クラウド活用をシンプルに、TMJが挑んだメールとグループウェアのID統合
KCCSの「GreenOffice Directory」導入事例
コールセンター業務のアウトソーシングを企業から請け負っている株式会社テレマーケティングジャパン(以下、TMJ)は、株式会社福武書店(現 株式会社ベネッセコーポレーション)の「進研ゼミ」のコールセンターが分社化する形で設立された企業だ。現在、金融や製造、流通、公共、情報通信など約250社の顧客を持つ。
TMJでは、2010年12月に全社的に「Google Apps」を導入し、メールシステムをGmailに移行。併せて、グループウェアも「desknet's」に移行し、同社としては初のクラウド化を行った。移行にあたっては、KCCSのID管理システム「GreenOffice Directory」を採用し、Gmailとdesknet'sを社内のユーザーアカウントと同じID・パスワードで利用できるにしている。移行の目的やその実際について、TMJ CC統括本部 基盤構築部の許光秀氏と川田慎人氏、そして新システムの構築にあたった京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、KCCS)の谷口直樹氏と市川稔氏に話を伺った。
■運用コストや可用性、利便性を考えメールインフラをGmailに
株式会社テレマーケティングジャパン CC統括本部 基盤構築部 部長 許光秀氏 |
TMJでは現在、正社員と期間採用のオペレータを合わせて千数百人を抱えている。これらのスタッフが使うインフラとして、SMTPとPOPによるメールや、Lotus Notesのグループウェアが使われていたが、「老朽化していた」と許氏は語る。これらのリプレースがまず最重要課題としてあったという。
同時に、コールセンターの業務上、社外で働く人がリモートアクセスする必要も多く、グループウェアをWebベースのものにしたいという要求があった。メールについても、社外から携帯電話で送受信できることが求められていた。「それに加えて運用コストや可用性の面でも、社内でメールサーバーを維持管理することに限界を感じていたため、自社で持たない形を検討しました」(川田氏)。
株式会社テレマーケティングジャパン CC統括本部 基盤構築部 構築運用課 川田慎人氏 |
当初は国内のASPサービスなども検討していたが、価格や容量などの面でGmailが圧倒的なため、Google Appsの導入を決めた。グループウェアについても、競合製品と比較して機能面でdesknet'sを選んだ。
「導入にあたって、それまでにおつきあいがあったことと、社内システムとGmailをつなげるための基礎となるパッケージを持っていることから、KCCSさんにお声がけしました」(許氏)。
KCCSの谷口氏も「最初はKCCSからASPとしてメールサーバーを提供する形を提案していましたが、Gmailと比べると容量の面で圧倒的な開きがあり、Gmailを採用しました」と語る。メールの送受信だけであれば対抗の余地もあったが、TMJではメールをサーバーに残す運用形態をとっていたため、どうしても容量が必要になり、Gmailが圧倒的だったという。
■GreenOffice Directoryでユーザーアカウントを統合管理
新しいインフラでは、ユーザーIDを連携するための基盤として、KCCSのID管理システム「GreenOffice Directory」を採用。GreenOffice Directoryが人事管理システムの情報を元に、社内のActive Directoryやグループウェアのdesknet'sなどとユーザーIDを自動的に同期する。
そして、Active DirectoryとGoogle AppsのユーザーIDを連携させるための仕組みとして、株式会社インターナショナルシステムリサーチ(以下、ISR)のシングルサインオンシステム「Cloud Gate」を採用した。GmailのWebアクセスであれば直接Gmailで、POPアクセスであればCloud Gate経由で、携帯アクセスであれば社内の認証サーバー経由で認証することにより、メール自体はいずれも直接Gmailにアクセスして利用する。そのほか、メールのアーカイビングとして、これもGoogle社の「Postini」サービスを利用している。
こうして、グループウェアを2009年12月から、メールを2010年7月から移行。IDをGreenOffice Directoryで統合することで、各システムごとにIDの棚卸しなどをする必要がなくなった。
KCCSの谷口氏によれば「今回の事例では、もともとの社内システムでアカウントが統合されておらず、別々に設定したり手動で連携させたりといったことも行われていた。特に、期間採用のオペレータの入れかわりなどもあり、ユーザーIDの追加削除は頻繁に行われ、それをシステムごとに変更する必要があった。それをGreenOffice Directoryで1本化されたというのも、新しいインフラの利点だ。そのぶん、統合のために従来のユーザーIDを整理するのも、大変な作業だった」。結果としてTMJは、運用コストを約4割削減することに成功したという。
システム構成図 |
京セラコミュニケーションシステム株式会社 ICT営業本部 ソリューション営業2部 アウトソーシングサービス営業課長 市川稔氏 |
KCCSとしてもGmailとの連携は初めての作業であり、KCCSの市川氏は「KCCSにとっても大きな意味を持つプロジェクトだった」と振り返る。当時はGoogle Apps特有のノウハウがなかったため、Google Appsの代理店である株式会社電算システムと、ISRの2社の支援を得て構築した。
中でも苦労したのが、TMJで現場のオペレーターの移行ギャップをなくすため、GmailにPCのメーラーからPOPでアクセスできるようにしたことだという。Gmail自身はPOPアクセスの仕組みを持っているが、Cloud GateはWebでのアクセスを前提にしていて、POPアクセスでの認証には対応していなかった。そのため、Cloud Gateをカスタマイズするとともに、GreenOffice Directoryにもオプションモジュールを追加して対応した。
「ただ、導入してみると、Webベースで使う人もけっこう多く、Gmailのラボ機能を便利に使っている人もよく見かけます」と、許氏や川田氏は笑って説明する。
そうした苦労もあってか、TMJのシステム以後、KCCSでもGmailの案件がどんどん増えてきていて、ユーザー企業がGmailに興味を持っているのを感じるという。「今後はGoogle AppEngineなどを使ったSIも提案していきたい」(市川氏)と語る。
■Googleビデオなども活用
現在のところTMJでは、Google Appsの機能としてGmailのほかにGoogleビデオの機能を利用している。これは、リモートで働いているスタッフと会議をしたり、社長の話を流したりするのに利用しているという。許氏も「今後、そのほかのクラウドアプリケーションについても検証して利用を広げたいと考えており、たとえば、Google Sitesによる社内広報や、オンラインストレージサービスの利用、基幹系SaaSアプリケーションの利用を検討している」という。
また、川田氏も、「弊社はテレフォニー系中心の業務を手掛けているが、最新のクラウドと融合した提案をKCCSに期待したい」と語った。