事例紹介
タブレットPOSレジの利点は? 耐久性は? 全店導入したZoffに聞く
(2015/4/24 06:00)
メガネショップ「Zoff(ゾフ)」を全国に展開する株式会社インターメスティックは、全店舗のレジとして、iPadを使ったクラウド型POSレジサービス「クラウドPOS」(ソフトバンクテレコム株式会社)を採用した。4月中旬時点で、国内159店舗すべてのPOSレジを置き換え、システムのトータルコストを約2分の1に圧縮したという。
Zoffは、商業施設などに比較的小さな店舗を構えることが多く、オシャレなデザインのオリジナルメガネをリーズナブルな価格で販売しているSPA(製造小売業)だ。最近では、しなやかで軽い素材の「Zoff SMART」シリーズが人気商品となっている。
メガネで新しい業態を作ったインターメスティックが、どのような狙いでiPadとクラウドシステムによるPOSシステムを採用したのか。株式会社インターメスティックの得田雅史氏(情報システムグループ マネージャー、ダイレクトマーケティング事業部 マネージャー)に話を聞いた。
iPadを省スペースなPOSレジとして採用
「クラウドPOS」に乗り換えたの直接の理由は、POSレジが古くなって入れ替えの時期に来ていたことだ。2014年6月に、既存型・タブレット型のPOSレジについて各社の候補を比較した中から「クラウドPOS」を選んだ。
「実は、5~6年前にタブレットによるPOSレジがベンチャー企業から出はじめた頃から気になっていて、当時も検討の土台には挙がっていました」と得田氏は語る。Zoffの店舗は大小さまざまなため、省スペースで使えるタブレット型に魅力を感じていた。
しかし、当時のタブレット型では業務に必要な機能が足りないと判断し、採用には至らなかった。「たとえば返品業務の機能を持たずPCから操作する必要があったり、レシート出力機能がないといったことがありました」(得田氏)。
改めて2014年6月に「クラウドPOS」の採用を決めたのは、「いままでのPOSレジと同じことがしっかりできる」というシステムとしての完成度からだった。「開発にもともとPOSレジを作っていた会社が関わっており、しっかり作っているという印象を持ちました」ともいう。
導入は2014年10月から。最初は新規店舗の数店舗に導入し、そこで積んだ経験をもとに、2015年2月から全店舗(159店舗)に展開した。
メリットとしてまず感じたのは設置の容易さだった。得田氏によれば、従来型POSレジはメーカーが店舗にきてオンサイト対応で設置していた。が、「クラウドPOS」は本部からiPadとマニュアルを店舗に送り、店舗スタッフ自ら設置することが可能だった。レシートプリンタなどの周辺機器はBluetoothで接続。客面表示器(顧客に向けて金額を表示する画面)にはiPod touchを利用し、配線の取り回しも必要なくなった。
手軽さは各店舗からも好評のようで、「最初、各店舗スタッフは自分たちで設置しなくてはならないと身構えていたが、やってみたら簡単だったようです。レジ操作は大きく変わらないし、マニュアルをさっと見るだけで分かる。操作に対する問い合わせもほぼありませんでした」(同氏)という。
店舗スタッフは平均年齢が28.5歳。若い人が多いため、スマートフォン系の操作に抵抗はなかった。ただし「スワイプ」といった専門用語を知らない人もいたため、初期導入の段階で洗い出して、マニュアル作りに反映した。セットアップやトラブル対応に関するマニュアルの漏れも初期導入の段階で洗い出して追加していった。
アプリベースなのでカスタマイズが容易
従来型の専用POSシステムの課題として、壊れないようにガッチリと作られる反面、カスタマイズなどの柔軟性に劣る面があった。各店舗の要求に応じて改修しようとすると、どうしても費用や工数がかかってしまう。
この問題に関しても、iPadのPOSアプリとすることで改善された。「クラウドPOS」の標準アプリを基にカスタマイズしたものを使っているが、変更点としてはたとえば顧客の属性項目などに手を加えた。年齢、性別、新規顧客またはリピーター、自店リピーターまたは他店リピーターなどの入力項目を追加した。これらはZoffにとって戦略的に重要な情報という。これらを入力しないと会計できない「入力必須項目」として運用している。
「POSレジがアプリベースとなったため、カスタマイズが容易で、あとからアップデートして配信できる手軽さも利点です。客層の分類をより細分化しようと思ったときも、設定変更だけでできます」(同氏)。
もう1つの改善が見られたのが「商品管理」。メガネという商品の特性上、従来は商品管理(台帳化)に手間がかかっていたという。「フレームにはタグがあってそのバーコードから商品情報が読み取れるのですが、レンズは手作業で作成する台帳があって、そこから該当するレンズを選んでバーコードを読み取っています。会計のたびにレンズを探してスキャンしなければならず、誤スキャンしてやり直しということも発生していました。また、レンズが新しくなれば、その都度台帳を差し替える必要もありました」(同氏)。
新しいPOSレジでは、アプリの画面上でレンズを一覧し、タップするだけで済むようになった。さらに店舗ごとによく売れる商品を優先して一覧表示するなど、タッチ回数を極力減らして運用している。入居している商業施設の共通ポイントなど、店舗固有の機能にも対応できるようになったという。
リアルタイム集計が可能に、顧客管理システムも一新
レジ端末だけではなく、そこからデータを集めて集計するバックエンドのPOSシステムも大きく変わった。「クラウドPOS」と一緒に提供されるクラウド環境が利用されている。「これにより、リアルタイムで売上データを見られるようになりました」と得田氏。もちろん、従来型POSレジでも同じことはできるが、Zoffが使用していた機種は型番が古く、リアルタイム集計に対応していなかったという。
クラウド環境を利用することで、これまでオンプレミスで運用していたサーバーが不要になったのもメリットだ。それまで同社のオフィス内でまさに“自社運用”をしていたそうだが、サーバーが古くなると5年単位でハードウェアをリプレースしなければならず、その都度、初期費用と保守費用が発生していた。
「クラウドPOS」を採用することで、リプレース費用が不要となり、すべて月額制で利用できるようになった。もちろん、社内での管理工数もなくなる。「システムのトータルコストを約2分の1に圧縮できた」のは、この点が大きいという。
同社では現在、顧客管理システムも新たにクラウド型で開発しており、将来的に「クラウドPOS」と連携させる考えだ。「POSレジからも顧客データにアクセスできるようにします。オムニチャネル対応の強化や、データウェアハウスを組み合わせたデータ分析も今後検討したいですね」(得田氏)。
顧客管理システムは新しくすると店舗オペレーションにも関わるため、慎重に進める方針。来年の実運用をめどに進めているという。新しい顧客管理システムが導入された際には、各店舗にはiPadを複数台配備する予定だ。「アプリベースなので、その中から1台をレジの予備機として使うといった柔軟な運用が可能です」と得田氏。現時点でもすでに大型点でキャンペーンがあるときに、本部からiPadを送って2台体制でレジをこなし、最高売り上げを記録した例もあるという。
取材前、汎用タブレットによるPOSレジはハードウェアの耐久性が問題になるのではと懸念していたが、「予備機」という考え方でクリアになるようだ。「当社もはじめは耐久性を懸念されました。従来型POSレジと違って保証も十分ではありませんから。ただ、iPadも小さくて安価なので、予備機を導入しても特に問題ありません」(同氏)。
同社は今後も店舗を増やす計画で、それに伴ってシステムも拡大していく。将来的には今回のシステムに「在庫管理」も追加する考えだ。「商品や接客においてお客さまが便利で快適になるものをめざしています。システムも同様にお客さまの利便性をめざしていきます」(同氏)。
「今後、在庫切れで他店舗から取り寄せるということも減っていくと期待していいですか」と聞くと、「そのようにしたいですね」と笑顔で答えてくれた。