研究しています。いずれ事例も出てきますよ。SIerが何を売って儲けようかといったことを考える時代ではもうありません。OCPJは今、起こっていることを業界全体で考える場でもあります。行動を起こさないと、全部アマゾンなど海外勢に持っていかれてしまいますから。

鵜澤●年会費を払えば、一方的にサービスが受けられるといった団体ではありません。データセンターをオープンソース化するという試みに、自分も何か貢献できそうだという方はぜひ参加してください。

――ありがとうございました。

(データセンター完全ガイド2014年冬号)