特別企画
顧客がスマートスイッチを選ぶ理由とは? 導入を進めるSIerとバッファローに話を聞く
(2015/6/29 06:00)
高速かつ安定したネットワークを支える“次”の「スイッチ」として、スマートスイッチが徐々に認知され始めている。これまで多くの場面で採用されてきたインテリジェントスイッチに近い機能と性能を実現しながら、頻繁には使われない一部の機能を省くなどしてコストメリットを追求しており、従業員のさほど多くない中小規模環境を中心に採用する例が広がりつつある。
今回は、そのスマートスイッチの顧客への導入を今まさに進めているSI企業ミツイワと、スマートスイッチ「BS-GSシリーズ」の製造を手がけるバッファローの担当者に、スマートスイッチ導入の経緯とポイントを聞いた。
安心、安定、高速で安価……顧客ニーズを満たせるスマートスイッチ
ミツイワは、1964年創業以来50余年、全国に26のサポート拠点を持つSIベンダーとして、情報ネットワーク機器の販売、システム・ネットワーク構築・サポートを手掛けてきた。近年は、創業以来続けてきた特定のベンダーに関わるビジネスに加え、マルチベンダー化も推し進めており、「ICTトータルサービスカンパニー」として、顧客からの幅広いニーズに対応できる体制を作りあげている。
そんな中で、昨今重要視されているセキュリティ対策を限られた予算で検討する企業も多く、注目度も増してきているのがバッファローのスマートスイッチだ。「同価格帯のスイッチと比べ、安価で高機能、安定性もあり、提案の選択肢の一つとして注目している」と、同社 サービスインテグレーション本部の鈴木邦宏氏は語る。
最近では、全国に200店舗以上を展開するインターネットカフェの運営企業に、全店合計で数千台規模のスマートスイッチを導入する案件がスタートしている。
Webブラウジングやチャット、ネットゲームなど、インターネット接続サービスの提供がメインとなるインターネットカフェにとって、その店舗内に構築するネットワーク設備はまさに「商売道具」。何よりもまず一番に安定性と高いセキュリティが求められ、さらに高速であることも重要になる。
鈴木氏によれば、ウイルス感染によるトラブルを経験したことがあるというそのインターネットカフェでは、とりわけセキュリティに対する課題意識がかなり大きかったとのこと。そこで、同一のLAN環境に接続しながら、隣席のPCのネットワークとは論理的に切り離せる「VLAN」の機能を備えたバッファローのスイッチ「BS-GSシリーズ」を同氏は提案したわけだ。
「BS-GSシリーズ」は、バッファローがインテリジェントスイッチの次世代の姿と位置付ける「スマートスイッチ」と呼ばれる製品。インテリジェントスイッチに匹敵する多機能さと高性能を誇りながらも大幅なコストダウンが図られており、中小企業でも大量導入しやすい製品となっている。セキュリティ対策に有効なVLANを利用できる点だけでなく、数千台規模で導入することを考えれば、コスト面も大きな検討材料の1つとなることは言うまでもない。
安価でもトラブルは起こさない
もちろんそれ以外にもインターネットカフェで「BS-GSシリーズ」が選ばれた理由はいくつかある。1つはギガビット対応だ。上位のインターネット回線のギガビット化が進んだことにより、インターネットカフェにおいてもギガビット対応が利用者に対するアピールポイントの1つとなった。集客に直接的に影響するネット接続のギガビット化は、今や必須とも言える要素なのだという。
また、「BS-GSシリーズ」はファンレスモデルである(48ポートモデルを除く)ことも大きいとのこと。インターネットカフェ内の基本的なネットワーク構成は、24ポートのメインとなるスマートスイッチを基点に、“エッジスイッチ”と呼ばれる16ポートもしくは8ポートのスマートスイッチがぶら下がる形。このうちエッジスイッチは、場合によっては利用者に近い位置に設置することもあり、ファンを内蔵したスイッチだと、音の問題や、ほこりなどのゴミを巻き込み故障の原因となりやすい、といった問題がある。ファンレスであれば、そういった心配は一切ない。
さらに、「流通量が多く、安定しているのも採用の理由の1つ」と同氏は明かす。インターネットカフェの店舗展開のスピードは速く、それに対応するためには、市場の流通在庫が常に多い製品でなければならない。以上のような条件を満たすスイッチ製品はほかにほとんどなく、しかも「BS-GSシリーズ」は安価だ。「高ければいい製品なのは当然の話」と鈴木氏。しかし、「バッファロー製品は比較的安価でありながら信頼性が高い。そこに顧客(インターネットカフェ)のニーズがマッチした」のだと同氏は考えている。
ところで、安価で高機能な「BS-GSシリーズ」だが、ハードウェアの安定性はどうなのだろうか。鈴木氏によれば、スマートスイッチ以前にもバッファローのスイッチ製品を使用していたそのインターネットカフェでは、「トラブルはほとんど起こっていない」のが実情だという。
バッファローの渡邊陽祐氏も、「われわれとしても、ほかのカテゴリーの製品と比べ、スイッチ自体はトラブルの少ない製品であるという感覚。もちろん工業製品なので、ポートの初期不良などはまれにあるが、いきなり使えなくなるというようなケースはほぼ聞かない」と、製品のクオリティに自信を見せる。
「BS-GSシリーズ」に最大5年間の製品保証(編集注:標準では3年、ユーザー登録すると5年になる)が付与されるのも、そうした自信の表れと言えるだろう。
ネットワークの末端まで管理するトレンドを多くの企業に
インターネットカフェのような業界以外にも、スマートスイッチのような高機能なネットワーク機器は求められているのだろうか。鈴木氏いわく、「中小企業からは、必要な機能を安価に導入したいというニーズが多い」とのこと。中でもVLANは要望が多く、次にループ検知機能も引き合いが強いのだとか。
データの輻輳などを引き起こし、時にはネットワーク全体にまで影響を与えるループを検知する機能は、今やコンシューマ向けのスイッチでも簡易的に搭載されるほど一般的になってきている。
企業においては末端のエッジスイッチがむき出しになっていて、従業員が勝手にLANケーブルを抜き差しできる状況になっていることもままあり、管理者の目の行き届かないところでループが発生する可能性がゼロではない。こうしたトラブルをしっかり検出してくれるループ検知機能は、やはり多くの企業にとって有用なものと認識されているようだ。
バッファローの「BS-GSシリーズ」には、そのほかにスイッチの各ポートの接続状況を監視できる「SNMP(Simple Network Management Protocol)」や、特定の種類のデータを優先的に処理させて遅延を抑える「QoS(Quality of Service)」といった、高機能型スイッチとして一般的な機能を一通り備えている。「必要ない機能まで盛りだくさんの他社製品もある。バッファローのスマートスイッチでは、ある程度機能は絞られるものの、市場ニーズには合っているのでは」と鈴木氏。
多機能でも価格は上げない、“戦略的”なスイッチ
ただ、機能と価格は必ずしも連動しない、と話すのが、バッファローの加藤勇人氏だ。実際「BS-GSシリーズ」は、インテリジェントスイッチにあるようなコンソールを用いた設定手段などが省かれ、Webベースの管理画面からのみ制御できるようにしただけで、ほかの点で大きな差はない。では、なぜ、このわずかな違いでインテリジェントスイッチのおよそ半分の価格になっているのだろうか。
加藤氏によれば、もちろん開発上の努力もあるが、「ネットワークの末端まで管理する」というワールドワイドにおけるトレンドを、さまざまな規模の企業が取り入れられるよう、「ニーズをとらえながら、なるべく安価に使ってもらえるよう」に、調達におけるスケールメリットを含む、全社的な取り組みによって“戦略的に”価格設定した製品なのだという。
これまでノンインテリジェントスイッチを使っていた企業でも、それと変わらないコストで、インテリジェントスイッチと同等の機能を使い始められるようにするのが目的であり、「ネットワークの末端までたくさん使ってほしい商品」だから、という思いがあるようだ。
とはいえ、今のところはまだスマートスイッチがビジネス現場に広く浸透しているとは言えない。「販売台数自体は伸びているが、法人向け製品の性質上、出したらすぐに売れる、という形にならない」と加藤氏。渡邊氏も、「企業がスマートスイッチを検証する時間も必要だし、販売店もよく知っている従来製品を“売り慣れ”ているところがある」と打ち明ける。
スマートスイッチの普及には、今回のミツイワが手がけるインターネットカフェにおける導入事例のように、ネットワーク機材のリプレースタイミングに合わせた効果的な訴求と、ノンインテリジェントのユーザーに向けたさらなるアピールが必要になると、渡邊氏は考えている。
今後は「末端まで監視できるようになるというメリット」を分かりやすく訴えつつ、顧客が「こういうのがやりたい、と思った時に頭に浮かべてもらえるような製品に」することも目指して、バッファローのメイン事業の1つであるコンシューマ製品事業から得られる知見も取り入れながら、業界にスマートスイッチの新しい流れを作っていく方針だ。