クラウド&データセンター完全ガイド:特別企画

データセンターが持続可能な社会のために取り組むべき次のアクションとは?

 地球規模の気候変動が進む現在、多くの企業にとってサステナビリティの向上は重要なテーマになっている。大量の電力を消費するデータセンターもこの例外ではなく、ユーザーである企業からの要望に応えて、サステナビリティ対策に戦略的に取り組む事を求められている。

データセンター利用拡大が、データセンターの膨大な電力消費を後押しする

 ここ数年、企業活動のデジタル化の推進とクラウドの進展によって、データセンター利用は急速に増大してきた。2020年にはCOVID-19の感染が拡大したことによりテレワークが増加しトラフィックが膨張、SaaSやVDIのニーズも急増したことから、企業のビジネス遂行におけるデータセンターの役割はさらに重要性を増している。市場調査会社Technavioは、世界のデータセンター市場は2020年から2024年の間で、3億487万米ドル成長すると予測している。そのなかでも、アジア太平洋地域での成長規模はグローバルの水準を大幅に上回る。

 そこで問題になるのが電力消費だ。データセンターは従来から、大量の電力を消費してきた。近年はメガクラウドの利用を想定したハイパースケールデータセンター(調査会社のIDCは5000サーバー以上、1000㎡以上の施設と定義している)の建設が盛んである一方、膨大な電力を消費するGPUを搭載したAIニーズのサーバーのデータセンター利用も拡大し、個々のデータセンターの電気使用量は増大するばかりだ。

 シュナイダーエレクトリックの推計では、2025年のICT業界のエネルギー使用量は世界全体の20.9%にまで膨れ上がり、CO2排出量も世界の5.5%を占める見込みだ。その大部分はデータセンターで消費される。

 もちろん、データセンター業界は、従来から電力消費の削減にも熱心に取り組んできており、それによって運用コストを抑制し、価格競争力やサービス向上を図ってきた。しかし、これまで企業内で消費されていたITの電力がデータセンターに集中していけば、それだけデータセンターでの消費量は増大する。

 そして、データセンターは、その膨大な電力消費を、従来のようなビジネスコストの改善以外のアプローチで解決することが要求されるようになってきている。その背景にあるのは温室効果ガスが社会の継続性に与える負の影響、それを解決するためのサステナビリティ向上の問題だ。

企業はデータセンターにサステナビリティ対策を要望する

 SDGsへの取り組みを公表する企業が増えているが、その前提には地球規模の気候変動に対する大きな危機感がある。温室効果ガスの排出を削減して持続可能な社会に貢献することが企業に求められており、「CSR報告書」とあわせて「サステナビリティレポート」を毎年発表する企業も増加している。

 企業は社内サーバーをデータセンターに預ければ、消費電力を抑制することは可能だが、ステークホルダーにはその説明だけでは十分ではない。アウトソース先が、サステナビリティ向上に取り組んでいることを評価する基準になってきているのだ。以前は、自社のビジネス継続性(BCP)を考えてデータセンターを選定する企業も多かったが、彼らの関心と企業の存在意義は、今や社会の持続可能性に比重を移してきている。

 このため、企業のデータセンター選定基準として、データセンターのサステナビリティ向上への取り組みが重要になってくる。調査会社451Research(注1)のレポート「Multi-tenant Datacenters and Sustainability : Ambitions and Reality」によれば、すでにデータセンター事業者の43%がデータセンターの構築と運用を改善するために、サステナビリティの向上に向け、ゴールとそこに至る通過点を設定した戦略的取り組みを実施していると回答している。

注1)451 Researchは、テクノロジー関連のグローバルな調査・アドバイザリー会社。同社は北米、EMEA、アジア太平洋、ラテンアメリカにまたがる6,600を超えるコロケーションおよびホールセールデータセンター施設のグローバルデータベース、451 Research Datacenter KnowledgeBaseを運用している。

データセンターはどのようにサステナビリティ向上に取り組むべきか

 同レポートは世界の800社以上のデータセンターを対象として、企業から要求されるサステナビリティ対策にどのように取り組んでいるかを調査している。対象となるデータセンターが置かれている国は米国、中国、インド、英国、フランスなどに加え、日本も含まれる。

 世界のデータセンター事業者は、すでにこの課題に取り組んでいる。前述のレポートによれば、過半数以上はサステナビリティ対策が今後競合との差別化要因となるとみなしており、その推進を顧客から契約ベースなどで要望されているという。これまでのところ、総合的な戦略的プログラムとして取り組んでいるデータセンターは43%であり、41%が部分的な取り組み、残りはまだインフラの効率化問題として取り扱っている。日本は他国に比べて戦略的なサステナビリティへの取り組みはまだまだ遅れている。

データセンターの資源効率と持続可能性に対するアプローチ(Multi-tenant Datacenters and Sustainability Fig.2: MTDC operators’approaches to resource efficiency and sustainability を元に作成)

 データセンター事業者はこの課題に対して、具体的にどのように取り組みを進めていく必要があるのだろうか? 考えなくてはならないのはデータセンターの資源効率化を実現するためのエネルギーマネジメントだ。これにはいくつかのアプローチがある。温室効果ガス削減のためには、自然エネルギーへのシフトや、温室効果ガス排出権を購入するなどの方法がある。一方、データセンターの電力消費効率を向上させることも重要だ。

 データセンターの電力消費で、大きな割合を占めるのは冷却コストで、データセンター事業者は以前からPUEなどの指標に注目し、電力消費を削減することに注力してきた。すでに国内でも1.1~1.2といったPUEを実現しているデータセンターも存在する。寒冷地などでは設計段階からフリークーリングを利用して空調の節電を行っているし、送風のシミュレーションで効率的なサーバールーム冷却を行っているデータセンターもある。サステナビリティ向上に取り組むためには、エネルギー最適化によるデータセンター自体の継続性向上を考えていく必要があるのだ。

 しかし、現状、効率化の観点からは取り組みがまだ十分とは言えない。たとえば、多くのデータセンターでは排熱不足による障害を回避するために、必要以上に低い温度設定を採用している。こうした冷却効率や配電を最適化していくために、インフラやシステムのアップデートが必要になる。

 その上でエネルギーマネジメントの可視化が必要だ。クラウドベースのDCIM(データセンターインフラストラクチャーマネジメント)ソフトウェアを導入し、リアルタイムにデータを分析し可視化することで、障害予測やスピーディーなレスポンスなど、効率的なデータセンター運用が可能になる。今後は、システム運用とリソース効率を監視し、AIによる障害予測や冷却調整、自動修復などの機能を搭載していくことで、運用の継続性と信頼性を向上し、ユーザー企業から期待される、高度なサステナビリティを実現していくことがデータセンターの戦略的な取り組みとして必要になる。

シュナイダーエレクトリックは、エネルギーマネジメントとオートメーションの効率を向上させる独自のプラットフォーム「EcoStrucxure IT」(https://ecostruxureit.com/?lang=ja)を提案するなど以前からデータセンターの効率化とサステナビリティ向上に強い関心を持って活動している。本稿で紹介した「Multi-tenant Datacenters and Sustainability」はシュナイダーエレクトリックが451Researchに依頼して作成したもので、下記URLからダウンロード可能(英語版)だ。グローバルなデータセンターのサステナビリティ向上への取り組みを確認することができる。